・日本では、国民全体が豊かになっている中での格差拡大ではなく、国民の多くが貧しくなっている!

市場経済は格差を起こすメカニズムを備えており、政策的に何とかこの格差を解消する手を打たないかぎり健全な社会にはならない。
・米国ウォール街では、「1%の人が極端に豊かになり、99%の人が貧しくなっている」と学生や若者の座り込みが起きた。中国では急速な経済発展の下で所得格差が拡大し暴動などが発生。日本でも年間に200万円以下しか収入が得られない人が増え、多くの若者が将来に対し不安を抱えている。 
・日本では、国民全体が豊かになっている中での格差拡大ではなく、国民の多くが貧しくなっている!  いまは200万円以下しか稼げないという人が増えてきた。   日本で起きていることはデフレの中での多くの国民を巻き込んだ貧困化だ!

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■本質は格差ではなく貧困化
東京大・大学院教授、伊藤元重
2012.1.7 02:45
 新しい年が始まった。  格差の問題にどう対処するのか。  世界の多くの地域で大きな問題となっている。  中国では急速な経済発展の下で所得格差が拡大し暴動などの社会不安の原因となっている。  米国のウォール街では、「1%の人が極端に豊かになり、99%の人が貧しくなっている」という主張を掲げて学生や若者の座り込みが起きた。   そして日本でも年間に200万円以下しか収入が得られない人が増えており、多くの若者が将来に対して不安を抱えている。  市場経済は格差を起こすメカニズムを備えており、政策的に何とかこの格差を解消する手を打たないかぎり健全な社会にはならない。 そういう思いを強めている人は多いはずだ。
 たしかに格差を解消することは重要な政策課題である。  ただ、世界のあちこちで起きているさまざまな現象を格差という一つの言葉で総括し同じ問題であるかのごとく扱うのは間違っている。  少し考えてみれば分かるように、日本と米国と中国で起きていることは、まったく違ったことである。  その違いを理解すれば、対応する政策も異なるはずである。
 中国では成長のおかげで大半の国民が以前よりは豊かになっている。  改革開放以前は国民の大半が食うや食わずの状態であった。  しかし、1日1ドル以下の生活しかできない極貧状態の人の数は急速に減少している。   ただ、成長の中で急速に豊かになっている都市住民と、少しは豊かになったが相変わらず貧しい農村戸籍の人の間の格差が広がっている。  そしてごく一部の富裕層は巨額の富を蓄えつつある。  こうした格差の拡大が貧しい人の不満を募らせている。  職を失った人が、土地を収用された人が、あるいは官僚の横暴にあった人が、怒りを募らせ暴動に走る。   産業革命時代の英国でも見られた典型的な資本主義経済型の格差問題である。  成長が多くの人を少しは豊かにするが、その果実の多くが特定の人に集中して社会不安を募らせている。   こうした事態を解消するためには、豊かな人の所得を貧しい人に移転し、格差の原因となっている戸籍制度や理不尽な土地収用などを改めることが求められる。
 日本で起きていることは、中国とはまったく違う。  国民全体が豊かになっている中での格差拡大ではなく、国民の多くが貧しくなっている。  以前ならまじめに働けば500万円前後の年収を稼げる仕事がいっぱいあったのに、いまは200万円以下しか稼げないという人が増えてきた。   米国のように一部の金融関係者が極端に多くの所得を独り占めしているわけでもない。  金融機関でも、多くの人は以前より収入が減っている。  日本で起きていることを格差拡大と呼んで、中国や米国と同じようなことが日本で起きていると単純に考えては問題の本質を見失う。

 日本で起きていることはデフレの中での多くの国民を巻き込んだ貧困化である。  その原因についてここで詳しく論じる紙幅はないが、中国で起きている格差とはまったく異なったものである。  富や所得の再分配を強化することは日本の現状の痛みを緩和するという対症療法的な効果はある。   そうした政策はやったらよいだろう。ただ、問題の本質的な解決にはならない。本質的な解決についてもっと議論を進める必要がある。(いとう もとしげ)