ギリシャ危機の原因の一つは、富裕層が脱税し規制に巣くうというギリシャの政治、経済的な腐敗にもその原因がある!

・ユーロ体制には「デモクラシーの欠損(Democratic Deficiency)」があると指摘。
・財政面でも赤字幅の限度(収斂基準)が決められているため、それを破るような財政出動もできない(実際はこの基準はギリシャの場合、スタート時点からすでに破られていた)。
・国家間の経済連携自由貿易、経済共同体、そして政治的なユニオンへという動きの道のりは長い。
ギリシャの場合、あの赤字は単なる支出の膨張のみではなく、高所得者層の納税額が異常に低いことは指摘されていた。
ギリシャ危機の原因の一つは、富裕層が脱税し規制に巣くうというギリシャの政治、経済的な腐敗にもその原因がある!




〜〜〜関連情報<参考>〜〜〜
■何がギリシャ危機を起こしたか
国際日本文化研究センター所長・猪木武徳
2011.11.25 03:06 [正論]  
 ギリシャ債務危機がイタリアにも飛び火し、欧州経済は依然予断を許さない状態が続いている。  ドイツ、フランスなどユーロ圏主要国の努力によって、カタストロフィーはなんとか回避されてはいるものの、この不穏な情勢は一朝一夕ではおさまりそうにない。
≪単一通貨で金融政策失った≫:
 危機の遠因は、国民の人気取りに終始しがちなデモクラシーが、「財政膨張の強い圧力に屈しやすい」点にあることはいうまでもない。   しかし、直接の原因は、ユーロという単一通貨の導入によってギリシャ独自の金融政策が取れなくなったことにある。
 ユーロ導入はなぜこうした危険要素を含んでいたのか。  筆者は、導入時に次のような経済学の定理が脳裏を去来し、不安を抱いたことを記憶している(「グローバリゼーションの逆説」『アステイオン』55号、2001年、所収)。
 その定理とは、一般に、(1)為替レートの安定  (2)自由な国際取引 (3)独立した金融政策−    の3つの政策目標のうち同時に達成できるのは2つしかないという命題から成る。  単一通貨を導入すると、導入国間の為替レートは固定されてしまう(つまり(1)が達成される)。 EU(欧州連合)加盟国間の貿易・資本・労働などの移動は原則自由となっている(したがって(2)も達成されている)。     ということは、導入国は金融政策の独立性を放棄したことを意味するのだ。
 金融政策がユーロ圏で「一つ」ということになれば、各国はそれぞれの事情によって金融政策を変更することはできない。   すると欧州中央銀行の決定する「一つ」の金融政策は、強い国の声で支配されることになる。  したがってユーロ体制には「デモクラシーの欠損(Democratic Deficiency)」があると指摘されてきた。  財政面でも赤字幅の限度(収斂基準)が決められているため、それを破るような財政出動もできない(実際はこの基準はギリシャの場合、スタート時点からすでに破られていたのだが)。
≪統合への道のりは長く遠い≫:
 こうした状況では、不況に見舞われた国とそうでない国との間の緊張関係は高まり、EU自体の結束を弱め、国家間の衝突(戦争?)につながりかねない。
 いずれにしても、EUには財務省に当たる徴税機関がない。生産性の大きく異なる多種多様なユーロ圏諸国を、「一つ」の通貨で安定的な経済システムとしてまとめようというのであるから、その困難は「不可能」に近いレベルにあるといっても過言ではない。こうした論理を背景に考えると、今次のギリシャ危機からわれわれが学び得る点がいくつかある。
 まず、国家間の経済連携自由貿易、経済共同体、そして政治的なユニオンへという動きの道のりは長いということである。   貿易から始めて単一通貨へ、というのが一般の動きであるが、拙速は避けねばならない。  今回、国論を二分するような騒ぎになった日本のTPP参加問題も、その前向きの姿勢は評価できるものの、今後の交渉には多くの時間を必要とし、また多くの時間をかけねばならないということである。
 もう一つは、財政赤字へのドライブはデモクラシーの弱点ではあるが、ギリシャの場合、あの赤字は単なる支出の膨張だけによるのではない。   国家の徴税機能が極端に低下したことによる歳入欠陥の問題は意外に知られていない。  一国の脱税額を計測はできないが、高所得者層の納税額が異常に低いことは夙(つと)に指摘されていた。
 筆者の友人の話では、ギリシャでは売り手は領収書を出すことを一般に嫌うという。不思議に思っていたら、本来なら買い手に渡されるべき領収書が束となって闇に流れ、富裕層がいい値で買い取っているという噂もあるらしい。
≪金持ち納税せず歳入に穴開く≫:
 高所得者層が納税の義務を果たしていなければ、国家の歳入が不足するのは当然であろう。  歳出の膨張だけではなく、歳入欠陥がギリシャの場合問題として大きい。  政治だけでなく行政の機能不全も経済の崩壊を招いているのだ。
 ギリシャ経済は3、4年前までは、ユーロ圏の中ではむしろ優等生に属していた(04〜07年の経済の年成長率は4%)。  昨年、突如その成長率がマイナス4%に転じたのは、債務危機のためなのである。   債務危機はあくまでも不況の原因であって、結果ではない。
 「ギリシャ人は働かないからだ」という指摘もある。  しかし、これは必ずしも正しくない。500万人近いギリシャの労働力は、OECD経済協力開発機構)の中では韓国に次いで年間の総実労働時間は長い。  こうした労働統計の国際比較は難しいが、EUの中での比較にはそれほど誤差はないと考えられる。   時間当たりの労働生産性も、わずかだが米国の労働者のそれよりも高いのだ。
 こうした数字を見ていくと、今回の危機は、ギリシャの労働者がEUの劣等生だからではなく、富裕層が脱税し規制に巣くうというギリシャの政治、経済的な腐敗にもその原因があることが分かる。(いのき たけのり)