・風力やメガソーラーのように不安定な自然エネルギーを安定化することも、蓄電池を大量に導入したり、揚水発電を改造することによって、不安定な電力を活用するといった方法も不可能ではないからである。

・もしも2050年に二酸化炭素発生量を80%、削減しようとしたら、絶対に必要な条件が、一人あたりのエネルギー消費量が半減されていることである。
・まずは、安定型再生可能エネルギーである地熱と中小水力の導入を急ぐことだろう。  地熱は、最適な場所の選定や、電力線がない場所への設置などを考えると、10年は簡単に過ぎてしまう。
・徐々に原発の基数が減少すれば、深夜電力料金が上昇するため、電気自動車の燃料コストもそれほど有利ではなくなるので、それほどの普及は期待できない。
・風力やメガソーラーのように不安定な自然エネルギーを安定化することも、蓄電池を大量に導入したり、揚水発電を改造することによって、不安定な電力を活用するといった方法も不可能ではないからである。





〜〜〜関連情報<参考>〜〜〜
自然エネルギーでどこまで行けるのか  2011.11.27
1.はじめに
 3.11の東日本大震災に伴う福島第一原発事故以来、風力、メガソーラーの積極的な導入を目指した提案がかなりの数に及んでいる。原発を徐々に廃止し、そのかわりに風力・メガソーラーで放射線の危険性の無い電力を供給すべきだ。  このような主張をほぼ毎日のように聞かされてきた。このような「べきだ」という単純な主張にすぐに飛びつくことは、いくつかの点で間違いである。  なぜ、「べき」なのかをしっかり確認する必要がある。
 放射線健康影響とは全く異なる種類のリスクではあるが、あらゆるエネルギーにはリスクがある。  化石燃料であれば、温室効果ガスを放出することによって、気候変動を加速することだけでなく、そもそも賦存量に限界があるエネルギー源であるので、今後、コストの上昇を避けることはできない。  そのため、供給量を本当に確保できるのか、という点も大きなリスクファクターである。
 風力・メガソーラーは、確かに発電を行うことはできる。  しかし、風力について言えば、ヨーロッパのように常時西風が吹いているような状況と、山がちな地形のために、常時風向きが変わってしまう日本とでは、「ゆらぎ」という点で全く異なる。   メガソーラーにしても、スペインのような乾燥地帯と多雨地帯である日本とでは、状況が違う。
 本稿では、2050年までを想定して、どのようなエネルギーシステムへの移行が、もっともリスク、コストの両面で妥当であるかを検討してみたい。
2.エネルギーシステムが満足すべき長期的条件
 まず、今回の福島第一原発の事故によって、日本国民は、原発への依存を徐々に下げ、2050年頃には、稼働している原発の台数は数台以下にするという選択をする確率が高い。
 化石燃料の埋蔵量は、不確定要素が大きいものの、シェールガス(頁岩に含まれているガス)、コールベッドガス(石炭層に含まれているガス)などの開発によって、天然ガスの供給量は、2050年程度までは減る可能性は無い。 しかし、価格面は別で、流動性の高い投機資金が流れこむことになれば、大きな価格変動が起きることは想定すべきである。  一方、石炭の埋蔵量はまだまだ充分である。  そのため、価格的には比較的安定しているし、今後も、急激な上昇というよりは、着実な上昇を予測すべきだろう。
 化石燃料については、埋蔵量のリスクよりも、温室効果ガスの放出による気候変動の影響によって危機的状況が発生する可能性が高い。  現時点でもすでに気候変動による極端気象現象が起きているという理解をする人々も多い。異常気象に対する一般社会の反応が高まって、気候変動を重要視すべきだとう議論に繋がっていく可能性は無視できない。
 したがって、この2つの目標、2050年には、地球レベルで50%削減、先進国では80%削減は、常に強く意識しておく必要がある。
3.自然エネルギーの分類
 自然エネルギー、あるいは、再生可能エネルギーと言っても、実に様々である。使用形態としても、熱として使用するもの、電気として使用するもの、地下水の汲み上げのポンプに使用するものなど、様々である。
 今回、検討の対象となることが、原発に変わって電力を供給するものであるとすれば、電力網に対してどのような影響を与えるか、この点がもっとも重要である。そこで、自然エネルギーを次の3種に分類したい。

表1 自然エネルギーの分類
Ⅰ.安定型予測可能型自然エネルギー
 ◇大規模水力、中小水力
 ◇地熱発電
 ◇バイオマス発電・熱利用
 ◇太陽熱温水器
 ◇将来は、潮流発電、潮汐発電
Ⅱ.不安定・予測不能自然エネルギー
 ◇風力
 ◇メガソーラー
 ◇波力
Ⅲ.不安定だが無害な自然エネルギー
 ◇家庭用太陽光発電スマートメーター
 ◇蓄電機能を付加したもの
 ◇水の電解による水素生成

 まず、Ⅰの安定型予測可能型自然エネルギーであるが、大規模水力はすでに開発が終わっている。そこで、水力では中小水力を開発することになる。山間地の集落の近くで発電し、売電することによって、収入を得られる形が望ましい。中小水力は、かなりメンテナンスに手間が掛かる可能性が高いからである。
 地熱は大規模な導入を目指すことができるだろう。問題は収益性である。地熱も最初は160℃以上といった蒸気を得ることができるので、直接発電が可能であるが、そのうち、徐々に温度が下がる。   しかし、バイナリー発電と呼ばれる熱媒体を用いた形式に転換することによって、長期間の実用に耐えるようになるだろう。
 バイオマスも、まずは、発電・熱利用を目指すことが現実的だろう。日本国内を見たとき、利用可能なバイオマスは、やはり森林バイオマスと農産廃棄物である。畜産廃棄物をメタン発酵するといった方法も考えられるが、大規模利用には向かないのではないか。しかし、農産廃棄物の有効利用としては、農業用に使用されている石油系燃料の代替があるだろう。
 太陽熱温水器は、日照時間の長い地域では、極めて有効な方法である。寿命の長い装置を作るためには、ステンレスなどの材料費が比較的高くなるのが悩みである。
 日本は海洋大国であり、将来を見越して、潮流発電、潮汐発電などの技術開発と社会実験を行うことが必要不可欠であろう。一定の電力を出すことは難しいが、予測が可能であるので使えるエネルギー源だろう。

 次にⅡの不安定・予測不能型の自然エネルギーであるが、当面、発電容量の上限を制限しつつ進める以外に方法はなさそうである。 最後にⅢであるが、家庭用の太陽光発電装置は、発電容量もそれほど大きくないので、ほとんど悪影響はない。近い将来、スマートメーターが設置され、時々刻々の発電量を電力会社がオンラインで測定できるようになれば、日照の状態をリアルタイムで知ることを意味するため、この情報をメガソーラーなどに適用することもできるようになるだろう。
 蓄電装置を付加することによって、安定な電源にすることも考えることが必要である。しかし、一般には、電池を用いた蓄電装置はコスト高になりがちである。
 電気自動車を蓄電装置に使うことも考えられなくはないが、もともと、原発の夜間電力を用いて充電するのが電気自動車なので、原発の容量が減ってしまえば、深夜電力の価格も上昇して、電気自動車の優位性も失われることになる。その対策は、後述したい。

4.電力網に対する考え方を変えることが必須
 日本の電力網を途上国などの電力網と比較すれば、極めて安定で、停電時間は年間数分以内である。産業用電力が瞬間的にでも停電すれば、補償金の支払いを求められるからだとも言える。電力の品質は法律でも求められており、品質を極めて高度に維持しない限り、電気事業者としてビジネス成立しない。
 このような高度な品質を未来永劫維持するのだろうか。今回の東日本大震災は、我々に固定観念を持つことの限界を明確に示したように思える。要するに、ものは考えようである。もしも、ときどき停電をするということが常識になれば、需要サイドで対策を練るようになり、電力を安定化する技術への需要が生まれ、新たなビジネスが誕生する。
 必ずこの方向を目指すべきだということではなく、今まで以上に柔軟にものごとを考えることが必要なのだという主張だと考えていただきたい。
 最終的には、多種多様な自然エネルギーを受け入れることができる形の電力網に作り変える必要がある。さらに、当然のことながら、相対的なエネルギー効率の高さ、同時に、二酸化炭素排出量も最小限になるような電力網を目指すことになるだろう。

 その具体的な条件としては、次のようなものになるだろう。
△1.幹線は直流送電になっている。
△2.最終電力供給は交流であるが、その電力網の大きさは、県単位程度まで小さくなっている。
 そして、この最終段階への移行的段階として、次の2つの状況が起きる可能性がある。
△3.不安定な風力、メガソーラーの電力だけを送電するオフラインローカル電力網ができている。
△4.ガス供給網を用いた新型燃料電池を導入し、電力網の安定供給の可能性を高めている。

5.必須条件は省エネ・高効率化
 自然エネルギーでどこまで行けるのか、という問への答えは、全エネルギー使用量の何%が自然エネルギー由来か、ということであろう。自然エネルギーを大量に導入したが、実は、他のエネルギーへの依存度が高い、ということでは、無意味である。
 今回は詳しく述べないが、もしも2050年に二酸化炭素発生量を80%、削減しようとしたら、絶対に必要な条件が、一人あたりのエネルギー消費量が半減されていることである。
 すなわち、自然エネルギー導入にも、また、二酸化炭素発生量削減にしても、徹底した省エネルギー技術が普及していることが条件になる。
 日本の省エネ技術の開発は、1973年に起きた石油ショックのあと、エネルギー使用機器の効率を高めることの必要性が認識され、エアコンなどの効率は、その直後から向上し始めている。
 国家的なプロジェクトも作られた。1974年からスタートしたサンシャイン計画[1]、そして、1978年から行われたムーンライト計画がそれである。[2] 1400億円の巨費が投じられたムーンライト計画だが、そこで行われた省エネ・未利用エネルギー関係の課題は、何か一つの省エネ技術で解決を目指すという大艦巨砲主義的研究であったように思われる。
 今後、省エネ技術は、僅かな無駄も見逃さないというマインドで取り組む必要があると同時に、そもそもそのような機能は不要なのではないか、といった贅肉は落とすといったマインドも必要不可欠であるように思える。

 今後、行われるであろう省エネ技術の方向性としては、多少の拡張を含めると、
◆1.ムーンライト計画以降に実現された各種材料・デバイスを活用した省エネ技術
◆2.IT技術をフルに活用し、人間の行動を予測することを含む省エネ技術
◆3.新型の電池をはじめとする、新しいエネルギー貯蔵デバイスへの挑戦
◆4.輸送機器の超軽量化などによる省エネの実現
◆5.電力制御技術の新規開発による省エネの実現
◆6.微細エネルギーの収穫による省エネ
◆7.人工光合成的な発想による二酸化炭素の活用技術
◆8.製品の超長寿命化による省エネ・省資源技術
といったところになるのではないだろうか。

6.現実的アプローチ 10年以内
 最終的なターゲットに一気に到達できるようであれば、複雑なことを考える必要もないのだろうが、どうも、そう簡単ではないようだ。
 まずは、安定型再生可能エネルギーである地熱と中小水力の導入を急ぐことだろう。地熱は、最適な場所の選定や、電力線がない場所への設置などを考えると、10年は簡単に過ぎてしまう。
 地熱といっても、バイナリー型の発電であれば、別府や湯布院などのように、湯気を吹き出しているような温泉の温度を、風呂に適した温度まで下げるための装置として使用可能である。発電コストも勝負になるようだし、温泉業との両立も可能である「3」。
 中小水力は、ファイナンスシステムの整備が必要不可欠かもしれない。それと同時に、電力の価格付けが鍵になることだろう。
 自家用の太陽光発電の推進は、現在の枠組みでもなんとか進むことが可能だろう。
 風力・メガソーラーは、やはり発電容量に制限を加えることになるだろう。それぞれ10%では不安定になりすぎる可能性もある。
 バイオマスは農業用などの熱利用から推進し、できれば発電も行いたい。それには、林道を整備する必要がある地域が多いものと思われるが、森林の所有の実態が余りにも複雑な地域が多いことが気がかりである。
 本音を言えば、もっとも簡単なバイオマスエネルギーの導入方法は、ブラジル産のバイオエタノールのガソリンへの混入である。10%程度の混入であれば、現時点での自動車であれば、全く問題もない。ただ、エタノールを自ら混合してガソリン税を免れるという不正にどのように対応するか、真剣に対応策を考える必要がある。

7. 現実的アプローチ 第2段階
 都市ガスやプロパンガスを使っている家庭は多い。現時点でも、家庭用燃料電池は売られている。 この燃料電池は、高分子電解質を用いたものである。 動作温度が低いために、どうしても白金触媒が必要不可欠で、そのためにコストも馬鹿にならない。 さらに、発電効率も充分に高いとは言いがたく、実用域で30〜35%程度だったのではないかと思われる。 送電ロスを考慮しても、火力発電所の効率に及ばない。当然熱回収をお湯で行うのだが、発電量を0.75kWhとしたとき、熱回収量は0.94kWhに及ぶ。どちらかと言えば、発電もできる給湯器といった実態である。
 これに対して、固体電解質燃料電池、SOFC(Solid Oxide Fuel Cell)が2011年10月に初めて製品化された。この燃料電池は、動作温度が800〜1000℃であるが、そのため、水素だけでなく一酸化炭素も燃料に使える。お湯による熱回収を含めた総合熱効率も、80%を超す可能性がある。もしも、熱効率が75%に達するのなら、天然ガスを用いたコンバインドサイクルを圧倒的に凌駕する熱効率になり、天然ガスの利用法は分散型という結論になる可能性がある。
 しかも、SOFCは、装置の時間的な追従性が高いため、電力網から供給される電圧がふらつく場合でも、それを補う能力を有する。すなわち、不安定電源の安定化にも寄与しうる。
 このような特性を活用することによって、少なくとも都市ガスもしくはLPGが使える地域の電力網ができて、これまでとは様変わりをする可能性が出てきた。
 しかし、最大の問題は、現在の電力網を運用している電気事業者が、このような新しい燃料電池をどのように認識するかである。  敵対関係を作るのか、それとも相互協力関係を構築するのか、そこに分かれ目がある。

8. 現実的アプローチ 第3段階
 年代としては、ほぼ2030年を想定している。なぜならば、都市内の交通を目的としたコミュータ型の自動車のかなりの割合が電気自動車になる年代だからである。
 現時点で、電気自動車、加えて、まもなく発売されるプラグインハイブリッド車の充電は、原発による深夜電力を使うことを前提としていた。  日本では原発は出力調整を行わないので、常時、同じ出力を出し続けなければならず、深夜の電力は、揚水発電を用いて貯蔵するか、あるいは、エコキュートなどの電気給湯器でお湯を沸かすといった使い方しかなかった。そこに電気自動車が一役買う予定であった。
 原発の基数は、少なくとも、福島第一、第二の合計10基は、運転を再開することは無さそうである。  さらに、他の地域でも、福島第一と同型のGE製沸騰水型マーク1をはじめとする古い原発は、早期に引退をすることになるだろう。これだけでも、一気に2〜3割を失うことになる。
 徐々に原発の基数が減少すれば、深夜電力料金が上昇するため、電気自動車の燃料コストもそれほど有利ではなくなるので、それほどの普及は期待できない。
 そこで、不安定型の自然エネルギーの登場となる。電気自動車の電池の充電に使うのであれば、電圧さえ一定になっていれば、充電電流がふら付いても、全く問題はない。すなわち、不安定電源は電池の充電量に最適である。すなわち、不安定な自然エネルギーだけを送電する通常の電力網とは独立な電力網を構築することもあり得るのではないだろうか。
 それには、不安定自然エネルギーに対する相当の支援をする法制度が不可欠であろうと思われるが、ガソリン税を高くして、その分を補助金に回すといった荒業が使える可能性があるので、非現実的だとは言えない。
 もしも通常の電力網も、信頼性を多少犠牲にすれば、停電がたまには起きることが常識になって、それぞれの需要サイドでの対策が行われるようになる。これは、不安定な独立電力網を整備するよりも更に荒業であるが、もしも、行政にこのような政策を行うだけの度胸があれば、需要サイドでの対応策はいくらでもありうるし、その際、電気自動車の電池の活用が最大の候補になるだろうから、電気自動車の普及が加速されるだろう。
 自然エネルギーについては、2030年頃になれば、多少の潮力発電、潮汐発電などが商業化されていることも期待できるものと思われる。問題は、漁業権などの社会制度である。その解決が可能かどうか、それは政治次第である。

9.現実的アプローチ 第4段階
 現時点での電力の平準化のためにもっとも有効な手段は、揚水発電である。この揚水発電をうまく利用する方法は無いのだろうか。 一般の水力発電の設備総容量は、1202万kWであるが、揚水発電の設備総容量はこれを上回る1990万kWである。揚水発電の瞬間的なパワーとしては、原発を100万kWとすれば、20基分程度はあることになる。
 不安定な電源で、揚水発電の水車を回して、水をポンプアップすることができるのだろうか。 対策は不可能ではない。  揚水発電を可変速・可変ピッチ型に変更すれば良い。   揚水高さ200mまでは対応可能で、その容量は597万kWだとされている。   このような改造を行うことができれば、太陽光2800万kW、風力490万kW程度の導入が可能になるとの試算が出されている。[4]
 さて、太陽光2800万kW、風力490万kWの設備容量で、どのぐらいの電力を出すことができるのだろうか。  太陽光であれば、1/8倍、風力であれば、1/4倍程度を乗ずることが必要であり、その平均出力は、444万kWで、原発3〜4基分にすぎない。   そして、総発電電力量に対する割合も、3.9%に過ぎない。
 2050年までに満たすべき削減量を考えると、再生可能エネルギー全体での20〜25%にはする必要があるだろう。
 となると、さらに大量の自然エネルギーを導入するには、電力網の能力を拡大する必要がある。あるいは、電気自動車用の電力は、それ専用の電力網をやはり維持し続ける必要があるのかもしれない。
 もしも根本的な解決を目指すのであれば、そのための有力候補が、電力幹線の直流化と、グリッドサイズの縮小になるのではないだろうか。

10.非現実的な方策も必要になるか?
 スマートグリッドと呼ばれる技術の定義は、人、国によって様々である。米国のスマートグリッドは、需要サイドの制御まで含む概念である。すなわち、すべての電力使用機器がある種の情報ネットに接続されていて、その機器の使用権を放棄すれば、電気代が割引になるといった仕組を構築することまで考慮されている。

 米国のオーブンの熱源は日本のようにガスではなく電気である。消費電力は4kWといったものになる。ある日の午後、気温の上昇が激しいために、電力不足になるとの予測がでると、オーブンのような大型の電気機器を使わないことを電力会社に通達する。これが受け入れられると、月末になって、何%か電力代が割引になる。
 あるいは、電気自動車の電池に蓄えられた電力を、電力会社に売ることもできる。
 こんな方法で、消費者と電力のやりとりをすることが米国流スマートグリッドである。すべて金次第という考え方である。

 日本流のスマートグリッドというものは無いのだろうか。米国人は、全室冷房が当然だと考えるだろうが、日本人の性格を考えると、いざとなったら、一部屋のみを冷房して、家族はそこに集合し、他の部屋の冷房を切るといった対応を行うことができるだろう。

 冷房の必要性を吟味し、「絶対に必要な冷房」と「あれば嬉しい冷房」を分けることができるのが、日本人の性質ではないだろうか。

 もしも、電力網の電圧が低下しはじめたとして、僅かな電圧の低下でも動作しなくなるように設定された冷房機は、基本料金が安く、かなり電圧が低下しても動作し続ける冷房機の基本料金は高い、といった制度を作り、そのときどきで設定を変えることを可能にすれば、日本人的な対応ができるようになるのではないだろうか。
 このような仕組を導入することによって、需要側が自動的に制御されて、電力網が安定に保たれるようになるのではないだろうか。

11.まとめ
 自然エネルギーだけでどこまで行けるか。その答は、一通りではない。なぜならば、自然エネルギーを大量に導入することは不可能ではないが、それなりの投資を電力網に対して行う必要がある。  風力やメガソーラーのように不安定な自然エネルギーを安定化することも、蓄電池を大量に導入したり、揚水発電を改造することによって、不安定な電力を活用するといった方法も不可能ではないからである。
 どのぐらいの金額なのか。情報が少なくてはっきりしないが、4兆円から40兆円程度ではないか、という非常に荒い推定もされている。

 597万kWの揚水発電を可変速・可変ピッチに変更することによって安定化し、その結果、導入が可能になる風力・メガソーラーの総量が総発電量に対して3.9%に過ぎないという計算が本当であるとしたら、自然エネルギーへの依存度を高めることは、電力コストが莫大になる可能性がある。しかし、この計算は、現在の電力の安定度を維持するということを大前提とした計算であると考えられるので、多少の不安定さを容認することによって、自然エネルギーの導入量を格段に増大することも不可能ではない。

 しかし、不安定ではあっても、大停電を起こすことはない程度の安定度を保つ必要はある。2011年9月に起きた韓国での大停電は、電力が不足しそうになったため電力会社が負荷を切り離して発生した。もしも、負荷の増大をもう少々放置したら、ニューヨーク大停電と同じことが起きたかもしれない。

 電力網に関する知識は、極々限られた人々に集中しており、その情報を開示することは、電力事業の地域独占が壊れると考えているとすれば、結局、直流幹線網を中心に据えた、絶対安全なシステムを構築するか、電気自動車・プラグインハイブリッド車のための不安定電力網をオフラインで使用する以外に方法は無いのかもしれない。

 これが可能になるかどうか、それは法律がどのように改正されるかという政治的状況に掛かっていると言えるだろう。