・日本は抑止の構えを毅然とみせつけ、挑発への抑止力の整備に怠りがあってはならない。 

・中国の主張の深層にあるものが「喪失した歴史の回収」であり、その回収のための国力と軍事力をすでに掌中にしたという認識−いかに過大な自己認識ではあれ−に到達したからだ!
・中国は92年2月に領海法(中華人民共和国領海及び隣接区域法)なる国内法をもって、南シナ海東シナ海、即ち中国に面する一帯の海域を自国領とした。 
・中国は貧富格差、官僚腐敗・汚職、環境劣化、少数民族問題と舵取りを誤れば暴動につながりかねない危険の要素を内にたっぷり抱え、これらがいずれも深刻の度を増している。
・日本は抑止の構えを毅然とみせつけ、挑発への抑止力の整備に怠りがあってはならない。 
・日米同盟における集団的自衛権行使容認へと国論をまとめ上げていかねば、日本は中国に抗することはもとより、中国と共存することさえ難しいのだ!


〜〜〜関連情報<参考>〜〜〜
歴史のトラウマ疼く習氏の中国
拓殖大学総長・学長 渡辺利夫  2013.3.5 03:30 [正論]
 「中華民族の偉大なる復興」。 5日開幕する中国の全国人民代表大会全人代)で国家主席に選ばれる習近平共産党総書記が、繁(しげ)く使う用語法である。  総書記に選出された後の内外記者会見で、氏は「中華民族を世界諸民族の中でさらに強力な存在として自立させる」と述べた。
  6人の政治局常務委員を同道し、中国革命の栄光を顕示する国家博物館に赴き、大略次のような重要講話を発した。
 ≪アヘン戦争以来の屈辱の歴史≫
 「アヘン戦争敗北以来170年余にわたり屈辱の歴史を背負わされてきたわが中華民族が、ついに偉大なる復興への道を探り当て、世界を瞠目(どうもく)させる成果を収めつつある。  中華民族の偉大なる復興こそが近代以降の中国人が最も強く待ち望んでいた夢である。   この夢には過去のいくつもの世代の人々の深い思いが込められている」
  アヘン戦争以来の「屈辱の近代史」は、中国人の内で疼(うず)き続ける歴史的なトラウマ(心的外傷)であり、その克服が中華人民共和国の建国であった。  しかし、建国後なお貧困と飢餓と暴力は止むことがなかった。
  1979年、トウ小平の時代に入ってようやく発展に火が点(つ)き高度経済成長の時代が開かれた。  その成果をもって、WTO世界貿易機関)に加盟し、北京五輪、上海万博を成功させ、ついにGDP(国内総生産)において日本を凌駕(りょうが)し、米国に次ぐ世界第2の経済規模を擁するに至った。
  これが近来の快事でなくて何であろう。 権力者や既得権益者ばかりではない。  貧困に打ちひしがれた人々にとってさえ、いや、むしろ、他に誇るべきものを持たない彼らこそ、一段と痛快な気分を味わっているのに違いない。
 ≪喪失した大清帝国の歴史回収≫
  中華民族の偉大なる復興とは、そういう中国人の胸に宿る情動の簡潔な修辞に他ならない。  そしてそこには、偉大なる過去への回帰欲求が鮮明に表出されている。  遠い過去ではない。  中国人の心に刻み付けられているのは大清帝国である。
  乾隆帝の時代に最盛期を迎え、モンゴル、チベットウイグルを組み込み、中国史上最大の版図となった王朝である。   面積で測れば清は明王朝の3倍に近い。  異民族を包摂する多様で広大で強力な中華帝国であった。  欧米が産業革命を経験する以前に現出したこの帝国こそ、往時の世界の圧倒的な大国であった。  習氏の講話がアヘン戦争以来の屈辱にこだわるのも、それ以前の中国への回帰という中国人の規範的な歴史意識に忠実たらんとしているからであろう。
 「喪失した歴史の回収」というべきか。  アヘン戦争以来、列強によって収奪された富と力を取り戻さねば身の証が立てられないという感覚が、中国人の胸中にはありありと存在する。   少なくとも現在の中国の富と力、その身の丈に見合う国際的権益の拡大を要求するのは当然のことだ、と彼らは考える。  この「膨張主義」は、いかなる権力者でさえ拒否できない民族感情へと膨れ上がっている。
  尖閣諸島海域での挑発的な行動は、日本人にはいかにも不快である。 歴史的にも国際法上も尖閣が日本固有の領土であることは明確であり、中国の領有権主張はどう考えても無理筋である。  しかし、中国が領有権主張を取り下げることはない。  彼らの主張の深層にあるものが「喪失した歴史の回収」であり、その回収のための国力と軍事力をすでに掌中にしたという認識−いかに過大な自己認識ではあれ−に到達したからである。
 ≪恒常的、長期的挑発覚悟せよ≫
  中国は92年2月に領海法(中華人民共和国領海及び隣接区域法)なる国内法をもって、南シナ海東シナ海、即ち中国に面する一帯の海域を自国領とした。周辺国にはいかにも尊大な行動であるが、中国には臆するところがない。
 実際、共産党大会冒頭の総書記(前任の胡錦濤氏)の政治報告では、「国家海洋権益を断固守り海洋強国を建設する」と宣揚した。   中華民族復興は海洋強国建設と表裏一体である。    されば、尖閣問題で中国が引き下がることはない。
  さりとて、中国がこの問題で日本と本格的に事を構えるのかどうか。
  貧富格差、官僚腐敗・汚職、環境劣化、少数民族問題と舵取りを誤れば暴動につながりかねない危険の要素を内にたっぷり抱え、これらがいずれも深刻の度を増している。
  投資反動不況到来の不気味な足音も聞こえる。  紛争と戦争にエネルギーを注ぎ込む余裕は、今の中国にはない。 それゆえであろう。  中国は領海・領空侵犯、レーダー照射など、武力行使すれすれの際どい手段を、日本がこれに耐えられず屈服する日まで恒常的かつ長期的に用い続けるものとわれわれは覚悟せねばならない。
  再度、強調したい。 中国の尖閣での挑発的行動は、恒常的かつ長期にわたる。 挑発への抑止力の整備に怠りがあってはならない。  抑止の構えを毅然とみせつけ、そのうえで、日米同盟における集団的自衛権行使容認へと国論をまとめ上げていかねば、日本は中国に抗することはもとより、中国と共存することさえ難しいのである。(わたなべ としお)