政治と経済が密着した中国共産党の世界では、汚職と腐敗は一つの風土病文化を形成している。

・温首相は繰り返し、腐敗の根絶を説き、政治改革の必要性を強調してきた。富の分配についても語り、「財産が一握りの人たちの手中にあるのは不公平だ、そんな社会は不安定だ!」と語ってきた。
温家宝一族は「温家宝氏が指導的地位にいる間に、驚くほどに豊かになった」  温家宝一族の資産は総計27億ドル(約2200億円)に上る。
・薄氏を追放し、政法委員会を掌握する政治局常務委員のポストをなくしてしまい、同委員会の力を削(そ)ごうとしたのは、10年任期の最後の年に温氏が断行した、「政治改革」の重大な布石だった。
汚職と腐敗は少なからぬ国の風土病である。だが、政治と経済が密着した中国共産党の世界では、汚職と腐敗は一つの風土病文化を形成している。
 改革開放政策の副産物でもある莫大(ばくだい)な負の遺産を、習総書記は引き継いだ!
・「政治改革」の重大な布石を打った温家宝を恨んだ保守勢力が、温氏一族の蓄財の事実を米紙の記者に提供した!









〜〜〜関連情報<参考>〜〜〜
習氏が継ぐ腐敗の政経一致体制
中国現代史研究家・鳥居民   2012.11.16 03:10 [正論]
 この3カ月、中国にかかわるニュースの中で、私が衝撃を受けたのは、尖閣諸島をめぐる日中間のごたごたでもなければ、15日に党総書記となった習近平氏の在任が2期10年を全うできず1期5年で終わるかもしれないといった予測でもない。  温家宝首相一族の膨大な蓄財を暴露した米紙ニューヨーク・タイムズの報道である。
≪暴かれた「孤独な改革者」≫ :
  中国研究者の端くれとして、温夫人がダイヤに執着し、それを大きなビジネスにしていること、温氏の母親が国内最大を誇る保険会社の大株主であること、一人息子の温雲松氏が、昨日まで政治局常務委員だった呉邦国氏の女婿、そして、中央宣伝部長で今回、政治局常務委員入りした劉雲山氏の息子ら「紅二代」と呼ばれる御曹司たちと組んで、株式市場で大儲(もう)けをしていることなどは、新聞や雑誌で読み、承知していた。
 その私も、温家宝首相に必ず付く、「孤独な改革者」という枕詞(まくらことば)には何となく納得していた。
 温首相は昨年7月、温州で起きた高速鉄道の事故の現場に駆けつけ、「背後に腐敗があれば、追及の手を緩めない」と断言した。  今年4月には、党理論誌「求是」に腐敗こそが党最大のリスクだといった論文を載せた。
 重慶市トップだった薄煕来氏の断罪、失脚、党追放を予告する一文である。
 同じ4月、地方中小業者の集まりでは、中国工商銀行を筆頭とする4つの国有銀行を批判し、あまりに儲けすぎて力を持ちすぎている、国有大銀行の独占を打破しなければならない、と説いた。
 温首相は繰り返し、腐敗の根絶を説き、政治改革の必要性を強調してきた。富の分配についても語り、財産が一握りの人たちの手中にあるのは不公平だ、そんな社会は不安定だ、と語ってきた。
≪首相の子息に逆らう者なし≫ :
 その温氏の一族による巨額の蓄財の、しかも、今回の中国共産党大会開幕直前の暴露である。
 3ページに及ぶ特集記事の1ページ目には、ふてぶてしさなど全く感じさせない、いつもの表情の温氏の写真を中央に置き、周りに実母、実弟、長男、長女、妻の弟、そして妻の小さな顔写真を配し、彼らは「温家宝氏が指導的地位にいる間に、驚くほどに豊かになった」と記してあった。別のページでは、温氏を囲む一族の写真を再び載せて「温ファミリー・エンパイア」と題し、彼らの資産は総計27億ドル(約2200億円)に上ると伝えていた。「一族のファミリービジネスで温氏の役割は明らかでない」と留保も付けてあった。
 とはいっても、中国共産党が支配する世界は、他の国には存在しないものだ。   かつて中国駐在特派員だったリチャード・マクレガー氏が、米国を例に取り、米国の全閣僚、各州の知事、主要都市の市長、ゼネラル・エレクトリックウォルマートの経営者、ニューヨーク・タイムズ、ウォールストリート・ジャーナルの編集トップ、各テレビ局のトップ、主要大学の学長まで、中国では、すべてを共産党の中央組織が決めると説明したことがある。
 温首相の子息の一言に逆らう党幹部、役人、経済人は中国にはいないのである。
≪これぞ真の「黄金の10年」?≫ :
 今党大会の前から、中国の報道機関は、胡−温の統治時代を「黄金の10年」と称(たた)えていたが、温氏の一族にとってこそ、本物の「黄金の10年」だったといえる。
 さて、温氏の一族が大層な蓄財をしていたことがさらけ出される前のことである。  温首相を口舌の徒だと批判し、「中国一の名優」だとからかう声まであった。 が、それは正しくない。  温氏の決意なしに薄氏追放はできなかった。  それは小さな出来事ではない。  薄氏と氏に自らのポストを譲る予定だった周永康氏の2人の「明日の中国」構想を打ち砕いたのだ。
 政治局常務委員の周氏は中央政法委員会を一手に握っていた。
 裁判所、検察院から公安部、国家安全部までを監督し、地方各レベルの政法委員会は「安定の維持」を至上目標に据え、党・政府機関に抗議し裁判所に訴えようとする市民、農民の行動を阻止し、場合によっては「労働を通じて再教育する」といった名目で、裁判なしに彼らを牢獄(ろうごく)送りにしてきた。
 薄氏を追放し、政法委員会を掌握する政治局常務委員のポストをなくしてしまい、同委員会の力を削(そ)ごうとしたのは、10年任期の最後の年に温氏が断行した、「政治改革」の重大な布石だった。
 そのことを恨んだ保守勢力が、温氏一族の蓄財の事実を米紙の記者に提供し、今回の党大会に出席した代表たちが語り合う絶好の話題にしてやろうとたくらんだという事情が、蓄財報道の裏にはあったとの見方がある。
 これをどのように批評したらいいのか、私には分からないが、それとは別の事実は語らねばならないだろう。
 汚職と腐敗は少なからぬ国の風土病である。だが、政治と経済が密着した中国共産党の世界では、汚職と腐敗は一つの文化を織り成している。改革開放政策の副産物でもある莫大(ばくだい)な負の遺産を、習総書記は引き継いだのである。(とりい たみ)