・人民解放軍は ハードウェアにおいても核兵器、ミサイル、潜水艦、航空機、宇宙戦略、サイバー攻撃など多様な分野で目覚ましい戦力の増強を進めている。

・今のアメリカにとって対外政策上の重大課題は、まさにアジアでの動きに対応していくための新しいアジア戦略だ!
アメリカは戦後一貫して西欧諸国と同盟を結びながらも、自国を太平洋国家としても位置付けて、アジアへの関与を保ってきた。
アメリカは今日本、韓国、オーストラリア、フィリピン、タイ、台湾の各国とそれぞれ個別の安全保障条約を結んで同盟関係を築いている。
アメリカはアジア戦略保持のためアジアに軍事力を保ち、日本に三万六千人、韓国に二万八千人、その他第七艦隊の数万人という規模の米軍がアジアに駐留している。
・今アメリカはこれまでの政策に歴史的と呼べるほどの変革を求められるようになりつつある。
・変革をもたらす背景は一体何なのか?
 第一は 中国のパワーの拡大、特に軍事面での飛躍的な能力の向上が米軍のアジアでの機能に大きなブレーキをかけるようになった。
 第二は 北朝鮮の軍事冒険主義的な動向が挙げられる。
 第三は アメリカ国防費の大幅削減が挙げられ、国防費が減ればこれまでの米軍のアジアでの活動が継続できなくなる。 
・中国が国際的な規則や合意を重視せず、しかも軍事力で台湾を軍事制圧できるだけの能力を保つことを内外に鮮明にすると共に、更にエスカレートして、東シナ海南シナ海から西太平洋の広い海域まで、中国自身が第二列島線と呼ぶ広大な海域へ、覇権を拡大させる動きを見せている。
人民解放軍は ハードウェアにおいても核兵器、ミサイル、潜水艦、航空機、宇宙戦略、サイバー攻撃など多様な分野で目覚ましい戦力の増強を進めている。



〜〜〜関連情報<参考>〜〜〜
日本に迫る危機
古森義久  2012.09.11 Tuesday
 日本が国内政局の振り回されている間に、周辺ではかつてない危険な事態が進行しています。  アジアの安全保障の状況が日本にとって深刻な変化をみせているのです。 そのへんの状況を最近の東京での講演(日本工業倶楽部第1389回木曜講演会講演)でお話ししました。   その記録がまとまったので紹介します。
<<「アメリカのアジア新戦略と日本」>>:
 今アメリカの報道対象となっている一番大きな出来事と言うと、言うまでもなく大統領選挙です。 当初は圧倒的に優位だとされたオバマ大統領の再選の見通しもここにきてかなり揺らいできました。 何しろ経済が良くない。 そのためにオバマさんは「経済に取り組む手腕がない」、「政府の力に依存し過ぎる」と批判されています。  一方、共和党ミット・ロムニー候補は経済面での論議を盛り上げて支持率を高めています。  今の段階では世論調査を見る限り、支持率は全く五分五分という展開です。
 この大統領選挙での両候補の政策がぶつかる主要争点と言えば、経済政策に絡んでは「大きな政府」か、小さな政府かという選択であります。
 外交や安全保障というのはあまり討論されません。  しかしそんな中でまれな例外が中国への対応をめぐる論議です。  その対中政策と一体になっているのは、今回の私のお話のテーマである「アメリカのアジア戦略」ということになります。  そして大統領選挙キャンペーンを別にしても、今のアメリカにとっての対外政策上の重大課題と言えば、まさに今日のアジアでの動きに対応していくための新しいアジア戦略だと言えます。
 本題に入る前に先ず最初に結論を申し上げてしまうと、今アメリカのアジア戦略は 戦後最大の変革を迫られている。  しかもこれまでのアメリカが持っていた機能を大きく抑えつけられる危機に直面するに至ったということだと思います。
<これまでのアメリカのアジア戦略> :
 ではアメリカの従来のアジア戦略というのはそもそもどういう内容だったのか?  アメリカのアジアに対する安全保障政策と呼び換えてもいいわけですが、この政策の内容は割に明確であり、しかも戦後の六十年の間アメリカ内部で超党派の支援を得て成功してきた基本政策だと言えます。
 アメリカは戦後一貫して西欧諸国と同盟を結びながらも、自国を太平洋国家としても位置付けて、アジアへの関与を保ってきました。
 その関与の目的ですけれども第一に、当然ながらそのアジア太平洋に関わる自国の領土、利益、そして自国民の生命や財産を守ることです。
 第二は、アジアの同盟国を守ることです。 アメリカは今日本、韓国、オーストラリア、フィリピン、タイの各国とそれぞれ個別の安全保障条約を結んで同盟関係を築き、その同盟相手が第三国から軍事的な脅しや実際の攻撃を受けた場合には防衛に当たることを誓っているわけです。
 台湾に対してもその防衛を支援することをアメリカ国内法(台湾関係法)で宣言しています。
 第三には、アメリカはアジア太平洋の公海上での航行の自由、あるいはその空域での飛行の自由、それから今話題のサイバー攻撃に対するサイバー空間の保護といった公共財を守ることを誓約してきているということです。
 この点にはもちろんアメリカにとっての経済上の利益という大きな要素が絡んでいます。  つまりアジア戦略と言っても決して軍事だけではなく、軍事はむしろ手段であり、その先に政治や経済の目的があるわけです。
 第四の目的は、アジア全体の力の均衡をアメリカにとって優位に保つこと、軍事力のバランス保持ということです。  で、そのバランスを決定的に崩そうという動きが起きた場合には、アメリカは反発して、最悪の場合には軍事力の行使へと動いてきました。  朝鮮戦争などがその代表例です。  あるいは至近では一九九六年に中国が台湾に向けてミサイルを発射して威嚇した時、アメリカ海軍の空母二隻が直ぐに出動し台湾海峡周辺へと向かい、中国が直ぐに引っ込んだ事件もその一例だと言えます。
 アメリカはこうしたアジア戦略の保持のためにアジアに軍事力を保ってきました。 最近でも日本に三万六千人、韓国に二万八千人、その他第七艦隊の数万人という規模の米軍がアジアに駐留しています。  そしてこのアジア戦略の全体を俯瞰すれば、アメリカにとっての基本的な価値観の共有という基盤が明白です。  それは民主主義とか、個人の自由という政治的な価値観、あるいは経済面では自由な市場経済システムの保持と言えるでしょう。
アメリカの戦略を阻む中国の軍拡> :
 こんなところがアメリカのこれまでのアジア戦略の流れですけれども、このアジア政策が最近、巨大な挑戦を受け、脅威を与えられるようになってきました。  このままでは従来のアジア戦略が機能しなくなるのではという懸念が生じてきました。  この挑戦というのは、冷戦時代のソ連の脅威を別にすれば、戦後六十年において最大であり、その結果、今アメリカはこれまでの政策に歴史的と呼べるほどの変革を求められるようになりつつあるということです。
 ではそんな変革をもたらすようになったのは一体何なのか? 
 先ず第一は中国のパワーの拡大、特に軍事面での飛躍的な能力の向上が米軍のアジアでの機能に大きなブレーキをかけるようになったことです。
 第二には北朝鮮の軍事冒険主義的な動向が挙げられます。
 第三には性格は異なりますが、アメリカの国防費の大幅削減の見通しが挙げられます。国防費が減ればこれまでの米軍のアジアでの活動が継続できなくなる可能性がもちろんあるわけです。
 しかし以上の三つの挑戦・脅威の中では第一の中国の軍事パワーの拡大が何と言っても飛び抜けて大きいといえます。  中国の軍事力がこれまでとは比較にならないほど強くなって、米軍の防衛的な動きさえも抑え込んでしまうかもしれない。 そうなればこれまでの同盟関係も骨抜きになりかねません。
 中国の大規模な軍拡というのはもちろん新しいニュースではありません。
 着実な軍拡というのはここ二十年来のトレンドになっているからです。
 ですからアメリカの歴代政権も真剣な関心を払い、二〇〇一年からは国防総省が毎年中国の軍事力年次報告という詳細な調査研究の結果をまとめて議会に提出しています。
 そういう中で、この数年、特に中国の軍事拡張のペースが加速し、その質の向上に拍車がかかってきました。  そんな中国に対してオバマ政権は登場以来三年半、軍事動向への懸念は表明してきましたけれども、表面では穏健なスタンスを取って、できるだけ中国を名指しで脅威扱いしないように努めてきました。  中国との協力の分野を強調して、中国を国際社会の普通の一員として迎え入れようと働きかけてきたわけです。
 いわゆる関与政策であります。これは日本でも非常に馴染みの深い、日本政府がずっと取ってきた政策の基本だと言えます。
 ところが問題は、中国が国際的な規則や合意を重視しない。しかもその一方で軍事力でもいざという場合に台湾を軍事制圧できるだけの能力を保っていくことを内外に鮮明にすると共に、更にエスカレートして、東シナ海南シナ海から西太平洋の広い海域まで、中国自身が第二列島線と呼ぶ広大な海域へ、覇権を拡大させるような動きを見せ始めたわけです。
 そして人民解放軍はそれを可能にするべく、ハードウェアにおいても核兵器、ミサイル、それから潜水艦、航空機、宇宙戦略、サイバー攻撃など多様な分野で目覚ましい戦力の増強を進め出したのです。そういうハードウェアの兵器についての細かい説明は省略しますけれども、とにかく着実に兵器が近代化という名の下に増強を続けているのです。(つづく)