日本にも、電力会社からは独立した中立的な立場で電力需給を監視する組織が必要だ!

・ 三条 健です。 ポイントは以下。
・「アンバンドリングすれば停電が増える、というのは事実ではない」
・ 停電が起きるのは、需要に見合った発電の能力や送電能力がないときに起きるものである。
・ 監視を有効にするためNERCは電力会社からすべてのデータを徴収する権利がある。 
・ 電力供給が地域ごとに分断され、広域化が進みにくくなっている。地震原発事故で、こうした日本の弱点が露呈した。
・ 日本にも、電力会社からは独立した中立的な立場で電力需給を監視する組織が必要だ!


〜〜〜関連情報<参考>〜〜〜
中立な電力需給の監視
東京大・大学院教授、伊藤元重    2012.5.8 03:06
 発送電分離(アンバンドリング)をすると停電が増える、と主張する専門家が日本には多かった。  日本の制度改革に反対する根拠として、しばしば主張されたものだ。  その根拠として、2003年に米国の東部で起きた大停電を例にあげる人も多い。  「だから日本は制度改革に慎重であるべきである」。  こうした議論を、電力の専門家といわれる人だけでなく、電力についての知識をあまり持っていない一般の人でも信じている人が少なくないようだ。
 「アンバンドリングすれば停電が増える、というのは事実ではない」。米国でインタビューしたNERC(North American Electric Reliability Corporation)の専門家は断言した。 日本の俗説が正しいか、それともこの米国の専門家の主張が正しいかは別として、NERCという組織の存在は、今後の日本の電力改革を考える上でも興味深いものだ。  03年の東部の大停電を受けて米国議会は電力の信頼のスタンダードを強化するよう義務づける法案を通した。  停電が起きるのは、需要に見合った発電の能力や送電能力がないときに起きるものである。  将来の需要の動きを想定しながら、それに必要な発電や送電の整備を進めていかなくてはいけない。 そのための監視機関がNERCである。  全国の送電網の状況を常に監視するだけでなく将来の送電網の増強についても指示を与える。   その結果もあってか、大停電以降、米国の送電網の容量は確実に増えている。
 そしてこれが重要なことだが、そうした監視を有効にするためNERCは電力会社からすべてのデータを徴収する権利があるという。  データに基づき、全米での広域での電力需給の状況を監視し、将来への投資増強の指示をするのだ。  NERCは政府機関ではない。  電力関係の会社がメンバーになって経営されている私的な監視機関である。  しかし個別の電力会社とは独立の存在であり、厳しい行動規範で縛られている。  民間だからこそ持っている専門知識と、公的な存在でシステム全体を監視するという絶妙な組み合わせである。

 さて、日本の現状はどうなっているのだろうか。 送電や発電の情報はすべて個々の電力会社が持っている。 外には出てこない。 中立的な立場で全国的な広域で監視する仕組みは脆弱(ぜいじゃく)である。 電力会社は自分の領域での送電網だけに関心があるので、異なった電力会社間の送電設備の容量は小さい。 どこかの地域で大きな問題が起きたからといって、他の地域からの送電でそれを支える能力に限界があるようだ。  そもそも、個々の電力会社には、全国規模での電力ネットワークのあるべき姿を考える誘因が弱い。  電力供給が地域ごとに分断され、広域化が進みにくくなっている。

 地震原発事故で、こうした日本の弱点が露呈してしまった。  北海道と本州の間の系統線はただでさえ容量が少ないのに、最近までその一部が切れていたという。  九州の火力発電所が故障したとき、他の地域からの電力補給が系統線の容量を超えるのではないかと心配された。  日本にも、電力会社からは独立した中立的な立場で電力需給を監視する組織が必要なのかもしれない。(いとう もとしげ)