・党軍関係の再調整の成否にかかわらず、北朝鮮の「先軍」はウラン型核兵器の量産という新たな段階に入ろうとしているのではないか?

・2012年2月、朝鮮労働党幹部に配布された内部文書に、金正日氏がウラン濃縮を核兵器計画として推進すべきだとした指示が書かれていた。
・平和利用を強調するだけでは、米国を恫喝することにはならない。
・05年2月、北朝鮮は「核兵器保有した」(外務省)と宣言し、翌年10月にプルトニウムによる初の核実験を強行している。
 北朝鮮は物的裏付けのない恫喝はしない。  この時期、北朝鮮は高濃縮ウランの蓄積 の見通しが立ったとみてよい。
北朝鮮の天然ウラン埋蔵量について、約2600万トンと世界原子力協会は推定する。  そのうち、同協会が採掘可能量とみる約400万トンは、現在世界一のオーストラリアを凌駕(りょうが)する。
・党軍関係の再調整の成否にかかわらず、北朝鮮の「先軍」はウラン型核兵器の量産という新たな段階に入ろうとしているのではないか?


〜〜〜関連情報<参考>〜〜〜
北朝鮮の新人事をどうみるか
2012.08.05
■【正論】防衛大学校教授・倉田秀也 李氏解任は党軍関係の再調整か
 「病気のため…全ての職務の解任を決定した」−。
 15日、北朝鮮の権力中枢にいた李英鎬朝鮮人民軍総参謀長について、朝鮮労働党中央委員会政治局常務委 員会委員など職務の解任を告げた、朝鮮中央通信の記事の一文である。
 その解任理由を額面通りに受け止める者はいまい。記事によれば、解任を決めた政治局会議では「組織問題が扱われた」とある。  この問題は、18日の「重大報道」通り、金正恩第1書記に「共和国元帥」の称号を授与することで、一応の決着をみた に違いない。
≪「変則」的な人事で統制狙う≫ :
 党政治局会議で扱われた「組織問題」とは、広い意味で党軍関係の再調整であろう。  金正恩氏への権力継承のプロセスを振り返って、金正日前政権下の党軍関係を再調整しようとする意図をみたのは、筆者だけではあるまい。
 権力継承プロセスは、公式には44年ぶりに開かれた朝鮮労働党代表者会が嚆矢(こうし)となった。   また、今年4月の朝鮮労働党代表者会では軍歴すらない とされる崔竜海氏を党政治局常務委員と党中央軍事委員会副委員長に選出し、朝鮮人民軍総政治局長に就かせるなど「変則」的な人事もみられた。  その「変則」 性こそ、金正恩氏らが試みる軍統制のあり方であろう。

≪「先軍」は継承する金正恩氏≫ :
 他方、北朝鮮は今年2月に、オバマ米政権との初合意となった「閏日合意」でウラン濃縮と核実験の凍結を約束した。  この合意は、北朝鮮が「長距離ミサイル」の発射を、「宇宙の平和利用」の権利を主張して強行し失敗したことで、履行をみていない。   しかし、北朝鮮はミサイル発射に対して国連安全保障理事会が 議長声明を発表した後も、一時懸念された核実験を控えている。  党の機能と権威を回復しつつ軍を統制する試みが奏功すれば、「先軍」の下に肥大化した軍を抑制できるかもしれない−。このような期待感が頭を擡(もた)げてきても不思議ではない。
 とはいえ、金正恩氏への権力継承に際し、党と軍の間にある種の緊張関係が生じているにせよ、その中に「先軍」を位置づけるのは、恐らく誤りであろう。  金 正恩氏が今年4月に、金日成生誕百周年に寄せた論文をみても、金正日氏に人格化された指導理念として、それを継承するという意志に満ち溢(あふ)れている。   何よりも、金正恩氏の北朝鮮が対米関係を主軸とする対外政策を展開する限り、これまでと同様、対米恫喝(どうかつ)の手段としての核・ミサイル開発の 効用に依存せざるを得ない。
 事実、日本の一部で報じられたところでは、今年2月、朝鮮労働党幹部に配布された内部文書に、金正日氏がウラン濃縮を核兵器計画として推進すべきだとした指示が書かれていたという。

 以前、北朝鮮はウラン濃縮計画を米国の「捏造(ねつぞう)」の産物として否認していたが、2度目の核実験を済ませると、平和利用目的のウラン濃縮計画の存在を認める立場に転じ、今日に至っている。
 しかし、北朝鮮は、平和利用計画であるとの「理論武装」をしつつ、米国に対してはその計画の軍事転用もあり得ることを暗示しなければならない。
 平和利用を強調するだけでは、米国を恫喝することにはならないからである。

≪ウラン型の核開発も変わらず≫ :
 それは2010年に始まっていたとみてよい。  オバマ政権が「核態勢の見直し」を発表した直後、北朝鮮外務省報道官は、「米国の核脅威が継続する限り、今後も抑止力として各種の核兵器を必要なだけ増やし、現代化する」と述べていたからである。
 この時、北朝鮮プルトニウム関連施設は、6カ国協議で合意した「無能力化」と呼ばれる措置で再稼働が困難な状態に置かれていた。
 このことを想起すれ ば、北朝鮮が自らの核兵器計画に「各種」の一言を冠した意図については、贅言(ぜいげん)を要しまい。
 05年2月、北朝鮮は「核兵器保有した」(外務省)と宣言し、翌年10月にプルトニウムによる初の核実験を強行している。
 北朝鮮は物的裏付けのない恫喝はしない。この時期、北朝鮮は高濃縮ウランの蓄積 の見通しが立ったとみてよい。
 北朝鮮の天然ウラン埋蔵量について、約2600万トンと世界原子力協会は推定する。  そのうち、同協会が採掘可能量とみる約400万トンは、現在世界一のオーストラリアを凌駕(りょうが)する。
 濃縮ウランによる核兵器開発に成功すれば、量産体制に入らざるを得ない。 先に触れた内部文書で金正日氏は核兵器の「量産」を指示したとされるが、氏の念頭に北朝鮮の天然ウラン埋蔵量があったのは想像に難くない。
 今のところ、北朝鮮は「閏日合意」を履行していないが、核実験など合意違反の行動も取っていない状態にある。
 それが永遠に続くとは考えにくい。
 3回目の 核実験は濃縮ウランを用いた初の核実験になるかもしれない。
 今回試みられようとしている党軍関係の再調整の成否にかかわらず、北朝鮮の「先軍」はウラン型核兵器の量産という新たな段階に入ろうとしているのではないか。(くらた ひでや)