・予想以上にドル高が進行すれば「一気に10%、20%という大幅な人民元切り下げに踏み切るとの思惑が市場で広がるリスクもある。

・ドル建ての過剰債務を抱える新興国では債務負担の増大が懸念される。
・採算性が悪化したドルキャリーの巻き戻しなど投資資金の本国回帰(リパトリエーション)による打撃も予想され、国際金融市場に動揺が広がるリスクは残っている。
・主要な新興国の企業(金融機関を除く)が抱える債務は、2014年に約18兆ドル(2200兆円)と10年前の4.5倍まで急増し、金利上昇やドル高に対する脆弱性が高まっている。
・借金が膨張した原因は日米欧の中央銀行リーマン・ショック後の不況に対応するために導入した量的緩和政策(QE)。
・QEがもたらした低利の資金がリターンを求めて新興国に大量に流入し、バブルを生み出した。
・リスクは中国に限ったことではないが、最近の人民元安は市場の不安感を表している。
新興国への資金流入は今年、1988年以来初めてマイナスに転じる見込みで、新興国向け投資は昨年の1.07兆ドルから0.55兆ドルに急減する。
・米利上げ以降は、投資家が信用リスクの高いところから順次、資金を引き揚げる可能性が高い。
・予想以上にドル高が進行すれば「一気に10%、20%という大幅な人民元切り下げに踏み切るとの思惑が市場で広がるリスクもある。














〜〜〜関連情報(参考)〜〜〜
米利上げで残る新興国通貨不安   
古沢襄  2015.12.17
資本流出リスクが火種
[東京 17日 ロイター]米利上げという今年最大のイベントをこなした市場にくすぶるのは、新興国通貨への不安だ。
利上げ決定直後はブラジルレアルなど高金利通貨を筆頭に買い戻されたが、ドル建ての過剰債務を抱える新興国では債務負担の増大が懸念される。
採算性が悪化したドルキャリーの巻き戻しなど投資資金の本国回帰(リパトリエーション)による打撃も予想され、国際金融市場に動揺が広がるリスクは残っている。
<決着はまだ先>
米利上げを無難にこなした新興国市場について、JPモルガン・チェース銀行のチーフFX/EMストラテジスト、棚瀬順哉氏は「今週、決着がつくわけではない」と慎重だ。
「FOMCメンバーの政策金利予想と、市場の利上げ織り込み度合いの乖離は続いており、来年いずれかの時点で市場が4回の利上げを織り込めば、米金利が急上昇し、2013年5月のバーナンキ・ショック時のように、投資家のリスク回避が広がり、新興国市場をはじめとするリスク資産が下落する可能性がある」という。
新興国脆弱性については国際通貨基金IMF)も強い警告を発している。
IMFは10月の「世界金融安定報告書」で、主要な新興国の企業(金融機関を除く)が抱える債務は、2014年に約18兆ドル(2200兆円)と10年前の4.5倍まで急増し、金利上昇やドル高に対する脆弱性が高まっているとした。
IMFによると、借金が膨張した原因は日米欧の中央銀行リーマン・ショック後の不況に対応するために導入した量的緩和政策(QE)。QEがもたらした低利の資金がリターンを求めて新興国に大量に流入し、バブルを生み出したと分析している。
新興国企業が抱える債務は通貨ではドル建て、形態では社債が多く、セクター別では石油ガス・建設、地域別では中国やトルコにおいて伸びが顕著だという。
<ドル債務巻き戻し>
「米国の利上げによってドル高が進行すれば、ドルキャリーの採算性が悪化し資金が引き揚げられる可能性がある。
 このリスクは中国に限ったことではないが、最近の人民元安は市場の不安感を表しているとみている」と三菱UFJリサーチ&コンサルティング・調査部、主席研究員の廉了氏は言う。
 ドル建て債務の巻き戻しによる国際金融市場の動揺が中国から他の新興国へ波及する可能性もある。
「ロシア、ブラジル、トルコ、マレーシアなど政治的にも不安定な国については予断を許さない状況で、リスクが顕在化すれば、米国の利上げペースはかなり緩慢なものにならざるを得ないだろう」と廉氏はみている。
 国際金融協会(IIF)によると、新興国への資金流入は今年、1988年以来初めてマイナスに転じる見込みで、新興国向け投資は昨年の1.07兆ドルから0.55兆ドルに急減する。
一方、新興国の住民による国外への資金流出額は1.09兆ドルに達すると予想され、外貨準備や為替レート、資産価格への下押し圧力を強めている。
新興国からの投資資金の流出規模は、リーマン・ショックバーナンキ・ショックなど過去の流出局面との比較では、初期段階にあると廉氏は言う。
 グローバル・エコノミストの斎藤満氏は「これまでは、非常に弛緩した金融環境の下、信用リスクを無視して、少しでも高い金利をむさぼる投資家が多かった。
 そのおかげで信用リスクの高い国や企業が安価に資金を調達できていた。
 しかし、米利上げ以降は、投資家が信用リスクの高いところから順次、資金を引き揚げる可能性が高い」と予想。ジャンク債を運用するサード・アベニュー・フォーカスト・クレジット・ファンドの破綻は象徴的な出来事だとみる。

チャイナ・リスク
今月に入って人民元の対ドルレートが緩やかに切り下げられているが、これは「米利上げでドル高が進んでも、人民元の名目実効レートを現行水準に抑え、実体経済への悪影響を抑制する目的がある」とBNPパリバ証券、シニア・エコノミストの白石洋氏はみている。
 ただ、そうした「ファインチューニングが人民元の先安観を招き、一段の資本流出を促し、外貨準備を減少させ、さらなる切り下げ観測を招くという負のスパイラルに陥る可能性がある」という。
白石氏は、予想以上にドル高が進行すれば「一気に10%、20%という大幅な人民元切り下げに踏み切るとの思惑が市場で広がるリスクもある。いずれのケースでも、今年8月のような国際金融市場の動揺を招く」と予想している。(ロイター)