・被害者帰国の期限を切り、金正恩政権が応じないなら白紙に戻し、強力な制裁をかけると通告すべきときだ!

・圧力を強めて、揺さぶりは逆効果だと知らせるべきだ!
・「口約束」に、日本は制裁解除という実質的行動を行った。
・第2に、拉致被害者は全員、北朝鮮当局の厳しい管理下にあり名簿がすでにあるのだから調査など必要ないのだが、「再調査」するというフィクションを受け入れた。
・第3に、主権侵害である拉致問題と他の人道問題を、同じ枠組みで扱うことを許容した。合意の根本的欠陥は、こちらがこれだけ譲歩しながら水面下で全被害者帰国を約束させていなかったことだ。
・上記3点で詰めが甘すぎる合意だった。
・「拉致問題を解決しなければ北朝鮮は未来を描くことが困難である」
・「拉致問題は官邸直轄でやる。そこに、外務省や警察庁など、日本の総力を結集しないとダメだ。加藤(勝信)氏は問題に精通しており、今回の改造で安倍首相が動きやすい体制をつくった」
・役立たない外務省主導にようやく見切りをつけた。
・全ての被害者の一括帰国という要求は取り下げることはできない、それを実現させないなら金正恩政権が「未来を描けない」ほどの制裁を行うと繰り返し伝えなければならない。
・被害者帰国の期限を切り、金正恩政権が応じないなら白紙に戻し、強力な制裁をかけると通告すべきときだ!




〜〜〜関連情報(参考)〜〜〜
2015.10.19 05:00更新 【正論】
北へ強力な制裁実施の通告を 東京基督教大学教授・西岡力

 拉致問題は今、どうなっているのか。私に、くりかえし投げかけられる質問だ。
 「勝負はついていない。十分勝ち目はある。今年に入り、水面下で激しいやりとりが続いている。安倍晋三首相は全ての被害者を返せという要求を下ろしていない。金正恩第1書記は被害者を返す決断をしていないが、対中関係悪化と外貨不足などから日本との協議を打ち切ることもできずにいる。
 そのため実務協議はほぼ1年開かれないが、繰り返し水面下の接触がなされている。金正恩氏は8月以降、日本世論に対して、非公式ルートなどを使い被害者の多くは本当に死んでいるのだという揺さぶり工作をかけている。圧力を強めて、揺さぶりは逆効果だと知らせるべきだ」と答えている。
≪詰めが甘い3つの譲歩≫
 昨年5月、日朝は「ストックホルム合意」を結び、7月に日本は朝鮮総連幹部の北朝鮮往来許可などの制裁解除を行った。北朝鮮は特別調査委員会なるものを立ち上げて、拉致被害者、拉致の可能性がある人を含む行方不明者、残留日本人・日本人妻、終戦直後に北朝鮮でなくなった邦人の遺骨と墓について調査することを約束した。合意は、以下の3点で日本の譲歩だった。
 第1に、北朝鮮が調査を開始するといったことは「口約束」にすぎないのに、日本は制裁解除という実質的行動を行った。第2に、拉致被害者は全員、北朝鮮当局の厳しい管理下にあり名簿がすでにあるのだから調査など必要ないのだが、「再調査」するというフィクションを受け入れた。第3に、主権侵害である拉致問題と他の人道問題を、同じ枠組みで扱うことを許容した。合意の根本的欠陥は、こちらがこれだけ譲歩しながら水面下で全被害者帰国を約束させていなかったことだ。今から見ると詰めが甘い合意だった。

 今年に入り、外務省幹部は1カ月に1回以上のペースで北朝鮮側と秘密接触をもってきた。そこで北朝鮮は、ストックホルム合意の弱点を突いてきた。すなわち、拉致被害者の調査に時間がかかっていて終わっていないとウソをつき、遺骨や在朝日本人らについては調査が終わったから、そちらから伝達したいと言ってきた。それに対して、安倍政権は拉致最優先という立場を崩さなかった。

≪公然化できなかった謀略情報≫
 3月にはマツタケ不正輸入事件に関連して朝鮮総連議長と副議長の自宅が家宅捜索された。北朝鮮は自国国会議員である2人の自宅の捜索は「主権侵害」だなどといいがかりをつけ、4月に「政府間対話が困難になっている」と脅した。それに対し安倍首相は「拉致問題を解決しなければ北朝鮮は未来を描くことが困難である」という毅然(きぜん)たる発言で反論した。その後も北朝鮮は秘密協議を続けた。つまり、脅しはきかなかった。
 8月以降、安倍政権は調査報告を早く出せと要求する代わりに、全ての被害者を帰国させよと北朝鮮に求め始めた。岸田文雄外相が8月6日、北朝鮮外相との会談で明確にそう発言し、9月13日、安倍首相も「直ちに拉致被害者全員を日本に返すよう強く要求してまいります」と明言した。
 一方、北朝鮮はほぼ同じ時期から「拉致被害者の調査も終わっている。新たな生存情報はない。日本が受け取りを拒否している」という謀略情報をさまざまなルートで流し出した。しかし9月21日、ジュネーブで行われた国連北朝鮮人権パネル・ディスカッションでは、日本の家族会代表と政府代表が拉致被害者の早期帰国を求めたのに対して、北朝鮮代表は拉致問題に一切言及しなかった。調査が終わっているという謀略情報を公然化することができなかった。

≪外務省から官邸主導へ≫
 中国が韓国と組んで金正恩政権を倒そうとしているという認識が、北朝鮮内部で急速に拡散し、経済制裁の結果、外貨の枯渇も深刻化している。金正恩氏が実質的に協議ができているのは安倍政権だけだ。だから、彼らは対日協議を中断できないのだ。

 安倍首相は内閣改造で拉致担当相を交代させた。菅義偉官房長官はこの人事について次のように解説した。「拉致問題は官邸直轄でやる。そこに、外務省や警察庁など、日本の総力を結集しないとダメだ。(拉致担当相を兼務する)加藤(勝信)氏は問題に精通しており、今回の改造で安倍首相が動きやすい体制をつくった」(夕刊フジ10月14日付)。
 外務省ではこの間、北朝鮮との交渉を担当してきた課長と局長がそろって交代する。
 安倍首相は外務省主導から新たに官邸主導の体制を築こうとしているように見える。警察庁が名指しされたのは「厳格な法執行」を強化する意図だろう。

 全ての被害者の一括帰国という要求は取り下げることはできない、それを実現させないなら金正恩政権が「未来を描けない」ほどの制裁を行うと繰り返し伝えなければならない。被害者帰国の期限を切り、それに応じないなら昨年の合意を白紙に戻し、強力な制裁をかけると通告すべきときだ。(にしおか つとむ)