企業の資金が動き始め、M&Aや海外投資が増え始めたら、経済活性化に期待できる。

・三条 健です。
・資金の行き場がないので、金融機関は国債を買い増している。
その結果、国債の利回りは非常に低い水準にある。つまり国債の市場価格はかつてないほど高くなっているのだ。この状況を国債バブルという。
・企業の余剰資金が今後どのような動きを示すのか?
が、日本の産業の未来を占う上で最大の注目点になる。今の状態で資金余剰状況が続くのか?、それとも資金が動き始めるのか?
企業の資金が動き始め、M&Aや海外投資が増え始めたら、経済活性化に期待できる。


〜〜〜メディア報道の一部<参考>〜〜〜

【日本の未来を考える】東京大・大学院教授 伊藤元重
2010.9.4 03:13
 
国債バブルが崩壊するとき

 日本の企業の貯蓄資金が積み上がって、膨大な手元資金がある。企業は積極的にコスト削減に励んできて、利益を拡大させ、それが潤沢な内部留保として残されているのだ。企業部門が潤沢な資金を持っているということは、経営の安定性からは好ましいことではある。しかし、企業が余剰資金を抱えて積極的に投資をしていないというのでは、企業の将来には不安を覚える。
企業が抱えている余剰資金は、企業が過度に保守的になっており、将来の利益を生み出す分野に積極的に投資をしていないということを意味するからだ。

 こうした批判があることは企業経営者もよく知っており、余った資金をどこに投じるのか真剣に考えているはずだ。円高が進み、海外展開を加速させることを考えている企業は多いはずだ。だから、海外への設備投資が活発化することが予想される。
国内において業績を改善していくためには、同一分野で競争する企業数が多すぎ、そして個々の企業が過度に多角化している現状を改善しなくてはいけない。
そのためには、国内で積極的なM&A(合併や吸収)が起こらなくてはいけない。このように考えると、企業の余剰資金が今後どのような動きを示すのかが、日本の産業の未来を占う上で注目点になる。
企業の手元資金が相変わらず積み上がるようなら、産業競争力の向上を期待することは難しいが、企業の資金が動き始め、M&Aや海外投資が増え始めたら、経済活性化に期待してもよい。

 問題は、こうした資金が動き始めたとき、日本の金融市場がどのように反応するのかということだ。現在は国債バブルの状況である。家計部門も企業部門も防衛的になっており余剰資金をため込んでいる。
その資金の行き場がないので、金融機関は国債を買い増している。その結果、国債の利回りは非常に低い水準にある。つまり国債の市場価格はかつてないほど高くなっているのだ。こうした状況を国債バブルと呼ぶ。このような状況は、経済に資金が潤沢にあること、そしてその資金が設備投資やM&Aなどに活発に利用されないことが前提になっている。
国債バブルは不況の産物でもあるのだ。それが結果的には政府の財政運営を助けている。金利が低いから膨大な債務が積み上がっていても、財政の金利負担は軽くなるからだ。

 もちろん、この状況をずっと続けることはできない。「バブル」とはそういうものであるのだ。今の状況を続けていけば政府の債務は際限なく増え続けてしまう。政府債務が無限に増え続けることはできないので、どこかで国債の価格は大きく下がることになる。これがバブルの崩壊である。財政破綻(はたん)の入り口と言ってもよいかもしれない。

 では企業の投資が活発化して、資金が動き始めたらどうなるだろうか。
その場合には国債市場に流れ込んでいた資金が投資に回り始め、国債金利が上がり始めるだろう。
国債バブルの前提であった余剰資金が減っていくからだ。余剰資金が投資に回っていくことは大歓迎だが、それが国債利回りを上げていくようだと財政運営はますます難しくなる。
今の状態で資金余剰状況が続くのか、
それとも資金が動き始めるのか、どちらにしても財政運営は難しくなる。(いとう もとしげ)