・政治の全体像をつかむには、3要素の目配りが欠かせないのだ!

・権力者の世界ほど、恐ろしいものは無い。
・猿飛佐助、ねずみ小僧の愛称がついた山口がいつの間にか、安倍晋太郎の側近に収まり、ポスト中曽根の擁立に奔走したのは26年も前のことだ。
海部俊樹の後継首相を争った1991年の政局、小沢一郎が、金丸の指示で、宮沢喜一三塚博渡辺美智雄の3候補を呼びつけ面接したのは、いまも話題になる。 この時、小沢は3人の中から渡辺を推した。あの頃、首相の相場は3億円だ!
・渡辺派はカネの動きを察知し、あわてて、派内の資産家などに手配し、3億円かき集めて、金丸邸に駆け込んだが、時すでに遅かった。
・人脈、カネ、嫉妬。 古い話ばかりのようだが、人間も政治家も、外部の装いは変わっても、そう変わるものではない。
・政治の全体像をつかむには、3要素の目配りが欠かせないのだ!






〜〜〜関連情報<参考>〜〜〜
人脈・カネ・嫉妬の「いま」   
岩見隆夫  2013.10.06
 昨年暮れ、雨の夜だった。 東京・富ケ谷の安倍晋三自民党総裁(当時)私邸の玄関を一人の老人がくぐった。 村上正邦自民党参院議員会長。
安倍と村上、そうねんごろな間柄ではないが、81歳のいまも村上は眼光鋭く、こわもて筆頭だ。  「どうなの、あんたのライバル、誰なの」と聞く。
「それは、石破(茂)……」
「ふん」
  衆院選の真っ最中だ。 自民党の圧勝、安倍の首相就任はすでに確定している。  しかし、安倍時代の到来が釈然としないような雰囲気だった。
2人の仲介者は山口敏夫元労相、同席した−−。
 この政界裏情報は後輩の記者から聞いた。  いまの私にはナマ情報を入手する力はない。  聞いた時、まさか、と思ったのはなつかしの山口の登場である。  童顔、短躯(たんく)、二十数年前の当コラムに、<すきま政治家>と書いたことがある。 言いにくいことをサラリと言い、入りにくいところにも平然と入っていく特技があった。
 猿飛佐助、ねずみ小僧といくつも愛称がついた。
山口がいつの間にか、安倍晋太郎の側近に収まり、ポスト中曽根の擁立に奔走したのは26年も前のことだ。  晋太郎が、「牛若丸には振り回されるからなあ」と目を細めていたのを記憶している。  あのころの人脈がいまも政界の裏側で息づいている。
73歳の意外な老フィクサー
人脈の次はカネの話。
海部俊樹の後継首相を争った1991年政局の舞台裏だ。  当時、自民党最大派閥竹下派金丸信会長がキングメーカーとして、文字通り君臨していた。
  愛弟子、会長代行の小沢一郎が、金丸の指示で、宮沢喜一三塚博渡辺美智雄の3候補を呼びつけ面接、物議をかもしたのは、いまも話題になる。  小沢批判もさることながら、むしろ金丸という一人の実力者が、これほどまで権勢を誇ったのは、戦後史に類をみないからだ。
 異常な時期だった。
 この時、小沢は3人の中から渡辺を推している。
 しかし、渡辺派はカネの動きを察知し、あわてた。  すぐに派内の資産家などに手配し、3億円かき集めて、金丸邸に駆け込む。
 だが、時すでに遅し。
「それは、ほかからもらっているから」と突き返された。
 あの頃、首相の相場は3億円? この話、渡辺の側近から聞いた。
 もちろん完全オフレコ。 しかし、主な関係者も亡くなられ、お許しいただけるだろう。
 もうひとつ、政治家の<嫉妬>について。 前にもご紹介した記憶があるが、とにかく、男の嫉妬ほど恐ろしいものはない。
 以下は読売新聞社主筆渡辺恒雄の「天運天職」(光文社・99年刊)に収録された政界裏面史の一コマだ。
  62年、日韓国交正常化をめぐる内幕だが、渡辺も深くかかわる大変な難交渉の末、<大平(正芳・外相)・金(鍾泌・中央情報部長)合意メモ>にまとまる。
 ところが、日本政府が実行を渋り、韓国側がいらだつ。  池田勇人首相が認めなかったからだ。
 のちに、内々の会合で渡辺は、「あなたは池田さんの最大の腹心でしょう。 池田・大平は一体とまで言われた。  それなのに、なぜ池田さんはあなたがまとめた話を認めなかったのです」
「嫉妬です」
「……」
「池田派の後継者は大平だろうと新聞が書き出してから、池田総理の態度が変わったんだ。 池田は私に嫉妬している。  最高権力者は常にナンバー・ツーに警戒心を持つんだね」
渡辺は、同書で、<本当にびっくりした。総理大臣が外務大臣に嫉妬するなんて考えられなかったからね。でも、それが、あの哲学者のような大平さんの返事だったんだ。陰々滅々となった。
「恐ろしいな、権力者の世界は」と思ったな……>と述懐している。

人脈、カネ、嫉妬。古い話ばかりのようだが、人間も政治家も、外部の装いは変わっても、そう変わるものではない。
  安倍首相の周りには3要素が渦巻いている。 安倍ほどではなくても各党党首も同じだ。 党首だけではなく、政界全体がそれで動く。
 ドロドロ政局からサラサラ政局へ、などと言われる。 それは見かけの話であって、内実は違う。 表向きの政局と別に、日々裏が進行しているのである。
 カネの動き方だけは確かに派閥全盛時代と変わった。 しかし、動いている。3要素、目配りしていないと、政治の全体像がつかめない。
 意外な人脈、意外な嫉妬が発生したりしている。(敬称略)