日本経済はリーマンショックと東日本大震災という痛恨のダブルパンチを受け、さらに円高と資源高という悪条件の下で、以前と変わらない数字をはじき出している。 驚嘆すべき環境適応能力ではあるまいか?

・当時は、1ドルが110円、原油価格は1バレル50ドル程度であった。 それが今は1ドル70円台、1バレル100ドル前後の経営環境である。 日本経済はリーマンショック東日本大震災という痛恨のダブルパンチを受け、さらに円高と資源高という悪条件の下で、以前と変わらない数字をはじき出している。 驚嘆すべき環境適応能力ではあるまいか?
・対外投資のリターンでもたらされる所得収支の黒字が堅調なので、経常収支は安定的に推移する。 11年度は12兆円台となるものの、12年度は16兆円強と、10年度実績とほぼ同水準に戻る。
・日本の食料品輸出は大きく減少したと見る向きが多いだろうが、現実の落ち込みは1割程度である。食料輸出の10年度実績は4070億円に過ぎない。  これに対して輸入は5兆3070億円なので、10分の1以下の水準にとどまっている。
・食料品輸入額が年間5兆円程度で、この5兆円の中には、畜産用の飼料やたばこなど、人の口には入らないものも含まれている。「輸入品が日本の食を脅かしている」という言説は、少なくとも数量ベースからいうと疑わしい。
・肉類、穀物、果実および野菜、酪農品などの純粋な農産物のみの輸入金額を計算すると、3兆円以下になっている。
・年間の国内農業生産額は8・5兆円だ。 農水省は「カロリーベースで日本の食料自給率は4割」だとしきりに強調するが、金額ベースだと国産品と輸入品の比率は3対1程度だ!




〜〜〜関連情報<参考>〜〜〜
日本再生の念頭に 
双日総合研究所副所長・吉崎達彦
2012.1.5 03:07 [正論]
■たくましいぞ日本経済の底力
 「カネの動きではなく、モノの動きを通して経済を見る」−。  商社エコノミストとして、常々心がけていることだ。  貿易のデータから浮かび上がる日本経済は、巷間(こうかん)言われている「通説」とは一味違うことが多い。 端的に言えば「意外とたくましい」のである。
≪経常収支GDP比3%黒字へ≫:
 昨年12月、日本貿易会が恒例の貿易動向見通しを発表した。 各商社が商品別に見通しを作成し、それらを積み上げて総額をはじく。  「ビジネスの現場感覚」を反映したデータだと自負しているが、今回は筆者が座長を務めたこともあり、概要を紹介してみたい。
 今回の見通しでは、2011年度は3年ぶりに貿易収支が赤字となる。 これは想定の範囲内で、昨年の日本経済は震災の打撃を受けたし、円高の重圧もあったので輸出は落ち込む。  原発が止まっている分、火力発電用の燃料を買わねばならず、輸入は増える。  特にLNG(液化天然ガス)は前年比4割増の見込みである。
 しかし12年度になると、復興による供給力回復とともに輸出は増加に転じる。  同時に資源価格が下がることで、輸入は減少を見込む。  結果として12年度の貿易収支は3兆円程度の黒字を確保することになる。
 12年度の輸出は69兆円程度と、ピークだった07年度の85兆円からは見劣りがする。 水準としては、05年度の68兆円に近い。  主力の輸出品目である輸送用機器、一般機械、電気機器などの金額も、ほぼ6年前に戻ってしまった。
円高、油高への適応力に驚嘆≫:
 しかるに、当時は、1ドルが110円、原油価格は1バレル50ドル程度であった。 それが今は1ドル70円台、1バレル100ドル前後の経営環境である。 日本経済はリーマンショック東日本大震災という痛恨のダブルパンチを受け、さらに円高と資源高という悪条件の下で、以前と変わらない数字をはじき出している。驚嘆すべき環境適応能力ではあるまいか。
 とはいえ、貿易黒字の絶対額が趨勢(すうせい)として減少していることは否めない。  それでは経常黒字も減ってしまうのか、と思うとそれほどでもない。  対外投資のリターンでもたらされる所得収支の黒字が堅調なので、経常収支は安定的に推移する。 11年度は12兆円台となるものの、12年度は16兆円強と、10年度実績とほぼ同水準に戻る。
 こんなふうに、GDP(国内総生産)比3%程度の黒字が維持されるのであれば、「日本経済が借金体質に陥って、そのうち国債も国内で消化できなくなる」という恐怖のシナリオは、ある程度先のことと考えていいだろう。  だから安心とまではいえないが、財政再建にはまだ時間が残されていると受け止めていいだろう。
 細部のデータも見ていて飽きない面白さがある。  原発事故による風評被害により、日本の食料品輸出は大きく減少したと見る向きが多いだろうが、現実の落ち込みは1割程度である。  しかも食料品輸出のうち、4割程度は魚介類が占めている。  震災によって、被災地のフカヒレなど高級食材が打撃を受けたことを勘案すれば、放射線問題による影響は意外と軽微といえるのではないだろうか。
 残念ながら食料輸出の10年度実績は4070億円に過ぎない。  これに対して輸入は5兆3070億円なので、10分の1以下の水準にとどまっている。  これだけ高品質な食材を有しながら、また近隣諸国の生活水準の向上が目覚ましいなかで、この数字はいささか不本意といわざるを得ない。

≪「楽観は意志、悲観は気分」≫
 食料品は生産から加工、流通までを一本化し、いわゆる農業の六次産業化(一次+二次+三次産業)を通して、輸出拡大を図るべきだろう。  士農工商が「縦割り分業」をしているようでは、せっかくの機会を逃してしまう。
 ところで、日本の食料品輸入額が年間5兆円程度であると説明すると、「そんなに少ないのか」と驚かれることがある。  しかるに、この5兆円の中には、畜産用の飼料やたばこなど、人の口には入らないものも含まれている。「輸入品が日本の食を脅かしている」という言説は、少なくとも数量ベースからいうと疑わしい。
 年間の食料品輸入の中には、酒類やコーヒーなどの嗜好(しこう)品や、最大の品目である魚介類も含まれている。   これらをすべて除外して、肉類、穀物、果実および野菜、酪農品などの純粋な農産物のみの輸入金額を計算すると、3兆円以下になってしまう。
 年間の国内農業生産額は8・5兆円だそうだ。   農水省は「カロリーベースで日本の食料自給率は4割」だとしきりに強調するが、金額ベースだと国産品と輸入品の比率は3対1程度である。  両方の数字を押さえておくべきだろう。
 「楽観は意志、悲観は気分」であるという。くれぐれも不安を誘う「通説」には流されたくないものだ。   数字は嘘をつかないが、嘘には数字が付き物なのである。(よしざき たつひこ)