・安保防衛路線を調整せずに政権欲だけで運転してきた政党ゆえ、政府見解見直しの旗の下に一体、何割が結集するのか?  それでも不退転で進み、初志を貫くならば、それは政治家野田の歴史的功績となろう。

・「… 同盟国アメリカや価値観を共有する諸国との協力を深めるため、集団的自衛権の行使を含めた… 国際的な安全保障協力手段の拡充を実現すべきである」
・「…武力使用原則や国連平和維持活動(PKO)五原則、 集団的自衛権行使や海外での武力行使をめぐる憲法解釈など、全く異なる時代状況下で設けられた政治的・法的制約を見直すことで、日本の連携力、ネットワーク力を高めることは可能である」
野田佳彦政権下で設置された国家戦略会議フロンティア分科会がこの6日、報告書を首相に提出した中に上記が言及された。
・自民の態度明確化を見据え、他方で自分が設置した「フロンティア」部会の答申を獲得した以上、野田首相が自著で掲げた旗幟(きし)通りに進む決意に立ち戻ったとして、何ら不思議はない。
・安保防衛路線を調整せずに政権欲だけで運転してきた政党ゆえ、政府見解見直しの旗の下に一体、何割が結集するのか?  それでも不退転で進み、初志を貫くならば、それは政治家野田の歴史的功績となろう。



〜〜〜関連情報<参考>〜〜〜
集団的自衛権は四度目の正直か
防衛大学校名誉教授・佐瀬昌盛   2012.7.13 03:15 [正論]
 野田佳彦政権下で設置された国家戦略会議フロンティア分科会がこの6日、報告書を首相に提出した。 「あらゆる力を発露し創造的結合で新たな価値を生み出す『共創の国』づくり」と、目の眩(くら)みそうな壮麗な言葉から成る副題が付いている。  その一隅で「集団的自衛権に関する解釈など」を見直し、安全保障協力手段の拡充を図るべきだとの趣旨も述べられている。   ただ、それは、長大な報告書ではごく短い言及に過ぎない。
≪焦点当たる背景に世の焦燥感≫ :
 ところが、この短いくだりに報道界は敏感に反応した。  なかんずくNHKと朝日新聞が。  週明けには報道界全体が。  週明け早々、国会論戦で首相が同提言に触れ、政府内での議論も詰めていきたいと述べたからだ。
 その結果、集団的自衛権関連部分がまるで同報告の目玉商品、いやほとんど唯一の論点と早合点されそうな雲行きだ。
 そこでまず釘を刺す。  集団的自衛権問題は前記分科会でではなく、その下の「平和のフロンティア部会」で扱われ、その結論を親分科会が汲み上げた。  右部会の報告では「集団的自衛権」が2回登場する。
 即(すなわ)ち、「…同盟国アメリカや価値観を共有する諸国との協力を深めるため、集団的自衛権の行使を含めた…国際的な安全保障協力手段の拡充を実現すべきである」と、「…武力使用原則や国連平和維持活動(PKO)五原則、 集団的自衛権行使や海外での武力行使をめぐる憲法解釈など、全く異なる時代状況下で設けられた政治的・法的制約を見直すことで、日本の連携力、ネットワーク力を高めることは可能である」だ。
≪過去3回は店ざらしに終わる≫ :
 一読明瞭なように、部会報告でも集団的自衛権問題は独立事案ではなく、他の諸要素とこみで扱われているに過ぎない。  しかも、一切の内容分析抜きで。  なのに、集団的自衛権のみがなぜ報道の脚光を浴びるのか。
 報道界に自覚なき焦燥感が働きだしたからだろう。

 「三度目の正直」とも、「仏の顔も三度まで」とも言う。  3年前の政権交代を挟んで、集団的自衛権問題に触れた有識者懇談会報告が野田政権以前にすでに3回出ている。
 最初が平成20年の安倍晋三首相の「安保法制懇」報告、次が麻生太郎政権時代の「安保防衛懇」報告、3度目が鳩山由紀夫菅直人政権下の「新安保懇」報告だ。
 が、結果的には集団的自衛権問題は毎度、店(たな)ざらしである。

 安倍「懇談会報告」が最も詳細だったが、安倍首相退陣後に受領した福田康夫首相がそれを無視した。 私は同懇談会に参加したが、発足時点で朝日新聞はこの顔ぶれだと結論は決まったも同然だと手厳しかった。  札付きの集団的自衛権行使必要論者ばかりだから、というわけだ。  私は同報告に必ずしも満足でない。  行使必要論はあっても、集団的自衛権政府解釈の論理構成欠陥の指摘がないからだ。  その点は本稿では立ち入らない。
 さて、そのつど委員の顔ぶれを大きく変えても、出てくる結論は基本的に同じ。 つまり安倍「懇談会報告」に戻るのである。  ただ、鳩山−菅「懇談会」の議論は滑稽だった。    実質的に安倍「懇談会」の結論に同調しながら、「集団的」を隠してただ「自衛権」とだけ記述した。  が、よくしたもので、マスコミは「集団的自衛権」と読み換えて報道した。  わが国の安全保障環境深刻化の影響で、焦燥感が募りだしたのだろう。
 そして今回の四度目。 「フロンティア」部会メンバーは14人だが、うち安倍「懇談会」経験者は1人。  それでも「札付き」グループの線を容れたのだから、朝日も焦りだしたらしい。   今のところ「今回の報告はけしからん」とは言っていない。   宗旨替えだとしたら、その改宗を歓迎するのだが。

≪野田氏の歴史的功績になるか≫ :
 が、結局の鍵は野田首相だ。  民主党政権誕生直前の著書で、首相は「自衛官の倅(せがれ)」らしく「集団的自衛権(行使)を認める時期」だと明言していた。  ただ、首相就任後は従来の政府解釈を「現時点」では見直さないと慎重になった。  18年前の羽田孜政権の二の舞を嫌ったのだろう。
 この非自民政権は誕生直後、社会党の連立離脱という誤算で超弱体化した。 が、張り切った外相と防衛庁長官(当時)が政府解釈変更論をぶち、嫉妬に駆られた自民、社会両党の吊し上げで発言撤回に追い込まれた。
 しかし、状況は変わった。
 自民党は18年前の愚行をひそかに反省し、今日では政府解釈見直し必要論を明言するに至り、野田政権がその線に立つのなら後押しも辞さないだろう(ただ、自民が自身で主役を演じたいのは自明だが)。
 一方で、自民の態度明確化を見据え、他方で自分が設置した「フロンティア」部会の答申を獲得した以上、野田首相が自著で掲げた旗幟(きし)通りに進む決意に立ち戻ったとして、何ら不思議はない。

 問題は首相の自覚だ。  安保防衛路線を調整せずに政権欲だけで運転してきた政党ゆえ、政府見解見直しの旗の下に一体、何割が結集するのか。
 それでも不退転で進み、初志を貫くならば、それは政治家野田の歴史的功績となろう。(させ まさもり)