中国とロシアは、時間とともに協力関係の限界も見えてくるだろう

・ロシアは以前、中国への最新兵器の売却については、リバースエンジニアリング(分解・解析)を警戒して二の足を踏んでいた。
・それが今では、最新鋭の防空システムの供給で合意している。ロシア製の「S─400」地対空ミサイルを配備すれば、中国は台湾やインドの主要地域の上空にある目標も破壊できるようになる。
・中国とロシアは、将来の両国関係にとってプラスにもマイナスにもなる可能性がある新たな地域機関に複数出資している。
・1950年代半ばから1980年代後半までの約30年間、両国関係はイデオロギーの違いなどを背景に深刻な対立状態にあった。
・両国がたどった道のりの違いや歴史的不満を考慮すれば、中国とロシアは、時間とともに協力関係の限界も見えてくるだろう。








〜〜〜関連情報(参考)〜〜〜
中国とロシア「友情」の賞味期限   
古沢襄  2015.05.15
■中国の格下という関係に甘んじないロシア
[13日 ロイター]ロシアと中国は今週、黒海と地中海で海軍の合同軍事演習を行う。先週には、中国の習近平国家主席がモスクワを訪れるなど、ユーラシア大陸の2大国家が関係を強化していることがこのところ浮き彫りになっている。
 両国は重要な経済的利益を共有し、米国主導の世界秩序にもそろって反対しているが、時間と共にその関係は不均衡かつ緊張したものになるとみられる。
 不和を生むであろう大きな要因の1つは、
中国が力を増している一方、ロシアはそうではないことだ。ロシアは、自国が中国の格下という関係に甘んじないだろう。中国は中国で、ロシアが望むような敬意を持ってロシアに接することはなさそうだ。
 しかしながら、中ロ関係が強まりつつあるのは間違いない。
2国間の貿易額は年間1000億ドルに上る(これはロシアの貿易全体の10分の1、中国の貿易全体の40分の1だ)。
中国の習主席は先週のプーチン大統領との会談で、「シルクロード(一帯一路)経済圏構想」の一環としてロシアのインフラに投資する可能性に言及。 実現すれば、中国製品をロシアや欧州、そして中東へと運ぶ輸送ルートが改善することになる。
  両首脳はまた、シベリアのガスを中国に運ぶ2つの大規模プロジェクトを続行することでも合意。 中国はロシアにとって、欧州を抜いて最大の天然ガス供給先となる可能性がある。
 しかし、一方で不安定な側面もある。こうしたプロジェクトは高いコストが見込まれるが、ロシアが欧州ガス市場でシェアを失うなか、ロシアをリスキーな投資先と考える中国は交渉で厳しい条件を突きつけている。
 ロシアはウクライナ問題をめぐる経済制裁で西側資本市場での資金確保が難しくなっているが、中国からの投資がそれに取って代わるとはもはや期待していない。

 ロシアは以前、中国への最新兵器の売却については、リバースエンジニアリング(分解・解析)を警戒して二の足を踏んでいた。
 それが今では、最新鋭の防空システムの供給で合意している。ロシア製の「S─400」地対空ミサイルを配備すれば、中国は台湾やインドの主要地域の上空にある目標も破壊できるようになる。
 中国とロシアは、将来の両国関係にとってプラスにもマイナスにもなる可能性がある新たな地域機関に複数出資している。
  中国が主導する上海協力機構(SCO)は、主に中央アジア全域で、テロ対策や過激主義者や分離主義者への対策を強化している。ロシアを含む全加盟国が懸念しているのは、アフガニスタンや中東からの過激派戦闘員の流入だ。
 ロシアが主導するユーラシア経済連合は、ロシアとアルメニアベラルーシカザフスタンで構成する関税同盟が母体となっている。
 このグループの高い関税障壁は中国に気をもませるはずだ。また、中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)はユーラシアでは大きな目玉であり、創設メンバーとしてロシアは大型融資を望むはずだ。
  中国政府とロシア政府は、権威主義的政治システムへのコミットという面でも結び付いており、双方とも舌鋒鋭い国家主義的な言説を強めている。
 プーチン大統領と習主席は、米国政府によるオープンな政治システムの推進に不満を覚えている。 こうしたことは、香港の学生デモに対する中国政府の反応や、ウクライナ政変は国外勢力が操っていたとするロシア政府の主張にも見て取れる。
 一方、共通の利益は有しているものの、歴史を少し振り返れば分かるように、長期的な両国の協力関係に明るい展望は描きにくい。
 1950年代半ばから1980年代後半までの約30年間、両国関係はイデオロギーの違いなどを背景に深刻な対立状態にあった。
 そうした流れが大きく変わったのは、約30年前のゴルバチョフ書記長とトウ小平氏の首脳会談あたりからだ。
 ただ最近では、経済的に厳しさが増しているロシアは、中国と対等に渡り合う力が弱まっている。
  経済規模で中国はロシアの4倍以上であり、その差は拡大の一途にある。エネルギー価格急落と西側による制裁、国家統制システムがロシア経済の大きな重しとなっている。
 極東ロシアの人口動態も、中国との安定的な関係に暗い影を落としている。
  中国政府は長年、ロシアとの国境は19世紀以前の「不平等条約」によって不当に引かれたものだと主張してきた。極東ロシアに数百万人に上る中国人「出稼ぎ労働者」がいることが、人口の不均衡を如意に物語っている。 中国北東部にはさらに数億人の人口がいる。対照的に、極東ロシアに住むロシア人は約600万人だ。
 また中国とロシアは、ともに「中所得国のわな」に直面している。それを回避するためには、両国経済は天然資源や安価な労働力への依存を減らし、イノベーションと生産性上昇に軸足を移さなくてはならない。
 どちらか一方でも、所得の増加に伴う国民の要求拡大に応えることができなければ、その結果生じる混乱は国境を越えて広がる可能性がある。
 両国はそれぞれ、周辺国との関係が不安定な時期に突入している。プーチン大統領ウクライナジョージア(旧グルジア)に対して武力を行使し、バルト海周辺でも欧州に圧力をかけている。
  中国は東シナ海南シナ海で領有権の主張を強めている。これらの動きは、北大西洋条約機構NATO)の再活性化や、多くのアジア諸国が米軍の支援強化を求める流れにつながっている。
 ロシアと中国は、お互いの戦略的優先事項で衝突するのを避けようとするだろうが、それでもリスク要因はある。
  中国は、ウクライナ危機に巻き込まれることに利益を見いだしていない。ロシアの行動は、主権国家の国境不可侵と内政不干渉を主張する中国の外交政策と矛盾するからだ。
中国にとって、これらの主張はチベットや台湾、新疆ウイグル自治区に対する政府の姿勢の支柱になっている。一方、ロシアは東・南シナ海には関心がほとんどなく、そこでは何かあっても中国を見捨てるだろう。
 西側には、中ロ関係の確執をあおることに関心はない。エネルギー面での協力拡大は世界的な供給源の多角化につながるだろうし、協力的な貿易協定はビジネスチャンスを広げることになるだろう。
 ただ同時に西側には、中国とロシアが周辺国を抑圧しないようにすることには強い関心がある。ウクライナに対するロシアの圧力と、東・南シナ海への中国の進出は、西側に防衛力の強化を急がせている。

 米国は、中国とロシアとは多くの点で見解の不一致があるものの、両国との建設的な関係の構築を長年模索してきた。これは今後も続けるべきだ。米国はNATOの強化のほか、環太平洋連携協定(TPP)を含むさまざまな協力網を通じてアジア太平洋の大国になることに関心がある。
 もしロシアが新たな経済成長の源泉を見つけられなければ、大国としての地位を失うだろう。 中国とロシアには、特にエネルギーと貿易での実利主義を通じ、原則的な協力関係を構築する選択肢がある。ただ同時に、両国がたどった道のりの違いや歴史的不満を考慮すれば、時間とともに協力関係の限界も見えてくるだろう。
 中国・ロシア両政府は、重要な判断を下さなくてはならない。反米姿勢だけの共闘では、どちらも最も重要な国家のゴールを達成することはできないだろう。(ロイター・コラム)