・中国の軍隊が国家の軍ではなく、党の軍だからだという批判が将校団の間にある。

太子党幹部の大きな特徴は、軍幹部に親密な友人がいる点にある。  北京の名門小中学校に通うのは、党や国の元老の子や孫たちだ。  当然ながら、軍将官の子弟もいる。  彼らは親の職業を継ぎ、軍人の道を選ぶ。   訳もなく出世コースに乗り、集団軍の司令になり、軍区司令にまで昇進できるからだ。
太子党の党幹部は軍幹部と“契りを結ぶ”ことになり、兵符を弄ぼうとする野心家も出てくる。
・「町人の子」と陰でいわれた後任の胡錦濤氏も、軍へのコンプレックスから軍事費を毎年2桁の伸びとする江路線を踏襲してきた。
・中国の軍隊が国家の軍ではなく、党の軍だからだという批判が将校団の間にある。
・軍隊の国家化は悪だ、党化は善だと唱えただけで、彼らを納得させ得ないことは、現指導者の胡総書記も次期指導者の習近平氏も承知していよう。


〜〜〜関連情報<参考>〜〜〜
中国軍への党の疑心暗鬼は強い
中国現代史研究家・鳥居民    2012.7.17 03:05 [正論]
 前に、本欄に「権力亡者の芽摘んだ『新四人組』」と題する一文を奏した。その時に書かなかったことをここで述べよう。
≪兵符に手伸ばした?薄煕来氏≫ :
 兵符を握る、兵符に手を伸ばすといった言葉が中国にある。 10センチほどの青銅製の虎が縦に割られ、二つに分かれている。  左半分は中央が保管し、右半分は地方の太守に渡される。  中国の戦国時代、動員せよ、出兵せよとの命令書を携えた中央の使者が、地方の太守に真っ先に見せなければならないのがこの虎の片方だった。
 そのため、兵符は虎符(こふ)とも呼ばれた。   太守が持つ片方と合わせ、虎の背に彫られたいくつかの半字がぴたりと合って一つの字になれば、使者から手渡された命令書は本物ということになる。  その昔、日本の貿易で取引相手を相互確認する目的で使われた割り符のようなものだと考えていい。
 そこから転じた、兵符を握る、兵符に手を伸ばすという言葉の意味はもうお察しだろう。
 「社会管理」の名の下、治安を司(つかさど)る総元締になり、併せて国家主席になろうという野心を断たれた薄煕来氏の件に移る。
 重慶市党委書記だった薄氏の地位が揺らぎ始めたこの2、3月、彼は兵符に手を伸ばした、と噂された。  薄氏の力が及ぶ西北蘭州基地の戦爆機が北京中南海の党最高幹部居住区を爆撃するといった類いのお伽話(とぎばなし)から、二十数人の将官が薄氏を擁護する上申書を党中央に提出したという話までが乱れ飛んだ。
≪強まる太子党と軍幹部の関係≫ :
 こうした現象は、6年前の上海市党委書記の陳良宇氏の失脚、それより前の北京市党委書記の陳希同氏追放の際には起きなかった。
 何ごとをも隠すことができなくなったインターネットがいまだ普及していなかったことが、その理由ではない。  2人の陳氏と異なり、重慶市党委書記だった薄氏は、太子党だったからである。

 太子党派だ、共産主義青年団出身の団派だと中国共産党の幹部を二つに色分けするのは、中国内外で誰もがやってきたことだ。
 太子党幹部の大きな特徴は、軍幹部に親密な友人がいる点にある。  北京の名門小中学校に通うのは、党や国の元老の子や孫たちだ。  当然ながら、軍将官の子弟もいる。  彼らは親の職業を継ぎ、軍人の道を選ぶ。   訳もなく出世コースに乗り、集団軍の司令になり、軍区司令にまで昇進できるからだ。
 こうして太子党の幹部は将官となった幼なじみと旧交を温めることになる。 小学校の同級生ではなくても、軍高官が党幹部に向かって、私に目をかけてくれた上官は建国前後に政治委員だったあなたの父上にかわいがられたと常々語っていたなどと喋(しゃべ)り、親しい関係を築こうとする。
 こうして、太子党の党幹部は軍幹部と“契りを結ぶ”ことになり、兵符を弄ぼうとする野心家も出てくる。

 ところで、この20年の間、党総書記は「平民」だった。   総書記となる前、江沢民氏は軍と何の繋がりもなく、軍にコンプレックスを持っていた。 そこで、党中央軍事委員会主席となった氏は、軍幹部の集まりで、制服組よりも過激な攘夷論を叫び立てることになり、軍のご機嫌取りに努め、軍事費の野放図な増額を認め、軍産複合体を肥大化させるに至った。
 「町人の子」と陰でいわれた後任の胡錦濤氏も、軍へのコンプレックスから軍事費を毎年2桁の伸びとする江路線を踏襲してきた。
 薄氏の政敵であり、胡氏の信頼が厚い広東省党委書記の汪洋氏が率先して、党中央に対する軍の忠誠を宣誓してみせ、各地の同様の動きが軍の機関紙や人民日報の国内版に何度も載った。   党と軍の首脳部が何を警戒したかは、観察者には容易に想像できた。

≪「国家の軍隊」いまだ成らず≫ :
 ところで、党中央は懸念をもう一つ抱いていることを露呈した。  「党の軍隊」を強調する論文が何回も掲載されたのだ。
 「軍隊を国家化せよ」と薄氏が主張していたわけでは、むろんない。
 外部の観察者がしばし理解に苦しんだ党、軍の中央のもう一つの懸念は、次のようなものだった。  薄氏のような危険で悪質な野心家が、兵符に手を伸ばすことになるのは、中国の軍隊が国家の軍ではなく、党の軍だからだという批判が将校団の間にある。  そう案じての教化工作だったのだ。
 だが、軍内のそのような批判は何も、昨日今日起きたものではない。 
 党の軍隊であるがため、軍内の太子党が徒党を組んで好き放題をしてきたのを、それこそ、「平民」出身の将校たちはずっと怒りを抑えて見てきたのだ。

 今さら、軍隊の国家化は悪だ、党化は善だと唱えただけで、彼らを納得させ得ないことは、現指導者の胡総書記も次期指導者の習近平氏も承知していよう。
 誰もが知るとおり、習氏は太子党派である。
 軍にコンプレックスを持っていない習氏が、合理的な考えと決断力を持った太子党の軍人を登用できるのであれば、中国内外の人たちは、第18回党大会後の中国の軍に、いささかの期待をかけられることになる。(とりい たみ)