・対中戦略の確立と日米同盟関係の強化は最も重要な中長期にわたっての外交・安保政策上の課題だ!

民主党政権の2年、外交・安全保障政策で一貫した理念・方針を示せず、経済政策でも有効な手を打てないまま、株価の下落と円高の進行、さらには企業の海外脱出が止まらない。
・新政権にまず求められるのは民主党内に存在する多様な意見をまとめ、政策実行に向けて求心力を付けることだ!
・政策決定プロセスを明確にして、できれば国家安全保障会議(NSC)で重要政策・方針を決定し、官房長官が十分な背景説明を行うシステムをつくることだ!
・東アジアは、経済面で多国間協力が進む一方、安全保障面では緊張要因をなお抱えたままであり、各国が、領有権の確立や資源エネルギーの確保という海洋権益を手にしようと、厳しくせめぎ合っている。
・対中戦略の確立と日米同盟関係の強化は最も重要な中長期にわたっての外交・安保政策上の課題だ!


〜〜〜関連情報<参考>〜〜〜
明確な国家観で輪郭ある外交を
拓殖大学大学院教授・森本敏 2011.9.5 02:53

 民主党代表選は、相変わらず党内対立が目立ち、失望を禁じ得ないものではあったが、ともかくも新政権が誕生した。同党政権の2年、外交・安全保障政策で一貫した理念・方針を示せず、経済政策でも有効な手を打てないまま、株価の下落と円高の進行、さらには企業の海外脱出が止まらない。国力の低下覆うべくもない日本を尻目に、周辺諸国は経済・政治・安保の各分野で攻勢に出ている。

≪民主は意見対立体質改善せよ≫:
 そんな日本の威信回復には、強力で安定した政治的指導力が必要であることは論をまたない。民主党はしかし、党内の意見が食い違いすぎて、足の引っ張り合いも激しく、政策論議を重ねての意見集約すらできていない。政策決定過程も不透明で、首相が突然、政策めいたことを言い出したり、党内部と官僚の間で政策の調整ができずに混乱を来したりしている。
 民主党は、新しい指導者が選ばれたのを機に、この体質を何としても改善しなければならない。
 従って、新政権にまず求められるのは民主党内に存在する多様な意見をまとめ、政策実行に向けて求心力を付けることである。そのうえで、野党との閣外協力に柔軟に対応することだ。連立が困難であるなら、閣外協力という形の超党派的対応でもやむを得ない。
 その最大の条件が、協力すべき政策課題の共有であることは言うまでもない。復興・復旧の財源、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)参加、普天間移設など、国論が割れる重要課題を、ねじれ国会を克服して与野党協力の下で片づけていかなければならない。
 もう一つの条件は、閣外協力に期限を設定して、政策課題に一定のめどがついた時点で総選挙を実施し民意を問うということを、明確に約束することである。それなくして閣外協力の意味はない。
 これらの問題が解決できた暁にさらに期待したいのは、政策決定プロセスを明確にして、できれば国家安全保障会議(NSC)で重要政策・方針を決定し、官房長官が十分な背景説明を行うシステムをつくることである。民主党に部会制度を復活させ、部会の権限と責任もはっきりさせてほしい。

≪中国の海洋進出にどう対処?≫:
 2012年は世界政治のひとつの節目である。1月の台湾総統選・立法院選を皮切りに、春にロシア大統領選、秋に米大統領選、年末に韓国大統領選が予定される。秋にはまた、中国の政治指導部が交代し、北朝鮮は「強盛大国の大門を開く」としている。既に選挙モードに入っている国もあれば、指導部交代に備え円滑な政策転換を図ろうとしている国もある。
 東アジアは、経済面で多国間協力が進む一方、安全保障面では緊張要因をなお抱えたままであり、各国が、領有権の確立や資源エネルギーの確保という海洋権益を手にしようと、厳しくせめぎ合っている。これに関連して、海洋、とりわけ公海、そして、宇宙・サイバー空間の領域に国家権益が入り込んでくるようになっている。

 中国はこの8月、旧ソ連製改造型の練習用とはいえ、1隻目の空母を公海に就航させた。中国が国産空母を海洋に就航させ、第一列島線を越えて日本の南西諸島を通過してくるのは15年以降といわれ、遠い未来のことではない。日本はこの東アジアの現実に将来、対応できるのか。今回の代表選でも、こうした点をめぐる本質的な議論は行われずじまいだった。

 外交・安保分野で取り組むべき主要課題は、先に触れた
(1)TPP参加(2)普天間移設問題−のほか、(3)防衛力と日米同盟協力体制の強化(4)武器輸出三原則の修正(5)国際協力、特に、対スーダン援助(6)原子力安全管理とエネルギー(7)領有権問題と領土保全政策(8)中国の海洋進出への対処  −などである。

≪APEC前にTPP決断せよ≫:
 鳩山由紀夫菅直人の両民主党政権の外交・安保政策は、まるで輪郭がはっきりしなかった。新政権には、明確な国家観をもって国益を守る政策を進めてほしい。
 与野党協力体制を整えての第3次補正、来年度予算の編成は最優先課題であり、その他にも、税と社会保障問題の解決、復興財源の確定、エネルギー政策の見直し、原子力災害に対する国民の安全確保と補償をはじめ、内政上の喫緊の課題は山積している。しかし、その間も世界は眠っているわけではなく、外交・安保政策がお留守になってはいけないのである。
 野田佳彦首相はさし当たり、9月の国連総会で原子力の安全管理について前向きのイニシアティブを取るとともに、11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議までにTPP参加への明確な意思決定も行うべきである。

 中長期にわたって最も重要な外交・安保政策上の課題はしかし、対中戦略の確立と日米同盟関係の強化を措いてない。海洋に進出する中国にどう対処するかは今や、日米両国だけでなくアジア・太平洋地域全体の問題である。そうした中、この2年間で信頼が損なわれてしまった対米同盟関係を万全のものとすることは、新政権に求められる最大の責務となろう。(もりもと さとし)