アメリカが恐れる中国の「国家ファンド」の幾つかが明らかになった!

・三条 健です。
アメリカが中国「国家ファンド」を懸念する幾つかは以下だと言う。

① CICはその膨大な資金力と政府からの全面支援により中国のエネルギー安全保障の強化のために動き、天然ガスや石油、戦略的な鉱山資源類を購入する能力を有している。CICが実際にそのように動けば、中国がその種の特定資源の国際市場でのコントロールを強め、市場価格まで左右し、他の諸国の資源確保の動きを阻んでしまう結果を招きうる。

② CICの投資活動にからむウワサや推測が市場の荒れを引き起こすことがあげられる。

◆事例として幾つかを列挙すると、
CICがどこかの企業の株を大量に買いそうだというウワサが広まると、その企業の株価が急騰してしまう。二〇〇八年二月にはCICがオーストラリアの鉄鉱石企業フォーテスキュー社の株を大量に買うという推測が流れて、同社の株価は一日で一〇・五%も急騰したことがあった。

・同様に二〇〇七年後半には「CICがオーストラリアの鉱山大手企業のリオ・ティントに大型投資をする」というウワサが流れ、その結果、リオ・ティントの株価が突然、七・五%も急騰した。CIC側はこの「投資」は事実ではないと否定し続けた。

・中国政府は外貨保有を多様な形で続けたいと願ってはいるだろうが、当面、ドル建て保有を主体としていくことは変わらないだろう。その結果、中国側資金によるアメリカ企業の株式保有が増加していくことも確実である。その株式保有の実際の主体は中国政府であり、アメリカ側にとっては自国の大手企業の多くが外国政府によって部分的にせよ、保有されることの増大を意味する。

・その一方、CICなどの国家ファンドがサブプライム問題で手痛い打撃を受けた金融企業に投資することは、市場の安定につながるという側面もある。モルガン・スタンレーシティグループ、UBSなどトラブルを抱えた主要金融企業への支えになった。

ところがアメリカ証券取引委員会(SEC)の取締部門のリンダ・トムセン氏の証言によると、
国家ファンドはこの種の投資では経済利益よりも長期の戦略利益を狙うことが多く、投資資金の配分でも合理性を欠き、純粋な民間企業との競争でも不当な強みを発揮して、市場の過激な変動やゆがみを引き起こす可能性もある。アメリ財務省はその点を明らかに懸念している。

・国家ファンドが民間分野に急速に進出することが資金力の乱用や汚職をも引き起こす可能性がある。CICがすでに実施した投資の内容をみても、中国側の複数の銀行やその他の金融機関が中国の内部と外部の両方で不透明な形でつながりあっているケースが多々ある。

CICは外国の特定企業の買収や乗っ取りにより特定市場の占有シェアを増すことができる。CICからの特定外国企業への資本の流入はその特定企業に対し中国の国内金融市場での不公正な優遇を与えることにもつながる。

・イギリスに本社をおく世界最大級の銀行グループ「HSBCホルディングス」はまさにそのような結果を望んでいた。二〇〇八年七月のイギリスの大手紙サンデーテレグラフの報道によると、HSBC会長のスティーブン・グリーン氏はCIC幹部たちと数回、会談し、CIC側がHSBCの株を公開市場で買う可能性について協議した。

この時点でHSBC側は自社への追加の投資を必要とはしていなかったから、CIC側に有利な株式の購入をさせて、そのかわりにHSBCの上海株式市場への上場を円滑にすることや、中国市場全般での事業拡大への「政治的な障害を減らす」ことを狙ったと観測された。

③ 中国当局CICの資金を大量に投資した外国金融機関に不当な圧力をかけて、中国の経済全般の展望や中国の主要企業の財政状況について楽観的で前向きな評価を出させることである。

利害衝突もアメリカ側が心配する点となっている。CICは政府代表により構成されている。だが組織自体は少なくとも理論的には政府の規制を受ける側に立つ。つまりは政府当局代表が規制をする側と規制をされる側の両方の地位を占めているわけだ。だから一般の国で政府の規制が民間企業に適用されるような状態は存在しない。CICは規制する側が規制される機関を運営することになる。そのゆがんだ状況では政治的な癒着などの腐敗が起きる危険が高くなる。




〜〜〜関連情報<参考>〜〜〜

中国の陰の国家ファンドとは?      古森義久
2010.07.22 Thursday
世界の金融界を揺るがせる中国の国家主権ファンドの実態の紹介をさらに続けます。
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『陰の国家ファンド、SAFEとは』中国にはCICのほかにも国家ファンドの組織が存在する。その活動はなお秘密に包まれ、CICとの関係も謎の部分が多い。

二〇〇八年、ある中国政府機関が中米の小国コスタリカの政府債券を大量に買うことをコスタリカ政府が年来の台湾との外交関係を断絶することと引き換えに約束した。同じ中国の機関はテキサスの株式投資会社TPGにも二十五億㌦を投資した。

同じ機関はイギリスの石油会社BPの株約二十億㌦相当を購入し、フランスの石油・ガス企業トタルSAの株式二十五億㌦をも買った。二〇〇七年後半にはオーストラリアの三銀行の株式それぞれ相当数を買った。

だがこの中国の機関はCICではなかった。その機関は国家外貨管理局(SAFE)という機関のなかの秘密の一部だった。

報告はこのSAFEについて述べる。

「SAFEは中国の外貨総計二兆㌦を運営する公式機関だが、その投資は従来、利率の低いアメリ財務省債券やファニーメイフレディマックの公債、あるいは他の企業債などドル建て固定所得証券が対象だった。だが最近はSAFEは外国の一般企業の株式を買うという、より大胆な行動をとるようになった。この動きは中国政府全般が中国の外国投資を多様に拡散して、リスクを減らすという狙いからとも考えられるが、現実には官僚機構同士の縄張り争いがその原因であることを示す証拠がいくつかうかがわれる」

この「官僚的な縄張り争い」の背景にはCIC自体が生まれた経緯がからんでいる。CICは財政省と中国人民銀行の対立から生まれた組織だともいえるのである。

報告の記述をみよう。「中国政府首脳が自国の膨張する外貨をどのように活用すべきかをいろいろ考える過程で、中国人民銀行は利益の大きい投資はリスクが大きすぎるとして難色を示した。しかしその主張が認められないと判明すると、人民銀行側はその投資の管理組織としては財政省よりも自分たちの組織が適切だと論じた」


「しかしこうした議論が続くなかで、CICが設立され、国務院の管轄下におかれた。財政省からも中央銀行である人民銀行からも直接の影響力が及ばないように結成され、どちらかといえば財政省に関係を持つ人材がCICの新たな幹部要員となっていった。そのうえに中国の各国有銀行の株のうち中国人民銀行保有分の多くが新設のCICに市場価格より低い値段で売られていった」

要するにCICは財政省、SAFEは中国人民銀行のそれぞれ影響下にあり、ライバル同士のような存在だというのである。この競合関係では、当初は財政省系のCICが優位にあったが、人民銀行側もSAFEこそが海外でのより利益率の高い投資活動ができるのだということの誇示に必死で努めたという。そしていまではSAFEが優位に立ちつつあるというのだ。

報告は述べる。

「SAFEはいまやCICよりもずっと多額の外貨を使えるようになった。CICは現在、最大九百億㌦しか海外での投資に使えなくなった。そのうえにSAFEの最高幹部はCICの理事会にも名を連ねているからCIC側の活動に関する情報を大幅に得ることができる」

使える資本の額という点ではSAFEはCICを越える存在となったというのだ。そしてSAFEの特徴の一つはその活動の秘密性のようである。

報告は次のような事例を指摘していた。

「SAFEの香港の子会社がオーストラリアの三つの銀行のそれぞれ一%以下の株式を購入したとき、その動きは内密にされた。イギリスの新聞フィナンシャル・タイムズがその購入を報道した後も、SAFE自体はその購入を否定し続ける一方、フィナンシャル・タイムズに対しては内々にそのSAFEの行動の具体的部分を報道しないことを要請していた」

このSAFEの活動で最も注視されたのはなんといっても中米のコスタリカの政府債の購入だった。前述のように、この購入は単なる経済的な動きではなく、より大きな政治的意図に基づいての中国側の国家意思の表明だった。経済面での市場原理や利潤追求という基本を無視しての政治的な動きだったといえる。

コスタリカは中米の人口五百万ほどの国である。だが民主主義が定着して、政治的には安定し、バナナの生産が世界第二位と、経済的にも中米にしては豊かな国である。

中国の国家ファンドのSAFEは二〇〇八年一月、このコスタリカの政府債一億五千万㌦分を通常より低い金利で購入した。そのうえに二〇〇九年一月にはさらに一億五千万㌦分の同じ政府債を買うという契約をも結んだ。コスタリカ政府にとっては商業的にはきわめて有利な取引だった。

ところがこの政府債売買の裏には、コスタリカ政府が台湾とのそれまでの外交関係を断絶して、中華人民共和国と国交を新たに樹立するという秘密の合意が存在していた。コスタリカはそれまで六十三年間も台湾との国交を保ってきたのだ。だが中国に大量な政府債を有利な条件で買ってもらうことの代償にその台湾との国交を断ったのである。

しかも中国はコスタリカの政府債総額三億㌦を買うことのほかに、無償援助として一億三千万㌦の資金をコスタリカ政府に提供することをも約束していた。

つまり中国政府はSAFEに合計四億三千万㌦の資金を投入させ、コスタリカの台湾との国交断絶、中国との外交関係樹立という外交上の重要目的を果たしたのだった。

コスタリカの財政大臣は中国側SAFEの次席代表と二〇〇八年一月付で書簡を交わし、この取引の秘密を守り、その内容が明るみに出そうなときは、「必要な措置をとる」ことを合意しあっていた。だが内容はコスタリカ最大の新聞によってあばかれ、大々的に報道されてしまった。

以上の動きを報告は次のように総括していた。

「台湾も中国も過去においてはいずれも『小切手外交』を実施してきた。だが中国が自国の保有外貨を政治的な圧力をかけるための手段としてこれほど明確に利用したのはこれまでで初めてだといえる。同時にこのコスタリカ事件はSAFEがいざ必要となれば、投資の目的や政策についていくらでも隠そうとすることを立証した」

つまりはSAFEの秘密性である。

だがSAFEがこんごも中国の影の第二の国家ファンドとして機能を続けるのか、あるいは中国政府はやがてSAFEが自己の権限を越えたと判断し、その保有資産を他に譲ることを強いるのか、いまの段階では不明である。

このようにSAFEとCICとの関係は不明な点が多いが、報告によると、両者の明確な違いは、CICがその活動の内容を開示することへの圧力を受けているのに対し、SAFEはその活動は秘密のベールに包んだままでいられるという点だという。

CICの透明性?』

では中国の国家ファンドの表の主役CICは、どの程度の透明性を有する組織なのか。これまでの記録ではCICは投資のタイミングや戦略の具体部分の開示に関して多様な軌跡を残してきた。

CICはその運営の顔ぶれなどの発表は敏速だった。実際の投資でもそれがなされた後すぐに投資の決定を発表してきた。だがその具体的な細部となると、そう簡単には発表してはいない。

この傾向はさほど意外ではない。国際通貨基金IMF)が作成した国家主権ファンドの活動指針でも、あるいは実際の各種ファンドのマネージャーたちの意見でも、国家ファンドによる早急な情報開示は有害だとされるのだ。CICが実際の投資を実行する前に広がるウワサによって市場が揺れ動き、爆発することもありうる。CICが投資するとされる対象に他の企業などもどっと投資をする可能性があるのだ。

だがその一方で中国のCICの当事者たちは機会あるごとにCICの透明性を強調している。しかし言明と実際の行動との間にはギャップがある。

そのへんについて報告は詳しく伝えている。

「当調査委員会のメンバーたちが二〇〇八年三月から四月にかけ、中国を訪問したとき、CICの高社長から次のようなことを告げられた。『温家宝首相はCICの創設時に三つの原則を確立した。第一には透明で、株式保有者に対して責任を持つこと、第二には市場に対して責任を持つこと、第三には投資先の国の法律を遵守すること、だった』。高社長はこれらの原則がIMFの国家ファンドに関する原則とも整合性があると述べていた」

「高社長はさらにノルウェーの国家ファンドの代表とも頻繁に連絡をとりあっており、ノルウェー代表はCICが正しい道を歩んでおり、他の諸国がCICに慣れてくれば、それに対する批判も減っていく、と述べてくれたと告げた。なにしろCICは誕生後半年ぐらいなのだから、とくにアメリカはもっと忍耐強く、寛容にCICを眺めるべきだ。どうもアメリカは各国の国家ファンドのなかでもCICだけを特別な基準で厳しくみているようだ。高社長はこんなことをも述べたのだった」

高社長はアメリカのCBSテレビの調査報道番組「60分」にも登場したことがある。二〇〇八年の四月だった。インタビュー役は有名な女性記者のレスリー・スタール女史だった。報告はこのインタビューについても以下のような概略を伝えていた。

高社長はCICが外国の企業などを買収しても、なにもコントロールする意図はなく、相手の企業に生産方式を変えろとか、人事政策を変革せよとか、指示することはないというのがCICの方針だと強調した。

高社長がこのインタビューに応じた理由は中国の外貨を管理する高官がアメリカなど諸外国に向かって、直接に語り、外国側の懸念や誤解を一掃したかったからだという。アメリカなどでは、CICのような中国の外貨機関が市場をコントロールしたり、外国政府の秘密を盗んだり、アメリカ経済の破綻を意図したり、などという企みを抱いているのではないかという不安感が強いということだった。高社長はそうした企みはCIC自体を傷つけ、中国を傷つけることになるから、そもそも存在はしない、と強調するのだった。

高社長はまたこのインタビューで、CICを各国の国家ファンドのなかでは透明性その他で最高とされるノルウェーの政府系ファンドのようにするとも言明した。しかしその後の米中経済安保調査委員会の公聴会アメリカ側の専門家のカリフォルニア大学アーバイン校のピーター・ナバロ教授は中国とノルウェーの国家ファンドは基本的に異なる、と証言したのだった。なぜなら中国は国家の財政資金を政治目的に使った実例が多々あるのに対し、ノルウェーはそれがないから、ということだった。

報告はCICの透明性について次のようにも述べていた。

「要するに中国当局CICの透明性をどれほど高めるか、どの程度の速度でそれを実行するのか、は不明なのだ。CICの楼継偉理事長は二〇〇七年十二月、ロンドン市長主催の晩餐会で演説した際、『私たちはCICの商業利益を損なうことなしに、その透明性を高めていく。いうなれば、段階的に、ということだ。もし私たちがすべての面で透明ということになれば、オオカミどもにすぐ喰われてしまう』。つまりは中国は国家当局からCICへの追加資金の投入のペースや国有銀行がどの程度、ドルを保持することを指示されるか、を明らかにしないため、CICの手持ち資金総額や投資能力はいつもぼかされている、ということだ」

そして報告は国際的にみてのCICの透明性について以下のようなランクづけを紹介していた。

「ピーターソン研究所のエドウィントルーマン研究員は世界各国の国家ファンド(政府系ファンド)の構造、運営、責任性、そして透明性、行動などを総合しての採点を発表している。その採点によると、一〇〇点満点のなかで、ノルウェーは九十四点、韓国は五十一、クウェート四十八、シンガポール四十五、などに対し、中国のCICは二十九点だった」

つまりはCICの透明度はきわめて低いということなのだ。

アメリカはCICをなぜ恐れるのか』

CICの投資活動がアメリカに懸念を引き起こすのは当然だろう。たとえば中国の政府機関は一般にアメリカ側が嫌う外国の非民主的な政権とも容易にきずなを結んでしまう。なにしろ中国はアメリカ政府債券総額九千六百七十億㌦(二〇〇八年七月現在)を保有する。世界最大のアメリカ政府債券の保有者なのだ。その金額だけでもアメリカ市場や世界経済に大きな影響を及ぼせる立場にあることが明白である。このことはアメリカ側を常に心配させることとなる。

そのうえCICは商業的利害を無視して巨額の投資活動を実行することが多いのだ。政治性が非常に強いということである。

たとえばCICは二〇〇七年十二月にアメリカの投資銀行モルガン・スタンレーの株式の九・九%相当を総額五十億㌦で買った。だが同社の株はその後の一年足らずで八〇%も下落した。二〇〇八年にはCICアメリカのクレジット会社VISAの株式一億㌦相当を買った。だがやはり大幅な下落である。

要するにこの種の海外投資でCICは大損を出しているのだ。だがそれでも平然としている。本来の狙いが目先の利益をあげることではないからだろう。そのへんの不可解さがアメリカ側の懸念を招くのである。

報告はまずそんな懸念の一例としてこの調査委員会の公聴会で証言した専門家の議会調査局マイケル・マーティン氏の「CICは重要な商品市場や特定の金融セクターで強力な市場パワーを発揮できる」という言明を紹介している。

では報告が詳細に述べるこのへんのアメリカ側の懸念を以下、総括してみよう。

CICはその膨大な資金力と政府からの全面支援により中国のエネルギー安全保障の強化のために動き、天然ガスや石油、戦略的な鉱山資源類を購入する能力を有している。CICが実際にそのように動けば、中国がその種の特定資源の国際市場でのコントロールを強め、市場価格まで左右し、他の諸国の資源確保の動きを阻んでしまう結果を招きうる。

米側の次の懸念としては、CICの投資活動にからむウワサや推測が市場の荒れを引き起こすことがあげられる。

CICがどこかの企業の株を大量に買いそうだというウワサが広まると、その企業の株価が急騰してしまうのだ。二〇〇八年二月にはCICがオーストラリアの鉄鉱石企業フォーテスキュー社の株を大量に買うという推測が流れて、同社の株価は一日で一〇・五%も急騰したことがあった。

同様に二〇〇七年後半には「CICがオーストラリアの鉱山大手企業のリオ・ティントに大型投資をする」というウワサが流れ、その結果、リオ・ティントの株価が突然、七・五%も急騰してしまった。CIC側はこの「投資」は事実ではないと否定し続けたにもかかわらず、だった。

中国政府は外貨保有を多様な形で続けたいと願ってはいるだろうが、当面、ドル建て保有を主体としていくことは変わらないだろう。その結果、中国側資金によるアメリカ企業の株式保有が増加していくことも確実である。その株式保有の実際の主体は中国政府であり、アメリカ側にとっては自国の大手企業の多くが外国政府によって部分的にせよ、保有されることの増大を意味する。

その一方、CICなどの国家ファンドがサブプライム問題で手痛い打撃を受けた金融企業に投資することは、市場の安定につながるという側面もある。モルガン・スタンレーシティグループ、UBSなどトラブルを抱えた主要金融企業への支えになったというのだ。

ところがアメリカ証券取引委員会(SEC)の取締部門のリンダ・トムセン氏の証言によると、国家ファンドはこの種の投資では経済利益よりも長期の戦略利益を狙うことが多く、投資資金の配分でも合理性を欠き、純粋な民間企業との競争でも不当な強みを発揮して、市場の過激な変動やゆがみを引き起こす可能性もあるという。アメリ財務省はその点を明らかに懸念しているというのだ。

国家ファンドが民間分野に急速に進出することが資金力の乱用や汚職をも引き起こす可能性がある。CICがすでに実施した投資の内容をみても、中国側の複数の銀行やその他の金融機関が中国の内部と外部の両方で不透明な形でつながりあっているケースが多々あることがわかる。

CICは外国の特定企業の買収や乗っ取りにより特定市場の占有シェアを増すことができる。CICからの特定外国企業への資本の流入はその特定企業に対し中国の国内金融市場での不公正な優遇を与えることにもつながる。

イギリスに本社をおく世界最大級の銀行グループ「HSBCホルディングス」はまさにそのような結果を望んでいたといえる。二〇〇八年七月のイギリスの大手紙サンデーテレグラフの報道によると、HSBC会長のスティーブン・グリーン氏はCIC幹部たちと数回、会談し、CIC側がHSBCの株を公開市場で買う可能性について協議した。

この時点でHSBC側は自社への追加の投資を必要とはしていなかったから、CIC側に有利な株式の購入をさせて、そのかわりにHSBCの上海株式市場への上場を円滑にすることや、中国市場全般での事業拡大への「政治的な障害を減らす」ことを狙ったと観測された。

さらにアメリカ側で懸念するのは、中国当局CICの資金を大量に投資した外国金融機関に不当な圧力をかけて、中国の経済全般の展望や中国の主要企業の財政状況について楽観的で前向きな評価を出させることである。

利害衝突もアメリカ側が心配する点となっている。CICは政府代表により構成されている。だが組織自体は少なくとも理論的には政府の規制を受ける側に立つ。つまりは政府当局代表が規制をする側と規制をされる側の両方の地位を占めているわけだ。だから一般の国で政府の規制が民間企業に適用されるような状態は存在しない。CICは規制する側が規制される機関を運営することになる。そのゆがんだ状況では政治的な癒着などの腐敗が起きる危険が高くなるわけだ。

CICのような中国国家ファンドへのアメリカ側の懸念はまだまだ尽きない。報告をさらに伝えていこう。

アメリカで投資者の保護を任務とする証券取引委員会(SEC)にとって中国などの国家ファンドはいくつかの問題を提起している。

そのまず第一はそもそも外国の国家ファンドを監視し、取り締まる能力や権限が不明確な点だとされる。国家ファンドはアメリカの資本市場への他の参加機関と同様に、連邦証券法の規定に従わねばならない。その規定には情報開示や不正防止措置への義務が含まれる。

しかしアメリカではヘッジ・ファンドと民間投資ファンドに対する規制は事実上、ないに等しい。この点はCICや他の中国の国家のコントロールを受けるファンドにとって、その対米投資を公衆の目から隠す手段となる。CICアメリカ側のニューヨーク所在の投資ファンド、JCフラワーズとの合計四十億㌦の共同投資はその好例だろう。

CICからの投資はフラワーズがあらたに作ったファンド全体の八〇%ほどを占める。

しかしフラワーズがアメリカ国内の企業の公開株式の一〇%を買い占めても、現行のSECなどの規則ではCICの資金保有八〇%についてはなんの報告をすることも求められない。もしフラワーズの資本の残り二〇%が他の中国機関に保有されているとしても、その事実を公開や報告する義務はフラワーズ側にはないのだ。

アメリカでは投資の情報公開が厳しく義務づけられているようにみえても、中国の国家ファンドのこの種の投資は非公開のままで通用してしまうのだ。アメリカ国籍の投資家や投資機関の情報公開の義務の度合いとくらべると、明らかに不公正である。

第二の懸念の対象は、CICのような国家ファンドはアメリカのヘッジ・ファンドや民間投資ファンドと異なり、政府の権力そのものを反映するため、政府高官や政府保有情報への直接のアクセスを有する点である。

前述のSECのトムセン部長はこの調査委員会主催の公聴会で「国家ファンドが政府との特別なつながりにより未公開、あるいは秘密の情報を取得して、それを使い違法の内部取引を実行する可能性は常に存在する」と警告した。こうしたインサイダー取引の場合、左右される資金の額は巨大となろう。

第三は、アメリカ当局がCICなどの外国の国家ファンドの取り締まりを実施するには、他国の政府当局との間のグローバルな協力が必要になるという点である。

前述のトムセン部長によれば、アメリカのSECは毎年、合計数百件もの調査要請を外国政府当局に送っている。アメリカ側も同様な要請を多数、受け取っている。だが国家ファンドの行動の違法性を追及する場合、その国家ファンドが帰属する国家当局から受けられる捜査や調査の協力にはおのずから限度がある。この点が米側にとっての懸念の対象の一つである。つまり中国の国家ファンドにからむ不正の疑惑が生まれても、その捜査では中国当局の協力は得られない見通しが強い、ということである。(つづく)