・中国軍には「対日勢力格差を大きくつけたうえで交渉を有利に運ぼう」との思惑

・中国では近年、政府幹部の腐敗や所得格差拡大などの不満に憤る民衆の大規模紛争が頻発。領土・領海などをめぐる日中衝突と共産党政権への日ごろの憤懣(ふんまん)が結合すれば、大変な事態になりかねない。
・昨年9月の中国漁船による日本巡視船体当たり事件で一触即発の危機を迎えた。
・8月初旬には、中国黒竜江省方正県が建てた旧満蒙開拓団員の慰霊碑が国内世論の激しい反発で、撤去。   江沢民政権期に反日教育をたたき込まれた「憤青(フェンチン)」と呼ばれる青年層の活動家5人が、碑に赤ペンキをかけるなどして喝采を博す事態に発展。方正県の措置は騒ぎの拡大を懸念した中央政府の意向。
・24日には、中国の漁業監視船2隻が沖縄・尖閣諸島沖の日本領海内に初侵入して緊張が再燃。
・中国軍には「対日勢力格差を大きくつけたうえで交渉を有利に運ぼう」との思惑がある。


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危うさはらむ日中関係
中国総局長・山本勲     2011.9.2 02:58
 日本と中国の不安定な関係が続いている。8月初旬には、中国黒竜江省方正県が建てた旧満蒙開拓団員の慰霊碑が国内世論の激しい反発で、撤去を余儀なくされた。24日には、中国の漁業監視船2隻が沖縄・尖閣諸島沖の日本領海内に初侵入して緊張が再燃した。日中関係が領土・領海や歴史問題で危機に陥る恐れはなんら軽減していない。来年秋の中国指導部の世代交代などで両国が政治の過渡期を迎える今後はさらに危うさが増すことを、お互いが肝に銘じて対策を急ぐ必要がある。
 日中関係は昨年9月の中国漁船による日本巡視船体当たり事件で一触即発の危機を迎えた。中国各地で2005年に続く大規模デモが相次いだのは記憶に新しい。
 東日本大震災後は改善の気配もみられた。被災者の秩序ある対応ぶりが中国国民の同情を集め、胡錦濤国家主席自ら北京の日本大使館で犠牲者に哀悼の意を表したことなどが日本国民の対中感情を和らげた。
 7月初め北京に着任した筆者も「1990年代から今世紀前半にかけての江沢民政権時に比べ、民衆の対日感情が改善している」との印象を受けた。80年代に当地に常駐し、離任後も数年おきに訪中を重ねてきたが、今回は日本人であるがための不愉快な経験をさせられることがほとんどない。
 対日関係を重視する胡錦濤政権のもとで「日中関係も曲折はあれ徐々に安定、成熟していくのでは」とのかすかな期待も抱いたほどだ。
 しかし現実はやはり厳しい。7月末に黒竜江省方正県が建てた旧満蒙開拓団員の慰霊碑に対する非難がインターネットなどを通じて急激に沸騰し、同県は10日余りで碑の撤去に追い込まれた。
 方正県では第二次大戦末期の旧ソ連軍侵攻で置き去りにされた満蒙開拓団の婦女子ら団員約5千人が死亡。63年には周恩来首相(当時)の指示で県内に日本人公墓を建造、今回は身元の判明した約250人の氏名を刻んだ慰霊碑を建てた。
 ところが江沢民政権期に反日教育をたたき込まれた「憤青(フェンチン)」と呼ばれる青年層の活動家5人が、碑に赤ペンキをかけるなどして喝采を博す事態に発展した。
 碑撤去が明らかになった8月6日付「環球時報」紙(党機関紙、人民日報発行)が撤去を求める社説を掲載していたことからも、方正県の措置は騒ぎの拡大を懸念した中央政府の意向によるとみられる。
 中国では近年、政府幹部の腐敗や所得格差拡大などの不満に憤る民衆の大規模紛争が頻発している。領土・領海などをめぐる日中衝突と共産党政権への日ごろの憤懣(ふんまん)が結合すれば、大変な事態になりかねない。
 最も懸念されるのは東シナ海尖閣諸島周辺での船舶、航空機などによる偶発事件だ。領土・領海の主権問題を棚上げし、(1)日中の軍事、海事当局間での事件防止のための信頼醸成や取り決め締結(2)発生時の処理メカニズム構築−などに真剣に取り組む必要がある。
 しかし両国の有識者間でその重要性が指摘されても、遅々としてはかどらない。強大化する中国軍には「対日勢力格差を大きくつけたうえで交渉を有利に運ぼう」との思惑があるかもしれない。だが、ひとたび紛争に火がつけば、共産党政権をも脅かす事態を招きかねないことを中国指導部に再認識してもらいたい。