・欧州危機に学んで、日本は財政改善政策を強烈に推進しなければならない。

・欧州は、いかにしてこの危機に立ち至ったのか。ジャン・モネは欧州の平和確保のためには多数国による枠組み構築しかないと確信し、欧州石炭鉄鋼共同体を創設し、これが57年にEECとなり、67年にECへ進化し、93年にはEUへと発展した。
・欧州統合の発想は、もともと独仏間の平和を確保する欧州安全保障にあり、経済統合はその副産物であった。 財政政策を統合しないままの共通通貨はいささか冒険的にすぎた。
・ユーロ圏共通の銀行運営ルールの設定と、財政政策の一体化が必要だ!
・欧州各国はギリシャポルトガル、スペイン、イタリアなどの問題国家も含めて、付加価値税率は18%以上。日本より一歩進んだ先での苦悩である。
・欧州危機に学んで、日本は財政改善政策を強烈に推進しなければならない。



〜〜〜関連情報<参考>〜〜〜
ユーロ圏に必要なものは
外交評論家・岡本行夫    2012.7.3 03:05
 欧州の動揺が止まらない。 6月17日に行われたギリシャのやり直し選挙では緊縮派の新民主主義党が勝って市場に一応の安堵(あんど)感が広がった。  しかし、去る5月6日の選挙で急進左派連合が躍進した時点の前に戻っただけだ。 ギリシャの危機的状況は不変のまま。  唯一の朗報は、ギリシャ国民がユーロから離脱すれば破滅することに気がつき、少々犠牲を出してもユーロ残留をと、口に苦い良薬を飲む覚悟になったことだ。
 ここのところ欧州では、微妙な論調の変化も見られる。  これまでは享楽的なギリシャ国民と勤勉なドイツ国民が対比され、当然ドイツの側に同情が集まっていたが、「ドイツが厳しすぎるのではないか」という声が出始めている。  3週間前のエコノミスト誌の表紙は、海底に沈みつつある「世界経済号」の機関室から「メルケルさん、どうかエンジンを始動させてください」という悲鳴が聞こえてくるという図柄で、欧州の浮沈はドイツの手にあるという主張だ。
 「アテネで作られベルリンで悪化した危機」という見出しもある。
 尤(もっと)もドイツの経済新聞は早速これに反論し、件(くだん)のエコノミスト誌の表紙をそのまま借用しながら、沈んでいく「世界経済号」に米、ギリシャ、仏、伊、スペインの重石(おもし)をつけ、沈没はこれらの国々のせいだと反論した。 洒脱(しゃだつ)な漫画の応酬と笑ってもいられない。 ドイツはインフレ率も低く成長路線への転換は可能な立場にある。 しかし、「遊んでいるギリシャ国民をなぜ自分たちの犠牲で救わなければならないのか」というドイツ国民の反発は根強い。
 今やメルケル首相は、自分で作ってきたこうしたドイツ世論を説得しなければならない。 そもそも欧州は、いかにしてこの危機に立ち至ったのか。
 源流は1950年代に遡(さかのぼ)る。過去100年間にドイツとの3回の大きな戦争を経験したフランスにあって、ジャン・モネは欧州の平和確保のためには多数国による枠組み構築しかないと確信し、欧州石炭鉄鋼共同体を創設した。これが57年にEECとなり、67年にECへ進化し、93年にはEUへと発展した。  つまり欧州統合の発想は、もともと独仏間の平和を確保する欧州安全保障にあり、経済統合はその副産物であった。
 従ってEU加盟希望国に対する審査も甘くなり、ギリシャポルトガルのような脆弱(ぜいじゃく)経済を含んだ組織となっていった。
 99年に共通通貨のユーロが採用されてから、問題が難しくなった。
 結果論から言えば、財政政策を統合しないままの共通通貨はいささか冒険的にすぎた。

 これからユーロ圏が進む道は、分裂か、一層の統合である。  分裂は世界不況に直結するから「一層の統合」しかないと思われるが、そのためには、ユーロ圏共通の銀行運営ルールの設定と、財政政策の一体化が必要になる。小出しの対症療法ではなくユーロ制度のオーバーホールが必要になってくる。決して不可能ではあるまい。
 間もなくESMも発足する。日本では大混乱の末、ようやく消費税の10%への段階的引き上げ法案が衆院を通った。
 欧州各国はギリシャポルトガル、スペイン、イタリアなどの問題国家も含めて、付加価値税率は18%以上。日本より一歩進んだ先での苦悩である。ギリシャ問題は人ごとではない。(おかもと ゆきお)