なぜ原子力安全委員会がこんなバカげた文章を「長期間にわたる全交流動力電源喪失は、送電線の復旧または非常用交流電源設備の修復が期待できるので考慮する必要はない」を安全指針に入れたのかわからないが、その責任を明確にして、きちんと処罰するべきだ!

・三条 健です。
福島第一原発1号機は、東日本大震災が発生した3月11日の午後6時46分頃、すでにメルトダウン炉心溶融)が始まり、翌12日の午後3時36分に水素爆発が起きている。水素爆発はメルトダウンしないと起きるわけがないのだが、政府がメルトダウンを認めたのは、それから2か月後のことである。
・事故を起こした福島第一原発1〜4号機と同じ大津波に襲われながら、福島第一原発5、6号機、福島第二原発女川原発、東海第二原発は事故にならなかった。 大津波は事故のきっかけにすぎず、メルトダウンに至った直接の原因は他にある。
・全電源を喪失したか否かすなわち原子炉に冷却用の水を送り込むポンプを動かすための非常用発電機が1台でも生き残ったか否かの違いしかなかった!
福島第一原発5・6号機の場合、幸運にも6号機の非常用ディーゼル発電機が1台だけ動いたおかげで5号機にも電力を融通して冷却を行なえた。 発電機だけが生き残った理由は「空冷式」で、しかも水没しない高所に置いてあったからだ!
福島第二原発女川原発は外部交流電源が1回線のみ健全で、東海第二原発は外部交流電源をすべて喪失したものの非常用ディーゼル発電機が健全だったため、いずれも“首の皮1枚”で事故を免れた。
・つまり、福島第一原発事故は大地震・大津波による「天災」ではなく、誤った設計思想による「人災」だったのだ!  なぜ原子力安全委員会がこんなバカげた文章を「長期間にわたる全交流動力電源喪失は、送電線の復旧または非常用交流電源設備の修復が期待できるので考慮する必要はない」を安全指針に入れたのかわからないが、その責任を明確にして、きちんと処罰するべきだ!  

〜〜〜関連情報<参考>〜〜〜
天災ではなく人災と結論づける
福島原発事故調査した大前研一  2011年11月21日07時00分
 福島第一原発はなぜ未曾有の大事故に至ったのか、その原因は徹底的に究明されなければならないが、政府・保安院の調査だけでは到底十分とはいえない。  そこで元原子炉設計者でもある大前研一氏が、専門家らの協力のもと独自調査し、「福島第一原発事故から何を学ぶか」という中間報告をネットで公表した(報告書の内容はBBT〈ビジネス・ブレイク・スルー〉のサイト〈http://pr.bbt757.com/2011/1028.html〉やYouTubeで全面公開している)。報告書のポイントを大前研一氏が解説する。
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 調査をした結果わかったことは、政府が説明していること、今やろうとしていることには真実のかけらもない、ということだ。
 たとえば福島第一原発1号機は、東日本大震災が発生した3月11日の午後6時46分頃、すでにメルトダウン炉心溶融)が始まり、翌12日の午後3時36分に水素爆発が起きている。水素爆発はメルトダウンしないと起きるわけがないのだが、政府がメルトダウンを認めたのは、それから2か月後のことである。
 原子力安全・保安院が実施しているコンピュータ・シミュレーションによるストレステスト(耐性検査)も、電力会社に指示している安全対策も完全にポイントがずれている。 なぜなら、そもそも政府は福島第一原発の事故原因を間違えているからだ。 政府がIAEAに提出した報告書は、今回の事故原因について「津波の発生頻度や高さの想定が不十分であり、大規模な津波の襲来に対する対応が十分なされていなかったためにもたらされた」としている。つまり、想定外の大津波が来たから起きた、と言っているのだ。
 しかし、事故を起こした福島第一原発1〜4号機と同じ大津波に襲われながら、福島第一原発5、6号機、福島第二原発女川原発、東海第二原発は事故にならなかった。 ということは、大津波は事故のきっかけにすぎず、メルトダウンに至った直接の原因は他にあることになる。
 そこで我々は、福島第一原発1〜4号機と他の原子炉ではどのような違いがあったのかという視点から調査・分析を行なった。 すると両者の間には、全電源を喪失したか否かすなわち原子炉に冷却用の水を送り込むポンプを動かすための非常用発電機が1台でも生き残ったか否かの違いしかなかったのである。
 たとえば福島第一原発5・6号機の場合、1〜4号機と同様に地震で変電所が壊れて外部交流電源を喪失したが、幸運にも6号機の非常用ディーゼル発電機が1台だけ動いたおかげで5号機にも電力を融通して冷却を行ない、2機とも冷温停止まで持っていくことができた。
 その発電機だけが生き残った理由は「空冷式」で、しかも水没しない高所に置いてあったからだ。設計当初はなかったものだが、数年前に保安院から非常用発電機の増設を命じられ、たまたま水冷式よりコストが安い空冷式を選択した。 空冷式は冷却水を取り入れる必要がないから高所に置いた。  そんな偶然が重なって5、6号機が命拾いをしたのである。
 一方、1〜4号機は非常用ディーゼル発電機がすべてタービン建屋の地下1階に設置されていたため水没し、冷却用の海水を汲み上げるポンプも常用電源のポンプと同じく海側に並んでいたため津波によって壊滅した。  外部電源を取り込むための電源盤も水没し、電源車を接続することができなかった。
 直流電源(バッテリー)も1、2、4号機は地下にあったので水没した。3号機はたまたまスペースがなくて中2階に置いてあったことが幸いして生き残ったが、充電を取り込む所が水没したため8時間しかもたなかった。
 ちなみに、福島第二原発女川原発は外部交流電源が1回線のみ健全で、東海第二原発は外部交流電源をすべて喪失したものの非常用ディーゼル発電機が健全だったため、いずれも“首の皮1枚”で事故を免れた。
 ということは、非常用電源の冷却用ポンプが常用電源の冷却ポンプの隣に並んでいる「設計思想」そのものがおかしいのではないか、という疑問が出てきた。  “たまたま設計時になかった設備”が、生き残った原子炉ではカギとなっていたからだ。  そこで原子力安全委員会の「設計指針」を読み直してみたら、なんと、こんなことが書いてあった。
 「長期間にわたる全交流動力電源喪失は、送電線の復旧または非常用交流電源設備の修復が期待できるので考慮する必要はない」
 「非常用交流電源設備の信頼度が、系統構成または運用(常に稼働状態にしておくことなど)により、十分に高い場合においては、設計上、全交流動力電源喪失を想定しなくてもよい」
 私は、開いた口がふさがらなかった。 これが、実は直接の事故原因だったのである。 つまり、交流電源が全部喪失する事態は想定しなくてよいと設計指針に書いてあるから、東電も日立も東芝も、そのとおりに原発を造ったのだ。
 ところが今回は、すべての交流電源が長期間にわたって喪失した。このためECCS(緊急炉心冷却装置)やホウ酸水注入系など原子炉で想定される最悪事故に備えた安全装置が1つも機能しなかった。  だから原子炉や使用済み燃料プールを冷却することができなくなってメルトダウンと水素爆発が起き、放射性物質が飛び散ってしまったのである。
 つまり、福島第一原発事故は大地震・大津波による「天災」ではなく、誤った設計思想による「人災」だったのだ。なぜ原子力安全委員会がこんなバカげた文章を入れたのかわからないが、その担当者を明確にして、きちんと責任を取ってもらわねばならない。
※SAPIO2011年12月7日号