反対派の詭弁に惑わされず、いかにして緊急事態に対処すべきか、真剣に考えてみる必要がある。

・あらゆる国家的緊急事態において国と国民の生命をいかに守るかというのが、緊急事態条項の核心となる。
・首都直下型大地震南海トラフ巨大地震が発生した場合はどうするのか。
・現行憲法には緊急事態条項がなく、東日本大震災の折には災害対策基本法で定められた緊急政令も出せなかった。これで国民の生命や安全は守れるのか。
災害対策基本法のような緊急事態のための法律は幾つかあるものの、実際に役に立たなかった。
憲法に明確な根拠を持たないまま、法律のみに基づいて緊急事態を布告し、緊急権を行使したり人権の制約を行った場合には、「憲法違反」の声があがり、違憲訴訟が続出する恐れもある。
・先の大震災の折、法律の適用を躊躇した理由でもあろう。だからそのような混乱を未然に回避するためにも、憲法に根拠規定を明記しておく必要がある。
憲法で保障された人権は濫りに制限されてはならない。国会が憲法上の明確な根拠もないまま法律によって自由に人権を制限することになれば、それこそ立憲主義に反する。
・それ故、法律だけで対処可能というのは、かえって危険である。だから各国とも憲法に規定している。
・首都直下型大地震が発生し、国会が集会できない時はどうすればよいのか。反対派の詭弁に惑わされず、いかにして緊急事態に対処すべきか、真剣に考えてみる必要がある。









〜〜〜関連情報(参考)〜〜〜
2016.2.15 07:30更新   【正論】
現行憲法では危機を乗り切れない 反対派の詭弁に惑わされず緊急事態条項を 日本大学教授・百地章

 憲法改正について、安倍晋三首相は昨年11月11日の参議院予算委員会で、次のように答弁した。
 「大規模な災害が発生したような緊急時において、国民の安全を守るため、国家そして国民自らがどのような役割を果たしていくべきかを憲法にどのように位置付けるかについては、極めて重く大切な課題であると考えています」
 今回、北朝鮮弾道ミサイルを発射したが、最大の緊急時は外国からの武力攻撃である。そして、あらゆる国家的緊急事態において国と国民の生命をいかに守るかというのが、緊急事態条項の核心となる。ところがそれを忘れたかのような反対論が、護憲派の陣営やマスメディアから出始めた。
現行憲法で危機は乗り切れるか:
 昨年11月13日のパリ同時多発テロでは、130人以上の死者と400人近い負傷者が出た。フランス政府は非常事態法に基づいて非常事態を宣言、緊急権を発動して事態を収拾した。
 わが国政府はテロの発生を事前に阻止すべく、国際テロ情報収集ユニットを立ち上げたが、問題はそれでも不測の事態が発生した場合にどうするかということだ。
 また、心配される首都直下型大地震南海トラフ巨大地震が発生した場合はどうするのか。
 大正12年の関東大震災では、東京市内の44%、21万棟が焼失、10万5千人余りの死者、行方不明者が出た。
 大蔵省、文部省、内務省など国の多くの建物も焼失、帝国議会も開けなかった。
 そこで山本権兵衛内閣は、憲法に基づいて法律に代わる緊急命令を発令、被災者の食糧確保のための物資の調達、統制、物価高騰の取り締まり等を次々と実施し、危機を乗り切った。
 しかし現行憲法には緊急事態条項がなく、東日本大震災の折には災害対策基本法で定められた緊急政令も出せなかった。これで国民の生命や安全は守れるのか。
 ところがこれに対して、緊急事態に対処するためには必要な法律を整備すれば足り、憲法改正は不要とする反対論が展開され始めた。朝日新聞は一面を割いて、長谷部恭男教授と杉田敦教授の対談「改憲の『初手』? 緊急事態条項は必要か」を掲載、「憲法でなく法律で対応を」といった見出しを付けている(1月10日付)。
 また毎日新聞も「特集ワイド 本当に必要? 『緊急事態条項』 」と題する特集を組み(2月2日夕刊)、災害対策基本法など今の法律を使いこなせば十分との弁護士らの発言を紹介している。
 しかし、本当に法律だけで大丈夫なのか、さまざまな疑問がわく。
法律万能は立憲主義の否定に:
 第1に、災害対策基本法のような緊急事態のための法律は幾つかあるものの、実際に役に立たなかったではないかという点である。
 例えば、流れ着いた家屋や自動車を撤去しようとしたところ、憲法が保障する「財産権」がネックとなったとか、
倒壊した家屋から負傷者を助けようとしたところ、「住居の不可侵」との関係で障害が生じたといった事態が各所で発生している。
 また、災害対策基本法に定める緊急政令が発せられなかったため、ガソリンなどの買い占めを規制することもできなかった。
 それでも法律があるから良いというのは無責任ではないか。
第2に、緊急時における権利や自由の制限は、憲法解釈上は「公共の福祉」によって可能である。
 しかし、憲法に明確な根拠を持たないまま、法律のみに基づいて緊急事態を布告し、緊急権を行使したり人権の制約を行った場合には、「憲法違反」の声があがり、違憲訴訟が続出する恐れもある。
 これが先の大震災の折、法律の適用を躊躇した理由でもあろう。だからそのような混乱を未然に回避するためにも、憲法に根拠規定を明記しておく必要がある。
 第3に、憲法で保障された人権は濫りに制限されてはならない。国会が憲法上の明確な根拠もないまま法律によって自由に人権を制限することになれば、それこそ立憲主義に反する。それ故、法律だけで対処可能というのは、かえって危険である。だから各国とも憲法に規定しているではないか。
反対派の詭弁に惑わされるな:
 この点、フランスではパリのテロの際に令状なしの家宅捜索、劇場などの閉鎖や集会の禁止等の措置をとったが、これは非常事態法に基づくもので、憲法上の根拠を持たない。そのため違憲論もあることから、フランス政府は現在、緊急事態宣言等を憲法の中に盛り込み、憲法によって正当性を確保しようとしているわけである。
 反対派は憲法改正を阻止しようと必死である。そこで緊急事態についても、法律さえあれば大丈夫であり、新たに法律を作る必要があれば国会を召集すればよく、衆議院が解散しているときは、参議院の緊急集会で対処可能という。
しかし、参議院の緊急集会さえ召集できない場合こそ真の緊急事態である。もし首都直下型大地震が発生し、国会が集会できない時はどうすればよいのか。反対派の詭弁に惑わされず、いかにして緊急事態に対処すべきか、真剣に考えてみる必要がある。
日本大学教授・百地章 ももち あきら)