・大きな時代的変化の中では、小細工的な改革よりも一党独裁体制の放棄こそが党自身が窮地から脱出できる唯一の道だ!

・今の中国では、当局が力ずくで民衆の反乱を押さえ込むようなことはそう簡単にできなくなっている。  そのことは共産党政権そのものの弱体化を意味している。
・民衆の抗議行動とその憤りの矛先は明らかに、政府よりも党の方へ向かっていた。
・何か起きる度に追及の矛先と憤りのやり場を党の方へ持っていくのはむしろ自然の成り行きである。
・力ずくで民衆を統制できるような時代が過去のものとなっていくと、共産党政権の立場はますます苦しくなってくるのであろう。
・民衆の不満が高まってくるのにしたがって、常に追及と攻撃のターゲットにされていながらもそれを簡単に押さえ込むこともできない各地の党委員会と共産党政権全体は窮地に陥っていく。
・大きな時代的変化の中では、小細工的な改革よりも一党独裁体制の放棄こそが党自身が窮地から脱出できる唯一の道だ!





〜〜〜関連情報<参考>〜〜〜
四川省暴動事件 一党独裁のほころび露呈
2012.7.19 11:01 [石平のChina Watch] 中国カシュガル ウルムチ暴動から3年 宗教管理強化が裏目
 
 今月初め、中国四川省の什●(シュウホウ)市で市民による暴動事件が起きた。 政府当局が誘致してきた金属工場の建設をめぐり、住民たちが「健康被害が出る恐れがある」として反対運動を起こしたのがことの始まりである。
 運動が盛り上がっていく中で、参加者の一部が暴徒化し什●市共産党委員会と市政府の庁舎への破壊行為にまで及んだ。
 だが事件の結末はむしろ意外なものであった。 政府当局は一応、公安警察を現場に派遣して警戒に当たらせたが、警察部隊は本格的な実力行使に踏み切らなかった。 そして、共産党什●市委員会の李成金書記は、くだんの金属工場建設の中止を発表した。
 今の中国では、当局が力ずくで民衆の反乱を押さえ込むようなことはそう簡単にできなくなっている。  そのことは共産党政権そのものの弱体化を意味しているが、上述の什●事件からは、党の支配体制に生じている大きな矛盾の一つを見取ることもできる。
 民衆の暴動で当局の庁舎が破壊された中で、実は市政府のそれよりもむしろ共産党委員会の庁舎の方が破壊行為の主な対象となっていたことが国内の報道で分かった。
 民衆の抗議行動とその憤りの矛先は明らかに、政府よりも党の方へ向かっていたのである。
 おそらく当の党委員会にとって、それは甚だ「心外」だったのであろう。
 中国の政治システムにおいては、各地方の党委員会は確かに権力の中枢ではあるが、工場建設などの具体的な「経済工作」はむしろ政府の管轄範囲であって、党のあずかり知るところではない。
 本来なら、金属工場建設の一件で党委員会までが暴動の対象にならなくても良かった。
 だが結果的にはやはり、民衆は容赦なく党委員会の庁舎に乱入して憤りの打ち壊しを断行した。 要するに民衆からすれば、党が権力の中枢としてすべてを支配している以上、それは当然、この地方に起きたすべての問題に対して責任を負わなければならないものだ。 
 だから、何か起きる度に追及の矛先と憤りのやり場を党の方へ持っていくのはむしろ自然の成り行きである。
 もちろんこのような感覚は一地方に限らず、中国国民全体に行き渡っているはずだ。  一党独裁体制を敷いてあらゆる支配権を手に入れている共産党は結局、この国で起きたすべての出来事に対して何らかの責任を負い、民衆の不満や憤懣(ふんまん)を一身に背負う立場にあるのである。
 それこそは、独裁政権が独裁であるが故に抱える根本的矛盾の一つだが、これまで、党の支配体制が盤石で民衆の不満と反乱を簡単に押さえ込むことができたときには、党は矛盾を抱えながらも何とかして体制を維持できた。
 しかし什●事件からも分かるように、力ずくで民衆を統制できるような時代が過去のものとなっていくと、共産党政権の立場はますます苦しくなってくるのであろう。
 とにかく今後、民衆の不満が高まってくるのにしたがって、常に追及と攻撃のターゲットにされていながらもそれを簡単に押さえ込むこともできない各地の党委員会と共産党政権全体は窮地に陥っていく。
 最近、党の政治権力の及ぼす範囲への制限を着眼点とする「政治改革」の機運が政権内で高まってきているが、それは、「すべてを支配しているが故にすべてに責任を負わなければならない」というジレンマから党を救い出すための動きの一つであろう。
 だが、大きな時代的変化の中では、小細工的な改革よりも一党独裁体制の放棄こそが党自身が窮地から脱出できる唯一の道となるのではないか。

【プロフィル】石平
 せき・へい 1962年中国四川省生まれ。北京大学哲学部卒。88年来日し、神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。民間研究機関を経て、評論活動に入る。『謀略家たちの中国』など著書多数。平成19年、日本国籍を取得。
●=方におおざと