中国共産独裁「国家ファンド」は 金融面での21世紀の新たな肉食金融恐竜だ!

・三条 健です。
・政府系ファンドはこれまでもあったが、かわいいものであった。中国のは「国家ファンド」とネーミングするほどの脅威に相当するものである。 「中国投資有限責任公司CIC)」を設立したのは二〇〇七年九月二十九日で、これは金融面での21世紀の新たな肉食金融恐竜に相当する。共産党独裁国家に投資資金を保有させると、資本主義経済へ恐竜マネーを国家戦略的に投入することができる。 核兵器は軍事戦略兵器だが、国家ファンドによる「恐竜マネー」も戦略兵器となる。 共産党独裁政権と一体になった国家意思を発動する巨額の投資機関として怪物ぶりを発揮できる。
・実際例として、二〇〇八年にはSAFE(国家外貨管理局)が香港の傘下企業を通じて、中米のコスタリカの政府債券を中国側には不利な低金利のまま大量に購入し、その代償としてコスタリカ政府に対しそれまでの台湾との外交関係を断絶して、中国との国交を結ぶことを求めた。
つまり、政治目的に使用した。
アメリカ、日本、EUの脅威は「中国の国家ファンドの膨張を許せば、世界の自由経済市場の重要な部分が特定の独裁的政府の所有下におかれて、コントロールされることになる。中国の国有企業の海外での拡大は国際的資産が特定の国家の管理下におかれ、アメリカ側が当然視してきた国際経済、国際金融の構造と機能を変質させることになる。アメリカ側では長年、国家間の経済、金融の取引は原則として民間セクターが主体となり、政府の役割は制限されていることが好ましいと考えられてきたのだ」
中国共産党独裁国家にとって、上記のような自由経済市場の甘い理屈は通用しない。

・「中国は二〇〇八年七月の時点でアメリカ政府債合計九千六百七十億㌦を保有するにいたった。その保有が政府債券に留まる限りは中国がアメリカの資産を直接にコントロールできる度合いは低い。それどころか、中国がこれまでアメリ財務省債を新規発行のたびに大量に購入してきたことはアメリカの財政赤字の補填に大きく役立ってきた。しかも二〇〇七年に中国が得た配当の少なさから判断すると、その購入の動機は債券から利益を得ることよりも、人民元の通貨レートを自国に有利に保ち、輸出の拡大を保つことにあったとみられる」ということから、配当は少なくても、中国としての戦略的な購入だった。


〜〜〜関連情報<参考>〜〜〜

中国の国家ファンドの脅威とは    古森義久
2010.07.18 Sunday

チャイナ・マネーが世界各地で話題となっています。その中心は中国政府の国家ファンドです。中国の国家ファンドとはなんなのか。

その実態について日本語の解説ではおそらく私が訳編をして本にしたアメリカの「米中経済安保調査委員会」の報告より詳しい資料はないでしょう。『アメリカでさえ恐れる中国の脅威』という書の一部です。その中国の国家ファンドについての記述を紹介します。

                   =======

〔第一部 中国経済が世界を揺さぶる〕
〈第二章 中国の国家ファンドの脅威〉



この章の本来のタイトルは「中国の資本投資手段」となっている。そこで報告される主題は中国が最近、開始した主権国家資産ファンド(Sovereign Wealth Fund=以下、SWF,あるいは国家ファンドとも略)である。 

   
SWFつまり中国国家ファンドはアメリカにとっても日本にとっても、金融面でのモンスターである。これまでの世界の金融活動の常識をぶち壊し、きわめて危険な存在となりうるのだ。中国側にとっては金融という領域で相手国の国家安全保障を侵食しうる新たな武器なのである。

SWFは日本では一般に「政府系ファンド」と訳されている。だが中国のSWFはその本来の英語の表現どおり主権国家の意思の強烈な発動が特徴である。だから単に「政府系」という曖昧で柔らかな訳語はその実体を照らし出していない。

中国の主権国家資産ファンドとは、中国政府がいま保有する世界最大の保有外貨を直接に使う投資の資金、あるいはその投資を実行する機関のことである。その基盤には国家の断固たる政治的意思が厳然と存在する。

各国の一般投資ファンドがみな商業的な原理に基づき、利益や蓄財を求めて機能するのとは異なり、中国の国家ファンドは国家の対外戦略そのものの政治や外交、安全保障などの目的のための機能を第一義とする。だから商業的に損失を覚悟してでも巨額の資金が外国の企業や政府機関に投入されることもある。狙いは単なる金融面での利得ではないのだ。

だからこの報告では中国の主権国家資産ファンドを中国の「国家ファンド」と呼ぶことにする。政府系ファンドというよりも実態に近い表現だからだ。

中国の国家ファンドは日本でも存在を認知され、特異性を認識されるようになってきた。二〇〇九年六月に日本の各地で封切られた日本映画『ハゲタカ』でも陰の主役として中国の国家ファンドが登場した。映画では中国の国家ファンドが最初は姿を隠したまま、日本の大手自動車メーカーを乗っ取ろうと試みる。フィクションとはいえ、いかにもありそうな現実のように微細に描かれる。共産党政権と一体になった国家意思を発動する巨額の投資機関として怪物ぶりを発揮するという想定だった。

現実の世界でも、この中国の国家ファンドはアメリカにとっても、日本など他の諸国にとっても、さらには国際金融市場全般にとっても、二十一世紀の新たなモンスターのような危険性をはらむ――という米中経済安保調査委員会の警告をこの章は詳述していた。

ではこの章の報告を具体的に眺めていこう。

『なにが問題なのか』

この章は「序」部分で中国の国家ファンドの特殊性、とくに国際社会やアメリカにとっての特別な意味を説明している。そして問題の所在に光をあてていた。

中国政府がこの新しい金融モンスターとなる国家ファンドの主役たる「中国投資有限責任公司CIC)」を設立したのは二〇〇七年九月二十九日だった。この機関の目的は中国の国家としての保有外貨をこれまでのアメリカ政府ドル建て債券への伝統的な投資を超えて、新たな方法により、多様に管理し、運営していくこととされていた。

CICは中国の中央銀行である中国人民銀行から約二千億㌦の当初資金を得て発足し、その出発点ですでに全世界でも最大規模の国家ファンドの一つとなった。

実は国家ファンド自体はこれまでも他国に存在した。中国に限らないのだ。この場合の国家ファンドとは主権国家の資金を直接に使うという意味のファンドである。

こうしたファンド自体は実は一九五〇年代から中国以外の諸国に存在した。現在では全世界で二十カ国ほどが合計四十ほどの「国家ファンド」を創設している。日本では一般に「政府系ファンド」という呼称で呼ばれてきた機関である。

これら各国の国家ファンドは当事国がアラブ首長国クウェートノルウェーブルネイなどであることからも明らかなように、どの国も石油のような特定産品の輸出で政府が得た特定の国家資金を投資に回すだけのファンドだった。そのファンドの規模もさほど大きくはなかった。だから「政府系ファンド」という日本語の訳もそれほど実態から遊離してはいなかった。

ところが中国がこの実態を変えてしまったのだ。中国当局は国家ファンドを自国の国家対外戦略である安全保障、軍事、政治、外交などの利益を追求するために使うという姿勢を打ち出したのである。そうなると、この投資機関を称して「政府系ファンド」と呼ぶのも、いかにも甘すぎるということになる。

中国の国家ファンドがなぜ特別か、報告は次のように説明する。

「中国という国はその国家ファンドを他の諸国よりもずっと多く政治的影響力を考慮しながら運営する体質を有している。そもそも中国は国内経済の四〇%ほどがまだ政府の保有か管理の下にあるのだ。中国は実際に経済目標と政治目標とを長年、混同させてきた歴史がある。その混同に対しいま急にどこからか抗議を受けたとしても、国際投資を背景としてその政治と経済の混同を続けていくだろう」

「中国の国家ファンドは世界最大の保有外貨に直接に支えられている点でも、他の国の国家ファンド、政府系ファンドとは異なる。中国の外貨保有は合計すでに二兆㌦、さらに毎年五千億㌦の割合で増大していく。この巨額な外貨は中央銀行の一部である『国家外貨管理局(SAFE)』によって管理されている。同時にこのSAFE自体がCICと競争するような形で独自の投資活動をすることもある。このSAFEもCICも他の国有銀行、国有企業、国営退職年金などと同様に中国の中央政府からの命令を受けて国家発展目標を推進するために機能している」

つまり中国の国家ファンドは中国の政府そのものの意思のままに動いている点が他の諸国の政府系ファンドとは基本的に異なるというのである。

中国の国家ファンドは他の諸国の政府系ファンドとは資金の集め方も根幹で異なるのだという。

「他の諸国の政府系ファンドが石油や鉱山資源など特定の商品の販売から得た資金を基にしているのに対して、中国の国家ファンドは国家全体の工業製品の輸出による貿易黒字を累積し、流用する結果の資金であり、国家の直接の統制がついて回る。そもそも国家の黒字が必要以上の巨額となったために作られたファンドともいえるのだ」

だから中国の国家ファンドには中国の国家意思が直接に打ち出されていることになる。ただし中国当局はその現実を否定することが多い。中国の国家ファンドも他の諸国の政府系ファンドと同様に、政治的、戦略的な意図はなく、巨額の資金のポートフォリオを多様に保っておくために健全な投資を試みる手段にすぎない、と主張するのだ。

ところが実際には二〇〇八年にはSAFEが香港の傘下企業を通じて、中米のコスタリカの政府債券を中国側には不利な低金利のまま大量に購入し、その代償としてコスタリカ政府に対しそれまでの台湾との外交関係を断絶して、中国との国交を結ぶことを求めた。中国当局の「国家ファンドは政治目的には使用しない」という言明が虚構だったことが証されてしまったのだ。つまりは中国の国家ファンドは市場原理とは異なる規範や動機で動くということなのである。

となると、中国の国家ファンドという存在は日本にとっても重大な脅威となりうるわけだ。

こうした点に対し報告は次のようにアメリカ側の懸念を表明する。

「中国の国家ファンドの膨張を許せば、世界の自由経済市場の重要な部分が特定の独裁的政府の所有下におかれて、コントロールされることになる。中国の国有企業の海外での拡大は国際的資産が特定の国家の管理下におかれ、アメリカ側が当然視してきた国際経済、国際金融の構造と機能を変質させることになる。アメリカ側では長年、国家間の経済、金融の取引は原則として民間セクターが主体となり、政府の役割は制限されていることが好ましいと考えられてきたのだ」

国際的な経済、貿易、金融の取引が中国という一党独裁国家の管理下に入っていくことへのアメリカ側の懸念、ということである。ただし現在のオバマ政権下のアメリカも自国の経済や金融の機能を大幅に国家の管理や所有の下に移している。深刻な経済不況から脱するための臨時の措置だろうとはいえ、アメリカの長年の民間重視の姿勢はかなり変わってしまったのだ。

しかも最近のアメリカは中国による政府債の購入により多く依存するようになった。チャイナ・マネーがアメリカ国内に入ってくることを拒むというような立場からはすっかり離れてしまったといえる。中国はアメリカ政府債への投資、購入では世界諸国のなかでも最大の実績を誇る。その結果はアメリカにとって痛し、かゆしである。ある部分はきわめてありがたく、ある部分は心配でしかたない、というふうなのだ。

報告はそれらの点にも触れる。

「中国は二〇〇八年七月の時点でアメリカ政府債合計九千六百七十億㌦を保有するにいたった。その保有が政府債券に留まる限りは中国がアメリカの資産を直接にコントロールできる度合いは低い。それどころか、中国がこれまでアメリ財務省債を新規発行のたびに大量に購入してきたことはアメリカの財政赤字の補填に大きく役立ってきた。しかも二〇〇七年に中国が得た配当の少なさから判断すると、その購入の動機は債券から利益を得ることよりも、人民元の通貨レートを自国に有利に保ち、輸出の拡大を保つことにあったとみられる」
だから中国のアメリカ政府債の大量購入はアメリカにとってもありがたい行動だったのである。ところが中国側が最近、重点を中国企業による外国企業の証券の取得へと移してきた。中国側の保有資産の多様化である。利益率の低いアメリカ政府債券ばかりを保有していても利得があまりに少ない、ということだろう。

「その結果、中国側の動きは政府機関による民間企業の所有へのアメリカ側の伝統的な忌避にまともにぶつかることになる。その中国側の投資がアメリカ側の自動車、電気通信、宇宙などという安全保障にかかわる高度技術の領域の企業に及ぶとなれば、米側の国家安全保障への深刻な懸念が生まれてくる」

このアメリカ側の国家安全保障への深刻な懸念という点にこそ、この中国の国家ファンドの問題の核心があるのだといえよう。

CICのカラクリ』

中国の国家ファンドの表面上の主役である「中国投資責任有限公司CIC)」はあくまで経済目的のためにのみ設置された、というのが中国側の主張である。だがこの主張は多くの点で矛盾している。他の国家のファンドは特定の一、二の目的だけを明らかに果たしている。たとえばカタールクウェートノルウェーというような諸国の国家ファンド(政府系ファンド)は石油輸出からの収入を自国の年金システムの維持に使うことを目的にする。ところが中国のCICは違うのだ。

報告は以下のように述べる。

CICは通貨政策、外交政策、銀行規制政策、産業政策などの諸目標を目指している。CICの現在の資金約二千億㌦の三分の一はこれまで経営不備や汚職のために破綻しそうになった中国の大銀行のいくつかの資本再構成に投入されてきた。経営不振の銀行への資金投入がCICの投資に高利益をもたらすはずがない」

CICはそのほかに中国企業の開発途上諸国への投資を支援することや、人民元の対ドル通貨レートを低く保つこと、などのためにも稼動を命じられ、多くの場合、利益どころか赤字を出すことを運命づけられている、というのである。

報告はCICの基盤や活動についてさらに詳細に述べている。その概要を以下に紹介しよう。

CICの資本金はどこから

CICは現在、総額二兆㌦にも達する中国の外貨保有の一〇%ほどを運営している。その他の外貨は前述のSAFE(国家外貨管理局)と中国人民銀行のコントロール下にある。

ただしこの全体の構図は将来、変わりうる。

中国の全国人民代表会議常務委員会が二〇〇七年六月に認めた計画により財政省はCIC中国人民銀行から外貨を購入するための特別の政府債券一兆五千五百億人民元(約二千億㌦)を発行した。CICはこの資金を中国の国内の投資や銀行支援にも使い、残りの資金のうち約九百億㌦を対外の投資活動用として確保した。

○投資はなにを狙うか

中国の国家ファンドの基本的な目標は単に最大限の利益をあげることだけではなく、もっと広範な政治的、経済的な目的を達成することにある。報告はこの点はすでに何度も述べてきた。その目的には外国の高度技術の取得、自然資源へのアクセスの確保、台湾の国際的な孤立などという目標も含まれている。その政治がらみの目的の達成のためには利益をあげることが二の次、三の次になってもしかたがない、構わないとされるのだといえる。

CICの楼継偉理事長は就任以来、諸外国をも歴訪し、以下のような言明をしてきた。「CICは公開市場で取引される株式を購入するとともに、海外への直接の投資をも実行していく」「CICは農民のように自分の畑を慎重に耕し、実りをあげていく。しかし市場に好機があれば、直接の投資をもしていく」「クリーン・エネルギーや環境保護に合致する投資にも積極的にかかわっていく」「CICが避けるのはタバコ製造企業、カジノ(賭博場)、機関銃製造企業、外国の航空会社、電気通信企業、石油企業、高度技術保有の外国技術企業への大幅な投資だ。つまり外国の主要企業の株式を大量に購入して、戦略的な権限を得ることはしない方針である」(楼継偉氏)

この報告を作成した米中経済安保調査委員会の委員たちが二〇〇八年春の中国訪問の際にCICの高西慶社長と会見したが 高社長はそのときには、CICがあくまで商業ベースで機能し、利益をあげることへの責任を果たさねばならないと強調した。高氏はCICの長期的な財政利害にはときには政治的な要因が含まれることもあると認めはしたが、外国の大企業の経営に加わるようなことはないとも力説した。

総括としてCICの幹部たちは公式には、その投資戦略には政治的な影響力の行使が決して含まれていないと繰り返して言明するのだが、現実にはその言明を裏づける証拠は少ない。

逆に中国の海外投資は国家官僚機構の内部の強力な意思を反映して実施されるという現実は中国側のメディアでも再三、報じられてきた。たとえばCICの創設前の二〇〇七年八月に官営の経済雑誌『経済観察報』は以下の趣旨を報じていた。

中国当局はいつも自国の外国投資が国家の意思の表明となることを望んできた。外国投資が単に外国企業の株式購入による利益の確保ではなく、中国の国内の要求にも合致する戦略的な購入であってほしいという要請だった」

この記述は中国の当局者たちが自国の国家ファンドが単に利益をあげるということ以外の目的を果たすことを望むという実態を示していた。

CICはどう運営されるか

国際金融の世界でのモンスターのようなCICはどのように運営されるのだろうか。報告はその具体的な細部にも光をあてていく。

そもそもCICは中国政府に直接、所有され、統治される独立組織で、政治的には「部」と呼ばれる省と同等の地位にある。内閣にあたる国務院に直接に統括され、温家宝首相の直轄とされている。報告はCICのトップの構成について以下のように記していた。

CICは十一人で構成される理事会を有する。うちの三人は専務理事とされる。これら理事はいずれも国務院の閣僚級現職でこそないが、みな政府、あるいは共産党ときわめて強いきずなを保っている」

CIC理事長の楼継偉氏は財政次官や国務院副秘書長を歴任し、最近はCICの傘下組織の中央匯金投資有限責任公司の会長にも任命され、同公司CICへのつながりを強める役割をも果たしている」

CIC社長の高西慶氏はアメリカで教育や訓練を受けた弁護士で、中国の年金機構である全国社会保険基金の副会長を務めてきた。高社長はまたCICの投資決定の主席担当官ともなっている」

報告はCICの理事会の他の九人のメンバーについてもその名前と出身母体を明記している。出身母体は財政省、経産省中国人民銀行などである。それらの国家組織からCICに出向してきた形の理事たちはみな母体では次官級の実力者だという。 (高西慶氏)

CICの従業員たちは前述の中央匯金投資有限責任公司CICの別の子会社的機関の中国国際金融有限公司とから吸収された。その一方、CICは独自にファンド・マネージャーを国際的に公募もしている。

CICの幹部が財政、経済関連の多様な組織から集まっていることはCICがそれだけ広範な政治的支持を得て創設され、運営されていることを意味する一方、多様な組織がそれぞれにCICに対し政治的な影響力を行使できるチャンネルを保っていることを意味するともいう。

この報告を作成した米中経済安保調査委員会の委員たちは前述のように二〇〇八年三月から四月にかけて中国を訪問したが、その際にCICの高西慶社長とも会談した。その会談で高社長が述べたことのなかにも、CICの運営や統治が実際にはどのようになされているかを示す手がかりがいくつも見出される。

以下のような趣旨の高社長の発言があったという。

CICの投資の決定はCIC自体の理事会主体に下されるが、理事たちはそれぞれ出身母体にCICの活動を報告している(つまり他の政府機関の関与も大きい)

CICの投資は一般に消極的であり、中国政府の命令に従う度あいは外国のオブザーバーたちが考えるよりは低い。CICモルガン・スタンレーに投資をした際にも、CICがあくまで自主的に決め、国務院には実際の投資の直前まで報告しなかった。

▽だがそれでもCICは全体として市場原理に従いながらも中国の政府システムの内側で活動をしなければならない。巨額の投資となると、CICもやはり政府や共産党の上部の承認を得ることになるため、自主性が制限されるケースもある。

以上の趣旨の高発言から浮かびあがるのは、当然のことながらCICは要するに中国の主権国家資産ファンドだということである。つまりCIC独自の判断や活動はきわめて制限され、中国の中央政府共産党の監督に従わされる、ということだろう。モルガン・スタンレーへのCICの投資もまったく独自に決めたという高社長の発言に対しても、調査委員会側は疑問をちらつかせていた。

中国の最近の外国投資では実際に下部の金融機関が実行しようとした投資活動を上部の政治機関が阻止したという実例が多々、あるからだろう。

たとえば、二〇〇八年はじめには国務院は中国国家開発銀行シティバンクへの投資を阻んだ。国務院は二〇〇九年には同開発銀行がドイツのドレスナー銀行の買収を進める計画に難色を示した。政府上層部は中国の国家資金が商業的に健全な判断なしに諸外国に無差別に投資されるという状態を嫌うということだろう。(つづく)