・必要なものは仕方ないが、展望のない延命医療は無用にするべきだ!

・三条 健です。
・消費増税をして年金基盤の強化を、と世論誘導したいのが政府の狙いだろうが、こうした近視眼的な損得勘定を示すことで、より大きな困難を近い将来、背負うことになる!
・現在、年金に医療、介護を合わせた社会保障給付費は 2012年度当初予算ベースで107・8兆円に上る。  毎年2兆円を超えるペースで増え続け、保険料収入で賄(まかな)えている額は55%の59・6兆円にすぎない。
・医療費は 平成21年度で国民所得(339兆円)の1割を突破した。 診療報酬が改定される2013年度は40兆円に達する見通しだ!
・必要なものは仕方ないが、展望のない延命医療は無用にするべきだ!



〜〜〜関連情報<参考>〜〜〜
社会保障 夢と挫折の50年
編集委員・安本寿久 2012.3.4 03:07
◆ある財界人の喜び:
 1冊の取材ノートがどうしても見つからなくて、地団駄(じだんだ)を踏む思いをしている。 内容は大体、記憶している。 問題は、発言者の名前を覚えていないことである。
 取材場所は平成17(2005)年の神戸だった。  関西の財界人らが政策課題などを議論する第43回関西財界セミナー。  この年のテーマの一つは少子高齢社会、人口減少問題だった。  日本でもいよいよ人口減少が始まる2006年問題をどう解決するか、議論された。
 分科会で、一人の企業役員が発言した。  大手繊維メーカーの専務か常務だったと記憶するのだが、それ以上は思い出せない。  ただ、その言うところは非常に興味深かった。 発言要旨はこんな具合だ。
 就職してまもなく、国民年金制度ができた。  現役世代から保険料を徴収し、高齢者に給付しようという趣旨に、一も二もなく賛成した。  自分の父親は年季の入った職人だったが、戦後の経済成長の恩恵を受けることなく、若輩者の自分の給料ほど稼いだことは少なかった。  その不公平を埋め合わせるものになると思ったので、喜んで給料から天引きされた。
 この発言は、高齢者の年金を現役世代が負担する賦課方式で始まった日本の年金制度の本質を、当時の気分とともによく伝えている。  自分たちの老後のために保険料を積み立てる積み立て方式にしたのでは、まだ経済規模の小さな日本では国民年金制度はスタートできなかったのかもしれない。  同制度の発足は昭和36(1961)年のことである。
 今、社会保障と税の一体改革の論議の中で、もらえる年金額から支払った保険料を差し引いた生涯収支が、多くの世代で赤字になると騒がれている。  内閣府経済社会総合研究所の試算では、昭和25年生まれでは502万円の受け取り超過だが、30年生まれでは数千円の超過にとどまり、それ以下の世代はマイナス。  60年生まれでは712万円も赤字になるという。
◆損得勘定の功罪:
 これでは支払い損になる。  そこで消費増税をしてでも年金基盤の強化を、と世論誘導したいのが政府の狙いだろうが、こうした近視眼的な損得勘定を示すことで、より大きな困難を近い将来、背負うことになるだろう。
 国民年金制度が発足して10年目の45年は、高齢者1人を8・5人の現役世代が支えていた。  それが平成22年には2・8人に減り、さらに50年後の2060年には1・3人に激減する。  この予測を見れば、賦課方式での制度維持がいずれ不可能になることは自明の理だし、制度変更の過程で、年金の給付年齢や所得制限を引き上げるなどの給付抑制策は避けられない。
 その方向転換の際に最も政府を苦しめるのは、国民が持つ損得勘定になるだろう。  要は、せめて支払った分だけでも返せ、という素朴な要求、感情をどうなだめるかに、腐心せざるを得ない時が必ず来るということだ。
◆必要な自覚と覚悟:
 経済成長の下支えをした世代への恩返し。 前述の企業役員が抱いた感情はその後もしばらく、日本を覆っていたのだろうと思う。  好例が昭和48年から始まった70歳以上の医療費無料化である。  当時、筆者は中学生で、日本も福祉国家の仲間入りをしたような報道が盛んだったことを覚えているが、やがてマイナス情報があふれ出した。  病院が老人のサロン化して困るというのである。
 「あの人、今日は来ないけど、どうしてるの」
 「なんか具合が悪いらしいよ」
 こんな会話が問題視されてしばらくたった58年、老人保健法が施行されて高齢者の自己負担が導入された。  理想の福祉は、高齢者の負担者への無配慮が破綻させたと言ってもいい。
 現在、年金に医療、介護を合わせた社会保障給付費は今年度当初予算ベースで107・8兆円に上る。毎年2兆円を超えるペースで増え続け、保険料収入で賄(まかな)えている額は55%の59・6兆円にすぎない。 医療費は平成21年度で国民所得(339兆円)の1割を突破した。 診療報酬が改定される来年度は40兆円に達する見通しだ。
 前述の企業役員を強烈に記憶しているのは、こんな意見を述べていたからでもある。
 「年寄りが増えると医療費が膨張する。 必要なものは仕方ないが、展望のない延命医療で膨れ上がるのは申し訳ない。  だから私がその立場になったら無用にしてくれ、と家族に言っている。  これを子供たちに決断させるのは酷だから、今から言ってある」
 わずか50年で社会保障をめぐる環境は激変した。  これからは現役世代も高齢者も、これまでにない自覚と覚悟が要る。  そのことを訴える発言を今、どうしても伝えたかった。(やすもと としひさ)