・日本は海洋管理体制を早急に整え、アジア海洋安全保障連携の核とならなければ、海の恵みが中国に独り占めされかねない。

・中国は批判、非難をよそに、海洋警備機関を統合した世界最大の「中国海警局」を創設し、まずは警察権を前面に出して南シナ海東シナ海の管理を力任せに推し進めている。
・パラセル(西沙)諸島沖の海域でベトナムとの対立を続け、今年3月、中国公船がベトナム漁船を銃撃し5月には体当たりしている。
スカボロー礁(中国名・黄岩島)で昨年、中国海洋監視船とフィリピン海軍艦船が中国漁船をはさんでにらみ合う事態となり、付近は現在、中国が実効支配している。
・今年は、アユンギン礁(中国名・仁愛礁)周辺に、中国の軍艦と監視船が出没し、フィリピン海軍艦船と対峙(たいじ)している。
・中国は昨年の共産党大会で、21世紀の国家発展戦略として、「海洋強国」になるという目標を掲げた。  
・中国は7月11日を「航海の日」と定める。
・1980年代から、トウ小平の指導下、東シナ海南シナ海支配下に置くことを目指した。 僅か、30年前だ!
長崎県五島列島付近には昨年7月、漁船106隻に乗った中国漁民約3千人が押し寄せている。
・アジア海域で法的拘束力のある海上行動規範を策定することが急務だ!
・沖縄からフィリピンを経てボルネオに至る第1列島線の大陸側海域を、中国の恣(ほしいまま)にさせない枠組みを作る必要がある。
・日本は海洋管理体制を早急に整え、アジア海洋安全保障連携の核とならなければ、海の恵みが中国に独り占めされかねない。




〜〜〜関連情報<参考>〜〜〜
中国突き動かす「鄭和の大遠征」
東海大学教授・山田吉彦    2013.6.5 03:26 [正論]
 この5月、中国で海洋政策に携わる官僚や軍関係者と会う機会があった。国家海洋局の官僚に海洋進出の目的を尋ねると、「中華民族の復興が根本的な目標。そのために海洋強国になる必要がある」との答えが返ってきた。
 ≪中華民族復興かけ海洋強国化≫
 中国は昨年の共産党大会で、21世紀の国家発展戦略として、「海洋強国」になるという目標を掲げた。  習近平氏は党総書記に就任して以来、「中華民族の偉大な復興の実現」を口にしている。 その柱が「海洋強国」である。
 中国は7月11日を「航海の日」と定める。 1405年に、明の太監、鄭和が2万7千人を乗せた艦隊を従え、北アフリカへの大遠征に南京付近の港を出立した日である。  鄭和が通過した国々は明への朝貢国となり、実質的な支配下に組み入れられていった。
 中国指導部、当局者らが、「海洋強国」建設による「中華民族の偉大な復興」を言うとき、軍事力と経済力でアジアの国々を影響下に置いた、この全盛期の壮図をイメージしているのではないか。
 今年の「航海の日」は、江蘇省南通市を中心に大々的な催しを繰り広げ、「海洋権益への国民の意識を高め、海洋経済の発展に結び付けていく」方針だという。
 中国の海洋進出が始まったのは1980年代からである。
 トウ小平氏の指導下、東シナ海南シナ海支配下に置くことを目指した。 中国の国内総生産(GDP)の19%はすでに海洋に関わる分野だとされ、民族復興のため海洋の潜在力活用が不可欠なのだ。
 東シナ海では現在、尖閣諸島周辺の日本の領海内を中国の管轄海域と主張して、平然と公船を航行させて日本漁船を追い回し、長崎県五島列島付近には昨年7月、漁船106隻に乗った中国漁民約3千人が押し寄せている。
 ≪孤立無援のフィリピンの闘い≫
 もっと激しい攻勢に出ているのは南シナ海で、だろう。
 パラセル(西沙)諸島沖の海域でベトナムとの対立を続け、今年3月、中国公船がベトナム漁船を銃撃し5月には体当たりしている。
 フィリピンとの対立はさらにエスカレートしている。 ルソン島からわずか180キロのスカボロー礁(中国名・黄岩島)で昨年、中国海洋監視船とフィリピン海軍艦船が中国漁船をはさんでにらみ合う事態となり、付近は現在、中国が実効支配している。今年は、パラワン島200キロ沖でフィリピンが実効支配するアユンギン礁(中国名・仁愛礁)周辺に、中国の軍艦と監視船が出没し、フィリピン海軍艦船と対峙(たいじ)している。
 フィリピンは、1995年に管轄権を唱えるミスチーフ礁に中国軍が構造物を建設して以来、中国の海洋進出に悩まされてきた。
 業を煮やして、この1月、中国による領有権主張の違法・無効性を訴え、中国艦船の活動の停止などを求め、国際裁判所の一つ、仲裁裁判所に提訴した。 中国はこれに応じず前途多難とはいえ、提訴は対中牽制(けんせい)にはなるだろう。ただし、各国から声援もなく、残念ながら孤立無援の闘いである。
 こうした中、つい最近、シンガポールで開かれたアジア安全保障会議でも対立の構図が浮き彫りになった。
 中国人民解放軍の戚建国副総参謀長が「中国は海上で他国を挑発したことはない」と述べたのに対し、フィリピンのガズミン国防相は「中国は言っていることとやっていることが違う」と怒りを露(あら)わにして反発した。
 戚副総参謀長は領土・領海紛争について、「解決できない状況なら争いを棚上げし対話を通じて問題を解決すべきだ」とも発言、ベトナムのビン国防次官は記者の質問に答えて、「平和発展を追求するという中国の政策には賛同するが、現実はその通りになっていない」と不信感を示した。
 ≪海の恵み独占させぬ枠組みを≫
 だが、中国は批判、非難をよそに、海洋警備機関を統合した「中国海警局」を創設し、まずは警察権を前面に出して南シナ海東シナ海の管理を力任せに推し進めようとしている。
 海警局は6月末には統合体制も整い、世界最大の海洋警備機関となって活動を開始する。
 東南アジア諸国海上警備能力では到底、海警局に太刀打ちできない。これらの諸国にとって、アジアに軸足を移しつつある米軍による対中抑止力が最大の頼みの綱、という状況である。
 中国の海洋進出の拡大に歯止めをかけるには、アジア海域で法的拘束力のある海上行動規範を策定することが急務である。
 日本は、中国の海洋進出が日本に対してだけではなく、アジア全域に伸びている現状を強く認識して、海洋安全保障体制の構築を進めなければならない。沖縄からフィリピンを経てボルネオに至る第1列島線の大陸側海域を、中国の恣(ほしいまま)にさせない枠組みを作る必要がある。日本にもそのための外交力が求められているのだ。
 日本が自ら海洋管理体制を早急に整え、アジア海洋安全保障連携の核とならなければ、海の恵みが「中華民族の偉大な復興」のため独り占めされかねない。(やまだ よしひこ)