・21世紀は、必要にして最小限のモノが限り無くインテリジェント化していく時代だ! その鍵を握るのが、ソフトウェアとビッグデータだ!

・三条 健です。
・川下の巨大量販店は青息吐息のメーカーを尻目に、5%前後の売上高営業利益率を確保する。
・川上の部品分野では、日本メーカーが軒並み巨額の赤字を計上するかたわらで、台湾のTSMCの売上高営業利益率が38%に達している現実を、どう捉えるのか?
・後から市場に割り込んできた韓国勢も手強いが、いまのエレクトロニクスにとって本当に怖ろしいのは、ソフトウェアによるハードウェアの置き換えだ!
・かつて、音楽プレーヤー、ポータブルDVDプレーヤー、PDA、ICレコーダー、デジタルカメラ、電卓、携帯ゲーム機、電子辞書、腕時計などは、携帯電話端末とは別に独自のハードウェア市場を形成していたが、いまや肌身離さず持ち運ぶのは、スマートフォン1台の時代だ!
・アップルやグーグルは、売上高営業利益率30%前後と絶好調に見えるが、彼らが置き換えたハードウェア市場全体の規模に比べると、売上高の水準は数分の1にも満たないのが現実だ! ここで起きていることは、まさに市場破壊にほかならない!
・エレクトロニクスを土俵とする日本勢と韓国勢の闘いにばかり話題が集まるが、実は韓国勢の背後には日本の材料メーカーや装置メーカーがいる。日本のエレクトロニクスメーカーは、韓国のエレクトロニクスメーカーを担ぐ日本の材料・装置メーカーに負けたと言い換えてもよい。
イノベーション(製品次元)やモチベーション(管理次元)を振りかざしても、どうにもならないことを認識して、日本のエレクトロニクスメーカーは徹底抗戦の愚は避けよ!
・日本のメーカーは、いくらカンパニー制やビジネスユニット制を敷いても、各事業体に資金調達や人事の自由を与えてこなかった。  給与や経費の一律カットだけでも被害は大きいのに、資金や人事まで縛ってしまっては、新規事業の芽がすくすく伸びるわけがない。  この縛りを解消するには、子会社上場の域を超えて、マネジメントバイアウト(MBO)、もしくはスピンアウトを検討すべきだ!
・21世紀は、必要にして最小限のモノが限り無くインテリジェント化していく時代だ! その鍵を握るのが、ソフトウェアとビッグデータだ!  21世紀に競争力を発揮する企業は、おそらく旧来のモノ造り企業とは異なるスタイルをとるであろう。 まさにパラダイム変革の時代に突入しているのだ!




〜〜〜関連情報<参考>〜〜〜
日本エレクトロニクス総崩れの真因
大同団結や徹底抗戦は愚の骨頂
神戸大学大学院経営学研究科教授・三品和広 【第242回】 2012年2月17日
 日本のエレクトロニクスが総崩れの様相を呈している。  半導体で初めて韓国に大敗を喫した1996年以来、日本勢は企業ごとに選択と集中を効かせてきた。  そのうえでDRAMはエルピーダフラッシュメモリーは東芝液晶テレビはシャープ、プラズマテレビパナソニック、リチウムイオン2次電池三洋電機、携帯端末はNECという具合に、連合艦隊を組んでサムスン1社に再戦を挑んだが、まるでミッドウェイ海戦の悪夢を繰り返すような結果に終わってしまった。  無傷に近いのは東芝くらいなものである。  ここで冷静に戦況を分析しておかないと、この先もサイパン、レイテ、ルソンの再来を招くことになりかねない。  そう考えて、私見を述べておくことにした。  建設的な議論の糸口にしていただければ幸いである。
赤字の真因:
エレクトロニクスは、私の見立てでは事業立地の劣化が著しい。 その点を、マイケル・ポーターの5つの力で見てみよう(次ページ図1参照)。
 まず、川下には巨大量販店が出現して、メーカーから利益を吸い取る図式が定着した。  アメリカではウォルマートやベストバイ、日本ではヤマダ電機ヨドバシカメラが巨大量販の代表格である。   彼らは青息吐息のメーカーを尻目に、5%前後の売上高営業利益率を確保する。
 技術の粋を尽くしてモノをつくるメーカーが、モノを右から左へ動かすだけのリーテイラーに利益率で負けてしまうのは、どう考えても異常に映るが、巨大量販1社の売場から追い出されると、年間売上高の何割かが吹っ飛んでしまうとなれば、確かにメーカーは巨大量販の要求を丸呑みせざるを得ない。  その結果、店舗に客を呼び込むという名目で、週次の値下げや、話題を提供するための新製品開発が横行し、メーカーは疲弊しきってしまう。  日本メーカーが頼みとする中国や東南アジアですら、同じ図式が出現するのは時間の問題である。
 川上も大変なことになっている。 台湾に、半導体ではTSMC、液晶パネルではAUO、組立では鴻海精密工業のような巨大企業が出現して、力関係が逆転してしまったのである。  日本メーカーは、いまや彼ら抜きでは成り立たない。  それでも製品を出し続けるのは、自ら利益を手にするためなのか、台湾勢に利益を貢ぐためなのか、わけのわからない状態に陥ってしまった。  日本メーカーが軒並み巨額の赤字を計上するかたわらで、TSMCの売上高営業利益率が38%に達している現実を、関係者一同はどう捉えるのであろうか。
 垂直分業関係を築こうとする台湾勢と異なって、サムスン、LGの韓国勢は自社ブランドに投資して、テレビや携帯端末という最終商品で正面から闘いを挑んできた(新規参入者)。  初めてオリンピックを開催したのは日本が1964年で、韓国は1988年。   ソウルオリンピックから23年を経た韓国は、日本で言えば1987年前後の絶頂期にいるようなものである。
 当時は日本勢が米国勢を駆逐して、世界を驚かせた。  今度は、韓国勢が日本勢を駆逐する番だとしても不思議はない。  地道な問題解決の積み重ねのうえに成り 立つエレクトロニクスでは、私生活を犠牲にしてでもハードワークを惜しまない社員を揃えたほうが勝つ。  あれこれと犠牲にできないものを抱え込んでしまった日本は、どう見ても分が悪い。
 後から市場に割り込んできた韓国勢も手強いが、いまのエレクトロニクスにとって本当に怖ろしいのは、ソフトウェアによるハードウェアの置き換えである。  かつて、音楽プレーヤー、ポータブルDVDプレーヤー、PDA、ICレコーダー、デジタルカメラ、電卓、携帯ゲーム機、電子辞書、腕時計などは、携帯電話端末とは別に独自のハードウェア市場を形成していた。
 それが、いまや肌身離さず持ち運ぶのは、スマートフォン1台の時代に入っている(機能代替品)。   この大統合を推進するアップルやグーグルは、売上高営業利益率30%前後と絶好調に見えるが、彼らが置き換えたハードウェア市場全体の規模に比べると、売上高の水準は数分の1にも満たないのが現実である。  ここで起きていることは、まさに市場破壊にほかならない。テレビやカーナビが消える日も、確実に近づいているのではなかろうか。
避けるべき選択肢:
 5つの力のうち、ここまで4つについて述べてきた。
 残る1つは同業他社間の競合圧力である。  日本では、国内勢相互の競争が厳しすぎて、ここで各社とも疲弊してしまうから、韓国勢に負かされてしまうという奇妙な議論がまかり通っている。  その行き着く先は、パナソニックソニーは身内で闘うな、共同戦線を張って共通の外敵と闘えという大同団結論である。  悪い冗談かと受け流していたら、DRAM、システムLSI、中小型液晶パネルで実際に日の丸連合が生まれつつあるという。
 大同団結は、避けるべき選択肢の代表格と言ってよい。  なぜならば、本当の問題は残る4つの力にあり、最も無害な1つを解決しても、不振の構図はびくとも動かないことが目に見えているからである。  それなのに大同団結に動けば、資金と時間を浪費して、それこそ命取りになってしまう。  資本主義の真髄は、進歩の源泉を競争に求める点にある。  「過当競争」などという奇妙な空論に惑わされてはいけない。
 ここまで畳みかけても大同団結論を支持する方には、日本メーカー各社がどこで利益を出し、どこで赤字を出しているか、自分で分析する時間をとっていただきたい。  そうすれば、関西勢が国内で利益を出し、関東勢のリーダー、ソニーが海外で利益を出す図式に気づくであろう。  つまり、日本メーカーもバカではなく、ちゃんと棲み分けてきたのである。
 関西勢のなかでも、実は商品分野ごとの棲み分けができている。  問題は、各社の成長指向が強すぎて、不得手な地域や領域にも手を出すから、そこで巨額の赤字を出すところにある。  そして、それぞれの地域や領域でナンバーワンしか利益が出ないのは、前項で述べたように事業立地が劣化したからである。
 霞ヶ関にも大同団結論を支持する動きがあるが、それも見ていられない。  エレクトロニクスを土俵とする日本勢と韓国勢の闘いにばかり話題が集まるが、実は韓国勢の背後には日本の材料メーカーや装置メーカーがいる。  日本のエレクトロニクスメーカーは、韓国のエレクトロニクスメーカーを担ぐ日本の材料・装置メーカーに負けたと言い換えてもよい。
 現に韓国勢が頑張れば頑張るほど、韓国の対日貿易赤字は増えている。 だから韓国は、材料や装置の内製化に躍起になっているのである。   いまや争点は、エレクトロニクスにはない。  すでにケミカルに移っている。   幻想に騙されてエレクトロニクスの救済に税金を投入すれば、虎の子のケミカルにまで火が回ってしまう。   助成は、あくまでも敗戦処理=雇用調整に限定すべきであろう。
 メーカーが避けるべき選択肢としては、もう一つ徹底抗戦を挙げなければならない。  1980年代に日本勢の挑戦を受けたとき、米国のゼニスというテレビメーカーは徹底抗戦に打って出た。  米国人の愛国心を鼓舞しつつ、技術では日本に負けていないと訴えたのである。  そのゼニスは窮地に追い込まれ、韓国のLGに買収されてしまった。  いまはブランドだけが残っている。  他方、GEはテレビ部門を売りに出し、これをトムソンの医療機器部門と交換した。   GEは、いまも時価総額で世界トップクラスの座を維持していることは周知のとおりである。
 戦略には次元がある(図2参照)。  日本の戦略論議は、日常の管理を司る組織能力や、製品次元の技術開発を重視するあまり、それより深い次元に目を閉ざしてきた。    それが許されたのは、立地や構えが健全だったからである。  いまは、どう見ても事業立地が焦点になっている。        イノベーション(製品次元)やモチベーション(管理次元)を振りかざしても、どうにもならないことを認識して、徹底抗戦の愚は避けていただきたい。本当の差異化は製品次元でなく、構えや立地に埋め込むものなのである。
変革への道筋:
 敗因をつぶさに検討してみると、打開策が見えてくる。  日本のエレクトロニクスは、何はともあれ事業の立地や構えにメスを入れる覚悟を決めなければならない。  アップルがしたように、量販店依存から脱却するのも急務である。  ハードウェア偏重を改めて、ソフトウェアを強化することも忘れてはならない。
 このあたりをわかりやすく表現するなら、テレビを捨てたときに何ができるかを問うところに出発点がある。  さらに一歩踏み出して、テレビを無くすために何ができるかを問えば、飛躍の可能性すら視野に入ってくる。
 しかし、そのタイミングは過ぎてしまったのかもしれない。  多くのメーカーが不退転の決意で改革に臨んだ10年前に、本当は立地や構えにメスを入れるべきであった。  それをせず、単なる固定費削減に走ってしまった以上、もはや手遅れの感がある。   それでも起死回生の一手を繰り出そうというのであれば、それは第二創業、すなわち事業立地を見直す「転地」と捉える必要がある。
 第二創業を志すなら、巨体は足手まといになりこそすれ、武器にはならない。  そこを何とかするには、日の丸連合どころか、企業分割を指向すべきであろう。  日本のエレクトロニクスメーカーは、優秀な技術者を星の数ほど抱え込んでいる。  そのなかには、有望な分野を切り拓いている人たちもいるのに、彼らまでテレビ事業不振の煽りを受けて、全社一律の給与カットや経費削減の対象とされている。   このままでは、有望事業までテレビと共に倒れてしまう。   そういう愚の骨頂を避けるには、有望な事業分野ほど外に切り出すほかはない。
MBOないしはスピンアウト:
 有望な事業分野を伸ばすには、タイミング良く思い切った投資をかけることが肝要である。  巨大メーカーの傘下にいては、それができない。  特にテレビがキャッシュを流出させる元凶になっている現状では、なおさらである。
 日本のメーカーは、いくらカンパニー制やビジネスユニット制を敷いても、各事業体に資金調達や人事の自由を与えてこなかった。  給与や経費の一律カットだけでも被害は大きいのに、資金や人事まで縛ってしまっては、新規事業の芽がすくすく伸びるわけがない。  この縛りを解消するには、子会社上場の域を超えて、マネジメントバイアウト(MBO)、もしくはスピンアウトを検討すべきであろう。
 スピンアウトは、本体にとっても利点がある。その点はNECと富士通を比べてみればよくわかる。  富士通は、スピンアウトしたファナックの株を売りながら、ソリューション事業の会社に生まれ変わった。  NECには、苦しい転換期を支えてくれる孝行息子がいない。   だから苦戦を強いられている。  ファナックが伸びたのは、富士通が人事面でも資金面でも介入せず、受動的な投資家を演じきったからにほかならない。  本体の再生を志す企業は、富士通の範に倣うべきであろう。
 本体の転地を模索するに際しては、エコや高齢化というマクロのキーワードに踊らされてはいけない。   新聞紙上を飾るテーマは、激戦区になることを運命づけられているからである。   むしろ「手持ち技術の新たな出口」を探したほうが、成功に至る確率は高くなる。   そこに、過去の成功事例から学ぶ知見が加われば、転地のハードルは決して高くない。
 エレクトロニクスには、まだまだ事業機会が豊富にある。  まだまだというより、これからが本番と言うべきかもしれない。   20世紀はモノで溢れかえる世界を現出させたが、21世紀の歴史家には、これらのモノが滑稽なまでにお馬鹿さんに見えるに違いない。   21世紀は、必要にして最小限のモノが限り無くインテリジェント化していく時代になるからである。
 その鍵を握るのが、ソフトウェアとビッグデータであることもすでに見えている。そういう時代に競争力を発揮する企業は、おそらく旧来のモノ造り企業とは異なるスタイルをとることになるであろう。我々は、まさにパラダイム変革の時代に突入しているのである。
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