・社会保障の赤字は、もはや消費税引き上げだけでは対応できない。既得権益の構造に切り込まなければ、日本国家の再建はない。産業の活性化も絶対に必要だ!
・1989年に19兆円あった法人税収入が、今はなんと7兆4千億円に減少している。 企業は雪崩を打つように海外に生産を移している。
・経済発展は、全ての人々の生活を底上げするはずだったが、起こったのは、極端な貧富の差の拡大だ。 世界の最も豊かな1%が世界の富の40%を所有する。 下位50%が所有する世界の富は、僅か1%だけだ。
・リーマン・ブラザーズのような強欲ファンドは、景気破綻を前提とするCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)などの金融商品で、家計から巨利を吸い上げた。
・金正恩は金正日の「偉業」を絶対的に顕彰していくだろう。 残念ながら拉致問題での柔軟化も望めまい。 拉致生存者を明らかにすることは、父親のウソを公表することだからだ。
・太平洋も含めて日本の周辺海域は、中国海軍が圧するところとなる。 その中で日本だけが防衛予算を減額し続けている。 大事なのはただひとつ。譲れない日本の国益を確定することだ。
・野田佳彦首相は再び防災服を着て、再建の陣頭にたってほしい。
・社会保障の赤字は、もはや消費税引き上げだけでは対応できない。既得権益の構造に切り込まなければ、日本国家の再建はない。産業の活性化も絶対に必要だ!
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道しるべなき世界を後に
外交評論家・岡本行夫 2011.12.31 03:07
夜の海に潜水して、水中で照明を消すと、全くの漆黒の闇になる。無重力の世界なので、体が逆立ち状態にあるのかも、どっちが海面か海底なのかも、わからない。道しるべは、自分が吐く息の気泡。 それが上昇していく方向が海面だ。 だが今の世界は、海面に出る道しるべさえなく、もがいているように見える。
20世紀には、「文明は時間とともに進歩する」という認識があった。「民主主義が広がるのはよいことだ」「圧政に対決する正義は常に正しい」「経済発展は世界に繁栄をもたらす」と。そうした信念も、今世紀には漂流し始めた。
たしかに「アラブの春」は民主化を広げたが、ムバラク崩壊後のエジプトは過激化し、40年続いた中東の平和すら揺らぎそうだ。 民主主義の重要な定義は、「自由選挙が行われること」だった。 しかし、パレスチナの自由選挙でハマスが勝ち、イランでアフマディネジャド大統領が勝てば、アメリカはこれを民主主義とは認めない。 一方で、一党独裁国家の中国が、自らを民主主義国家と名乗る。 民主主義とは何か。 世界に冠たる日本の民主主義だが、そのおかげで1回100円の外来診療費負担もつぶされ、財政は破綻に向かってまっしぐらだ。
圧政に対決する正義は常に正しいか。 サダム・フセインは非道の圧政者であった。 2万のクルド人を毒ガスで殺した痕跡をイラクのハラブジャで見て、息をのんだ。 米軍が進攻してサダム・フセインは斃(たお)れたが、しかし、その後のテロによって20万人近いイラク市民が死んだ。 むしろ、圧政者を傍観することが正義だったのか。
経済発展は、全ての人々の生活を底上げするはずだったが、起こったのは、極端な貧富の差の拡大だ。 世界の最も豊かな1%が世界の富の40%を所有する。 下位50%が所有する世界の富は、僅か1%だけだ。
むしろ、21世紀の最初の10年間に残されたのは、破壊者たちの足跡だった。 ウサマ・ビンラーディンは、狙いどおりアメリカとイスラム世界を対立構造の中に固定した。 金正日は、核不拡散体制など役に立たぬことを示した。 リーマン・ブラザーズのような強欲ファンドは、景気破綻を前提とするCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)などの金融商品で、家計から巨利を吸い上げた。
今の世界には、明るい海面に向かう道しるべがない。
アジアは、どう変わるのか。 アメリカは中東を後にし、国益をかけて再びアジア太平洋に入ってきた。 北朝鮮は金正恩の時代になる。 権力継承の過程で波乱はないだろう。 将軍と呼ばれた金日成が王朝を樹立してから六十有余年。 徳川将軍家で言えば4代・家綱のあたりだ。 徳川の家臣たちは当たり前に世継ぎの将軍を受け入れていた。 「政治指導者は世襲であってはならない」というのは、われわれの側の常識にすぎない。
しかし金正恩が柔軟路線をとることはあるまい。 若い彼の権威の唯一のよりどころは父親だ。 金正恩は金正日の「偉業」を絶対的に顕彰していくだろう。残念ながら拉致問題での柔軟化も望めまい。拉致生存者を明らかにすることは、父親のウソを公表することだからだ。
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核兵器もミサイルも、放棄しまい。 むしろ、開発を加速化するだろう。その北朝鮮に対して、日本はどう向き合っていくのか。
論じる紙数はないが、中国とはどうするのか。 「戦略的互恵関係」という意味のない標語のもとで、日本は一方的に中国に押しこまれてきた。 中国の海洋覇権は、あと10年もしないうちに完成する。 太平洋も含めて日本の周辺海域は、中国海軍が圧するところとなる。 その中で日本だけが防衛予算を減額し続けている。大事なのはただひとつ。譲れない日本の国益を確定することだ。
道しるべの喪失は、国内も同じだ。東北の被災地には、今も茫漠(ぼうばく)たる無の空間が広がる。 がれきは片づいても、復興のつち音が聞こえない。
それでも、沿岸部が壊滅したが町の大半が残った市町村は起き上がりつつある。 しかし、町全体が消失してしまったところは、今も立ちつくしている。陸前高田、大槌、女川、南三陸、山田…。「がんばろう日本」「絆」といった抽象的な言葉は躍るが、支援のペースは遅い。 私自身も東北の漁業支援に通っているが、焦燥感が先に立つ。
日本国内では日常心が戻り、意識の中で東北の惨状が希薄になりつつあるのではないか。 かえって、東北地方の農産物を敬遠する主婦が多い。民間支援の規模も、ボランティアの数も、報道も減っている。
政府は体制を整えつつあるが、スピード感がない。 阪神淡路の時は、政治家と官僚と地元が一丸となって、2年で神戸を再建した。 今回の方が被害規模は大きいが、大きく勇ましいかけ声が聞こえてこない。 東日本大震災復興は敗戦に続く日本変革と復活の大事業ではなかったのか。 野田佳彦首相は再び防災服を着て、再建の陣頭にたってほしい。
野田首相は、道しるべなき世界を後にするための松明(たいまつ)を掲げよ。 社会保障の赤字は、もはや消費税引き上げだけでは対応できない。既得権益の構造に切り込まなければ、日本国家の再建はない。産業の活性化も絶対に必要だ。1989年に19兆円あった法人税収入が、今はなんと7兆4千億円に減少している。 企業は雪崩を打つように海外に生産を移している。 日本国内には7重苦と呼ばれる経営上のハンディが存在するためだ。 7重苦のかなりの部分は、政府が作り出した人災である。 政治意思があれば、これを解決し、80年代の勢いをもった日本経済を取り戻すことは可能である。
松明は高く掲げてほしい。誰からも見えるように。=敬称略(おかもと ゆきお)