中国の大西部「解放戦争」が起こらないとも限らない!

・20世紀の三大独裁者は、ヒトラースターリン毛沢東
彼らの支配下で殺された人数は毛、スターリンヒトラーの順で多い。
毛沢東中国共産党によって殺された同胞は2600万余
専制国家では尊敬と恐怖とは同義語で、北朝鮮では故金日成主席が一番尊敬されている。
・軍国中国の道を進めば世界を敵に回す。覇権主義中国に反対する側はチベットウイグルの独立派に武器を供給しだすに相違ない。
 中国の大西部「解放戦争」が起こらないとも限らない!

〜〜〜関連情報<参考>〜〜〜
比較文化史家、東京大学名誉教授・平川祐弘
2011.2.9 02:51

■「尊毛攘夷」の軍事大国への予感:

 天安門事件が起きた直後、定年となった私は大学教授会で日本に生まれた幸福に感謝し別れの挨拶とした。この国だからこそ、学問や言論の自由を享受し、次々と書物も公刊できたと感じたからである。東アジアの学者や留学生と例外的に多く接した教授だから、そう感じたのかもしれない。

 20世紀の三大独裁者は、ヒトラースターリン毛沢東だが、こうした当たり前の事実がドイツやロシアでは言えても、中国大陸ではまだ言えない。言えば劉暁波氏のように投獄される。それが中国の社会主義的特色である。

 彼らの支配下で殺された人数は毛、スターリンヒトラーの順で多く、香港の『争鳴』誌が1996年にスクープした中国共産党内部文献『建国以来歴次政治運動史実報告』によると、「建国後、毛沢東中国共産党によって殺された同胞は2600万余」という。大国だけに、殺された人数も大きい。毛は人民に尊敬された。ただし、専制国家では尊敬と恐怖とは同義語で、北朝鮮では故金日成主席が一番尊敬されている。

高橋和巳文革礼賛に唖然≫:
 文化大革命中、中国人は『毛主席語録』を斉唱した。その中国から帰国したばかりの作家、高橋和巳と66年、河出賞の祝賀会で同席した。私が「新中国は肉体の纏足(てんそく)は解いたが、語録で人間を縛るのは精神の纏足ですね」と言ったら、実地体験の興奮さめやらぬ新進作家は「紅衛兵はひどい」としきりに言った。だが直後、高橋は新聞に中国見聞記を寄せ、何と文革を礼賛、私を唖然(あぜん)とさせた。もっとも、時流にあわせて北京詣でや中国礼賛で名をなした人は高橋に限らない。大新聞の論調に合わせる左翼の世渡り上手は、中国や日本の一部では「良心的」といわれ、「友好分子」と呼ばれる。

≪なぜ今、毛人気復活なのか≫:
 毛沢東は公式評価では前半生は祖国解放の指導者として高く、後半生は文革の煽動(せんどう)者として低い。功が6、罪が4だという。だが、そんなどんぶり勘定で罪を帳消しにしてよいのか。  同様な評価を下せば、ベルサイユ条約の桎梏(しっこく)からドイツを解放し、全国に自動車道(アウトバーン)を建設、ベルリン五輪で国威を発揚し、オーストリアを併呑したヒトラーも、6−4か5−5の割で功罪半ばする、という理屈はつく。 
 秦の始皇帝に比すべき毛の後半生は、人民に主席を皇帝のごとく崇拝させた前半生の論理的、心理的結末だ。前後に分けることはできない。
 中国を侵略した日本人に毛沢東批判はいわれたくない、と中国人が言えば、それに同調する「良心的」日本人もいるだろう。それなら、在日中国人学者に、近頃の大陸に見られる毛沢東人気の復活をどう見るか、とテレビ司会者は質問を容赦なく浴びせるがいい。よもや皆が皆、北京の代弁人や御用学者ではあるまい。芥川賞作家の楊逸は『文藝春秋』2月号に思いのたけを述べた。立派だ。
 では、次の国家主席と目される習近平氏がなぜ毛に頻々と言及するのか。習氏は党長老の習仲勲氏の息子で太子党だ。   共産党の一党支配体制こそ「父祖の大業」と自負することで、自己の特権的地位を正当化する。     エリート意識は強い。だが、父子とも文革で底辺の生活を余儀なくされた。 文革発動者の毛に対し批判はあるはずだ。共産党も一枚岩ではない。
 米左翼はかつて「日本では穏健派も天皇も軍部と同じ」と非難したが、戦争末期、一億玉砕派を制して終戦を実現したのは穏健派だ。   中国専門家は北京の内部対立を分析し、中国に政治の現代化はあり得るのか、予測してもらいたい。

≪留学させ「自由」分け与えよ≫:
 徳川時代の海外漂流者には、帰国すれば殺されるという恐怖があってジョン万次郎も帰国を躊躇(ちゅうちょ)した。言論封鎖大国の海外漂流者ともいうべき中国知識人は祖国に帰らないのか、帰れないのか。中国からの留学生をこれ以上、受け入れるなとの論があるが、私は反対だ。日本には言論の自由があり、政権党も批判できる。
 その幸福を来日者にも分かち与えたい。  勤勉な中国人が精出して経済大国となり自国を誇りに思うのは自然だ。  だが、よもや貧富の格差大国のままでいいとは思うまい。  そんな華僑の批判が本国にフィードバックされることはないのか。

 今は中国史の分かれ目だ。尊毛攘夷の軍事大国となるのか、言論開国を迎えるのか。
 軍国の道を進めば世界を敵に回す。覇権主義中国に反対する側はチベットウイグルの独立派に武器を供給しだすに相違ない。大西部「解放戦争」が起こらないとも限らない。戦前の日本軍部は勝手に満蒙が日本の生命線だといった。中国も勝手にチベットも台湾も南シナ海も核心的利益だといっている。中華思想的主張を否定するのは中国人自身でなければならない。だが、隣国にそんな自由はあるのか。

 私は髪も黒い。目の黒いうちは右顧左眄(うこさべん)せず書くつもりだが、いまわの際に感謝の念をしたため得るかどうかはわからない。それでこの国に生まれた幸福について、あらかじめ一筆記す次第だ。(ひらかわ すけひろ)