法律案が骨抜きにされないようにどうするか?がポイントである。

・三条 健です。
・下記の記述に注目すべき事項がある。
「政治が官僚組織を十分に使いこなせる実力を持つような政治体制をつくりあげることこそ、日本が長期の閉塞(へいそく)状態から脱却するための前提条件なのではないだろうか?」
「官僚組織の一部を政党傘下のシンクタンク機構に移すという考え方はどうか?  官僚に対抗できるだけの政策構想能力を政党が持てるように、一定の条件を満たした政党に法的に保証された予算措置を講じるのである。」
・法律が骨抜きにされないようにどうするか?がポイントである。


〜〜〜メディア報道の一部<参考>〜〜〜

【正論】三菱UFJリサーチ&コンサルティング理事長 中谷巌 
2010.9.10 03:45

■なぜ民主「政治主導」は底浅いか

◆なぜ声高に唱えるのか

 最近、「政治主導」がはやり言葉のように使われる。しかし、選挙によって選ばれた政治家が官僚の言いなりにならず、自らの掲げる政策を「政治主導」によって実行することは、民主主義の大前提だ。それなのに、日本の政治家はなぜ「政治主導」を声高に主張しなければならないのか。

 それは、戦後政治体制における「官僚制度の強靱(きょうじん)さ」とそれに比べた場合の圧倒的な「政治力の貧困」という現実があるからだろう。ありていに言えば、政治家に官僚をうまく使いこなす実力と自信がないから、「政治主導」という「かけ声」を発することで官僚を排除しようとするのであろう。

 しかし、実力のない政治家が「政治主導」という勇ましいかけ声の下、官僚の持つ情報や経験を無視して政策決定を推進すればどうなるか。それは現実を無視した子供じみた政策、長期展望を欠く政策が続出する結果になる。

 最近では、鳩山内閣普天間飛行場を巡る信じられない迷走があった。外務省や防衛省、専門家とのすりあわせが不十分だったことは明らかだ。あるいは、子ども手当や農家戸別所得補償、高速道路無料化、高校授業料無償化などの「ばらまき型」政策を財源のめどもないまま実行しようとした。それが財政危機を加速させたことは周知の通りである。

 求められているのは、官僚の利益誘導を排除しながら、彼らが持つ経験や知識をしたたかに活用するという、本当の意味での「政治主導」だ。ところが、政治が弱すぎることと、官僚組織が強力すぎるために、政治家は官僚の能力をうまく活用することができず、知らないうちに彼らの言いなりになってしまう。民主党政権はそれがいやで、あえて官僚に依存しない「政治主導」によって独自の政策作りを進めようとした。しかし、その多くが失敗し、国民の失望を買った。それが参議院選挙での民主党敗北の大きな要因になった。

 民主党政権発足後1年が経過する。勇ましく「政治主導」を掲げてみたものの、そこから出てくる政策の多くは残念ながら国民の失望を買うものであった。

 年末にかけ、来年度予算編成が最大の政治テーマになる。代表選の結果によっては論点が変わってくるが、今の民主党にとり当面の課題は、第一に、明らかに財政的に無理のある子ども手当など、マニフェストで約束した諸政策をいかに縮小し、財政への負荷を少なくするかという作業であろう。

◆仰天の政策コンテスト

 第二は、しかし、それだけだと有権者から「公約違反」と言われるだろうから、何とか予算に民主党色を出すために1兆円超の「特別枠」を予算化するという。この特別枠で何をするのかと興味を持っていたところ、何とこの使い道は民間からいろいろの意見を聞いて決めるかもしれないという。いわゆる「政策コンテスト」だ。

 私はこれには仰天した。有権者は政治家に予算の優先順位を決めてもらおうと思って投票したのではなかったか。それを「政策コンテスト」によって多くの民間の意見を聞いて決めたいという発想は全く理解に苦しむ。

◆戦後体制と政治力の貧困

 もちろん、過去の自公政権に十分なビジョンとそれを実行に移すだけの力が備わっていたかというと、そうとはいえない。実は、「政治力の貧困」という問題は戦後政治体制そのものの問題だからである。戦時中の「総動員体制」を改めないまま、今日まで引き継いだ戦後の政治体制においては、官僚が何事も「仕切る」ことが常識化された。政治に官僚の「仕切り」を阻止し、それを覆すだけの力は制度的に付与されなかった。

 それでは、政治に官僚と十分に渡り合える十分な力を持たせるには何が必要なのか。これは複雑な問題であり、すぐに答えは出ないが、たとえば、官僚組織の一部を政党傘下のシンクタンク機構に移すという考え方はどうか。官僚に対抗できるだけの政策構想能力を政党が持てるように、一定の条件を満たした政党に法的に保証された予算措置を講じるのである。これによって、政権党は官僚の言いなりになることなく、独自のビジョンに基づいた政策を策定し、実行する力を持てるようになる。

 民主党政権は、十分な政策構想能力と政策策定に必要な情報を持たないまま、「政治主導」を推進しようとした。その意気込みは評価すべきだが、結果的には「政治主導」の能力不足を露呈した。そして、それが明らかになった今、民主党政権はひょっとしたら、予算編成における官僚への「丸投げ」に戻ってしまうのではないか。あるいは、「官僚依存への回帰」が始まっているのではないか。これが杞憂(きゆう)であれば幸いだが、その可能性は皆無ではない。

 しかし、これでは日本の政治は永久によくならない。政治が官僚組織を十分に使いこなせる実力を持つような政治体制をつくりあげること。これこそ、日本が長期の閉塞(へいそく)状態から脱却するための前提条件なのではないだろうか。(なかたに いわお)