内向きで閉鎖的な思考ではなく、アジアに活路を開いていくという発想こそが、日本国内の産業空洞化を防ぐ最良の方法だ!

・これからの日本の貿易や産業の姿を考えるとき、双方向で貿易が拡大する、この引力の法則が重要な示唆を与えている。
・ドイツの貿易依存度は70%を超えているが、日本のそれは30%前後である。
・アジアが成長を続け人々が豊かになるにつれて、アジアの彼らにとって近くにある品質が高い日本の商品やサービスを強烈な引力で引きつけ始めた!
・日本人が日本国内で商品やサービスを展開するのみではなく、国境をこえてアジア全域で売る時代になった! アジアの成長活力を日本に取り込むということだ!
・日本から近隣諸国に輸出できる商品は多い。内向きで閉鎖的な思考ではなく、アジアに活路を開いていくという発想こそが、日本国内の産業空洞化を防ぐ最良の方法だ!


〜〜〜関連情報<参考>〜〜〜
空洞化防ぐ最良の方法
東京大・大学院教授、伊藤元重 2011.10.8 02:59

 国際経済学に、貿易における引力モデルというものがある。近いものほど、そして質量の大きいものほど引き合う力が大きい、という物理学の引力の法則の考え方を借用したものである。距離の近い国の間、そして規模の大きな国の間の貿易ほど、大きくなるというものだ。言われてみれば当たり前のことだが、これがいろいろな貿易データでうまく当てはまる。この考え方を最初に提起したオランダの経済学者ティンバーゲンは、第1回のノーベル経済学賞を受賞している。
 これからの日本の貿易や産業の姿を考えるとき、この引力の法則が重要な示唆を与えていると思う。アジアの国々がどんどん大きくなっていく中で、引力が強く働いて日本からの輸出が拡大することが期待されるのだ。もちろん、日本のアジア諸国からの輸入も大きく拡大するだろう。つまり双方向で貿易が拡大するのだ。

 ドイツのように昔から近隣に大きな国があった所は、貿易量が大きい。輸出と輸入を合わせた金額をその国の経済規模であるGDPで割った数値を貿易依存度というが、ドイツの貿易依存度は70%を超えている。日本のそれは30%前後である。この違いは、日本には最近まで、近隣に大きな国がなかったからだ。距離の壁というハンディをかかえながらも欧米に多くの製品を輸出してきたが、そこには限界がある。だから貿易依存度も小さかった。しかし、アジアが成長すると、さまざまな財やサービスに引力が働いて日本からの輸出が増える。

 中国人の観光客が日本で目薬や胃薬を購入していくのは、日本の医薬品が安全で品質が高いと考えているからだ。東南アジアで日本の化粧品や洗剤が売れるのは、それが優れていることが知られているからだ。日本のコンビニの中には、国内の店舗数よりも日本を除いたアジアでの店舗数の方が多いところも出てきた。熊本ラーメンの味千(あじせん)は、中国を中心に海外で数百店舗あるという。モノだけでなく、公文やベネッセなどの教育サービスやセコムなどのセキュリティーもアジアで積極的に展開している。アジアが成長を続け人々が豊かになるにつれて、彼らにとって近くにある日本の商品やサービスを強烈な引力で引きつけ始めたのだ。

 豊かになっているアジアの人々が、日本の商品やサービスの素晴らしさを見つけてくれる。日本人は自分たちのもっている商品やサービスの質の高さにもっと自信を持つべきだろう。洗剤やラーメンを米国や欧州まで輸出するのは難しくても距離が近いアジアなら可能なのだ。日本人が日本国内で日本人のために商品やサービスを展開するというのではなく、国境をこえてそうしたものをアジア全域で売っていく時代になっている。これがアジアの成長活力を日本に取り込むということである。

 自動車やエレクトロニクスなどの産業が海外展開のスピードを速めるということで、国内産業の空洞化を懸念する声が強くなっている。しかし、日本から近隣諸国に輸出できる商品はいくらでもある。内向きで閉鎖的な思考ではなく、アジアに活路を開いていくという発想を持つことこそが、日本国内の産業の空洞化を防ぐ最良の方法であるはずだ。(いとう もとしげ)