・産業空洞化が懸念される中で、高速道路網が製造業など国内産業の活性化を促すことも裏付けられた。

・首都圏における環状道路の整備が進展したことで、東名と東北道間の走行時間が大幅に短縮されたのに加え、都心部の渋滞緩和につながる。
・さらに物流や観光などでも活性化が期待されている。インフラ整備で継続的に経済効果を生み出す「ストック効果」が発揮されそうだ。
・東名から東北道までの走行時間は首都高速道路経由で約130分かかっていたが、これが75分に短縮される。
・家具大手のニトリでは2年半後をめどに埼玉・幸手(さって)に大規模な物流センターを開設する計画だ。
・産業空洞化が懸念される中で、高速道路網が製造業など国内産業の活性化を促すことも裏付けられた。
・見直しで圏央道横浜横須賀道路の通行料は下がるが、首都高や第三京浜などは段階的に値上げされる。
・都市部から郊外に車を誘導し、渋滞を減らしながら社会の生産性向上につなげる取り組みを加速させたい。











〜〜〜関連情報(参考)〜〜〜
2015.11.8 11:00更新 【日曜経済講座】
圏央道が結ぶ4高速 物流・観光でも「ストック効果」 
論説委員・井伊重之

 「首都圏中央連絡自動車道圏央道)」の埼玉県部分が先月末に開通した。これによって東名高速道路と東北、関越、中央の各自動車道が圏央道経由で初めて結ばれた。首都圏における環状道路の整備が進展したことで、東名と東北道間の走行時間が大幅に短縮されたのに加え、都心部の渋滞緩和につながる。さらに物流や観光などでも活性化が期待されている。インフラ整備で継続的に経済効果を生み出す「ストック効果」が発揮されそうだ。
 「経済効果や観光、農業などあらゆる部分で新しい時代が開かれる。まさに歴史的な日だ」
 10月31日の開通式典で、埼玉県の上田清司知事は圏央道の果たす役割を強調した。この日午後、圏央道の桶川北本インターチェンジ(IC)−白岡菖蒲IC間の約11キロが完成し、埼玉県内の工事区間が全線開通した。
 都心部から半径40〜60キロを走る圏央道は、今回の開通で総延長300キロのうち、8割が通行できるようになった。東名から東北道までの走行時間は首都高速道路経由で約130分かかっていたが、これが75分に短縮される。
時間短縮だけではない。これまで東名から東北道に乗り継ぐ車の9割は首都高経由だった。今後はその多くが圏央道を使って迂回(うかい)すると見込まれており、首都高の渋滞解消にもつながる。
 昨年6月には圏央道の相模原愛川IC−高尾山ICが開通し、圏央道を通じて東名と関越道が結ばれた。東名・厚木ICと関越道・鶴ケ島ICの通行時間が100分から50分に半減し、首都高を経由する車も9割から2割に激減した。環状道路による高いバイパス効果が確認された。
 国土交通省は、圏央道東京外かく環状道路(外環道)、首都高中央環状線を首都圏の「3環状」と位置づけて建設を進めてきた。今年3月には最初の輪となる中央環状線が開通した。
 中央環状線開通に伴う都心環状線の交通量の変動は、5%減とわずかだったが、渋滞時間は4割も減少した。交通量の減少が渋滞緩和に直結することを示したものだ。都心を迂回する環状道路はその効果が注目されており、海外でも整備されつつある。
さらに圏央道の沿線市町村では、都心を通らずに東名から中央、関越、東北の各自動車道を利用できる交通の利便性が着目され、物流拠点や工場などの立地も進んでいる。家具大手のニトリでは2年半後をめどに埼玉・幸手(さって)に大規模な物流センターを開設する計画だ。
 工場立地統計によると、圏央道沿線市町村の工場立地面積はこの20年で約6倍に増えた。これに伴って製造品出荷額も伸び、雇用も拡大している。産業空洞化が懸念される中で、高速道路網が製造業など国内産業の活性化を促すことも裏付けられた。
 経済効果は観光にも及んでいる。静岡県は埼玉県や群馬県から県内を訪れる宿泊バスツアーに対して助成をするなど、新たな観光客の取り込みに動き始めた。
 栃木県や神奈川県は、双方からの観光客向けにキャンペーンを始めた。栃木県から成田空港に向かう高速バスは圏央道経由にルート変更し、時間の短縮を図っており、成田空港は訪日客だけでなく、今後は国内旅行の利用増を見込んでいる。
新たに整備されたインフラが機能し、経済波及効果が続くことを「ストック効果」と呼ぶ。これまで公共事業による社会資本の整備は、景気浮揚効果ばかりが注目されてきたが、人口減少社会を迎え、日本の生産性向上は待ったなしの課題だ。
 そのためには周辺地域への波及効果が大きく、渋滞緩和などを通じて生産性を高めるインフラの整備を優先し、限られた財源を有効活用する必要がある。
 ただ、環状道路が整備されても実際に利用されなければ意味がない。圏央道は首都高に比べて通行料が高く、首都高に車が流入する一因となっていた。このため、同省では来年4月から首都圏の高速道路料金の体系も見直す。
 路線によって違っていた距離別料金を統一し、東名の1キロ当たり料金(36・6円)を基準とする。同じ入り口と出口を使った場合には、経路が異なっても同額の通行料とする方針だ。
 この見直しで圏央道横浜横須賀道路の通行料は下がるが、首都高や第三京浜などは段階的に値上げされる。
 都市部から郊外に車を誘導し、渋滞を減らしながら社会の生産性向上につなげる取り組みを加速させたい。