「大国の自閉症」というパラドックスとは?

・「中国には総合的な、整合性のある戦略がない」とエドワード・ルトワックは言う。
・独裁体制の軍とは、軍同士の横の連絡を取らせない仕組みを特徴とする。
・「中国がその台頭する力を周辺国にたいして領有権の主張という形で表現すると、それが敵対的な反応を発生させることになり、影響力を破壊することによって全体のパワーを減少させることになる。
 よって台頭する国は『パワーが台頭している』という事実そのものから、パワーを失ってしまうことになるのだ」
エドワード・ルトワックは「軍事大国として急激に台頭した中国は、パワーを失ってしまう」と言うパラドックスに直面する」と言う。
・これが「大国の自閉症」というパラドックスだ!






〜〜〜関連情報<参考>〜〜〜
書評「自滅する中国」   
宮崎正弘  2013.10.15
 軍事大国として台頭した中国に、ばらばらだった周辺国が同盟関係を模索する。  歴史のアイロニー、いやこれが「大国の自閉症」というパラドックスだ・
エドワード・ルトワック著 奥山眞司監訳『自滅する中国』(芙蓉書房出版)
 ルトワック博士(CSIS上級顧問)と言えば、世界的に有名な戦略研究家として知られ、評者(宮崎)も氏が日本に来られたおり、数年おきくらいに三度ほど会ったことがある。
  世界情勢をめぐる氏との会話は刺激的で、なかなか日本人の発想の枠では思いつかないアイディアの持ち主だ。
  過去の対話でも一番強烈な印象は「中国には戦略がない」と言ったときで、孫子の末裔に戦略がないとは、いかなる諧謔か、あるいはパラドックスかと訝しんだ。 しかし本書をよめば、それも納得できる。
  原著の題名は『The Rise of China vs The Logic of Strategy』である。
  氏のいう「中国には戦略がない」と言う意味は総合的な、整合性のある戦略が不在という意味である。
 それは「人民解放軍には、それぞれの軍管区の上に位置する統合司令部がないのだ。 つまり、国家レベルでの指揮権の統一もなく、各軍の力を集中するための即応能力もなく、各軍の行動を調整する能力すらないのである。(理由は)選挙で選ばれていない中国共産党指導者たちにとっては非常に都合の良い仕組み」だからである。
 つまり独裁体制の軍とは、軍同士の横の連絡を取らせない仕組みを特徴とする。 ライバルの軍がどういう作戦をとるかさえ、他の部隊はしらないこともある。 近代的総合戦力にはなり得ないのである。  
 さて本書の肯綮は次の箇所である。
「ある国家が周辺国よりも相対的に国力を伸ばして侵略的な振る舞いを始めるようになると、その支配者、支配者層、そしてエリート達が『新しいパワー』は国家の栄光やさらなるパワー、もしくは一般的に想像されているような富などの追求において有利に活用できるはずだ」と自分たちの思いこませてしまう。
 すると周辺国は反応する。
「ある台頭した国によって脅威を受けた別々の隣国たちが、それまでは互いに関係が深いわけでもなく、場合によっては悪い関係にあることもあるだが、新しい脅威に対して新しく合同で対処する方法を探ろうとして、互いにコミュニケーションを始める」
 だから「中国周辺のあらゆる国々が、その台頭する国力にたいして同じような反応を起こしている。
 オバマ政権の場合は、これが大西洋から太平洋へ『重心』を移す政策を宣言したことにも見られるし、より控えめなものとしては、オーストラリアが中国との友好関係を主張しながらも、同時にダーウィンに新たな米軍基地を開設し、インドネシアとマレーシアにたいして中国の領海主張に抵抗するように静かに支援している」
 したがって、「中国がその台頭する力を周辺国にたいして領有権の主張という形で表現すると、それが敵対的な反応を発生させることになり、影響力を破壊することによって全体のパワーを減少させることになる。
 よって台頭する国は『パワーが台頭している』という事実そのものから、パワーを失ってしまうことになるのだ」。
  APEC、アセアン会議における中国の孤立化、そして対照的にベトナム、フィリピン、インドネシアの連携や日本へのアジア諸国の期待の高まりをみよ!
 軍事大国として急激に台頭した中国が、いま直面するパラドックス!