・シャープは経営のマーケティング戦略判断に不具合があった!

・「シャープに限らずパナソニックソニーともに、円高の進展や韓国サムスンの追い上げなどの特殊要因が重なって、経営状況が一挙に悪化した」
・電機メーカーの中でも、新興国のインフラ投資に軸足を移した重電系の東芝日立製作所三菱電機は、それなりの収益を確保している。
・人件費の高い米国でも、次々に新製品を開発し、世界的なサプライチェーン・プロダクションシステムをつくり上げて、高収益を維持しているアップルがある。
・精緻なものをつくれることと、顧客が欲しいと思うものをつくるのは同一ではない。ある時期、わが国の製造業は、自身が持っている精密な技術に酔いしれたのか。
・シャープの場合、液晶と太陽電池経営資源を傾注し、堺に1兆円規模の投資を行なって液晶工場をつくった。 そのときの意思決定では、同社の液晶の技術が同業他社に追い付かれることを想定していなかった。 
・シャープは経営のマーケティング戦略判断に不具合があった!
・家電メーカーに限らずわが国企業全般に、経営機能がお粗末なことだ!
 顧客の声にしっかり耳を傾け、有効な経営判断を迅速に行なえば、生き残りのパスを見つけることはできるはずだ!
 




〜〜〜関連情報<参考>〜〜〜
ここまで来てしまったら、シャープはどうすべきか?
日の丸家電が辿る「古典的な衰退」と生き残りの条件
シャープ危機の背景に見える わが国家電メーカー衰退の構図
【第242回】 2012年8月28日    真壁昭夫 [信州大学教授]

 わが国の家電メーカーの地盤沈下が一段と顕著になるなか、足もとでシャープの経営危機懸念が一気に高まっている。
 2012年3月期の決算で過去最悪となる3900億円の最終赤字を計上した前期に続き、今期も主力事業の液晶テレビAQUOS」や太陽電池の赤字に歯止めがかからず、2013年3月期の最終赤字が2500億円に上る予想を発表した。
 そうした状況下、シャープの救世主になるはずだった台湾の鴻海グループが、シャープの株価の下落を理由に当初の方針を変えている。  それに伴い、同社はさらなるリストラを断行し、主力事業を軒並み売却する方針を立て、必死で生き残りを図っている。
 そこには、つい数年前まで「世界の亀山モデル」と言われ、薄型テレビ市場を席巻した勢いは微塵も感じられない。  同業であるパナソニックソニーもかなり厳しい状況に追い込まれており、わが国家電メーカーの凋落ぶりが鮮明化している。
 わが国の家電メーカーが、窮地に追い込まれている理由は1つではないだろう。  外部要因としては、円高が進み世界市場での競争力が低下したこと、高付加価値の分野であるスマートフォンなど、IT関連製品でアップルに大きく後れをとったこと、韓国や台湾、さらには中国メーカーの追い上げが予想以上に急速だったことなどが考えられる。
 しかし、もっと重要な理由がある気がする。  当該分野の専門家である技術者や、アナリスト連中にヒアリングをしてみると、意外にも企業内部の問題を指摘する意見が多かった。
「顧客の欲しいと思う製品をつくることができなかった」「意思決定が遅すぎて、世界市場の流れに追いつけなかった」などの声が多い。  突き詰めて考えると、わが国企業の経営の問題に行き着く。
 経済専門家の中にも、「シャープに限らずパナソニックソニーともに、円高の進展や韓国サムスンの追い上げなどの特殊要因が重なって、経営状況が一挙に悪化した」との見方をする人もいる。
 確かに円高の進展は、わが国企業にとってかなり厳しい条件と言わざるを得ない。  また、韓国や中国メーカーの急激な追い上げにより、シャープの主力製品である液晶や太陽電池の値崩れが加速したことも、同社にとって激しい逆風になったことは間違いない。
 しかし、そうした条件が重なったからと言って、企業業績がここまで悪化してもよいという論法は成り立たない。
 まず、円高が進んだのは、わが国の輸出企業全てにとって逆風だった。
 また、韓国や中国メーカーの追い上げは、わが国のみならず、主要先進国のメーカー全てにとって厳しい条件だ。  それにもかかわらず、わが国の代表的輸出産業である自動車は、トヨタをはじめ皆、苦しいながらも頑張っている。
 あるいは、同じわが国の電機メーカーの中でも、新興国のインフラ投資に軸足を移した重電系の東芝日立製作所三菱電機は、それなりの収益を確保している。
 さらに人件費の高い米国でも、次々に新製品を開発し、世界的なサプライチェーン・プロダクションシステムをつくり上げて、高収益を維持しているアップルがある。
 つまり、経営戦略によって、わが国企業でも先進国の企業でも、十分に生き残れるチャンスはある。企業が業務を行なう方法=ビジネスモデルは、「こうしなければならない」という縛りは基本的にない。  収益力が低下するのであれば、それを防ぐ有効な方法を考えればよい。
 それが容易でないことは十分に承知している。  しかし企業経営者は、その方法を考え出すことが役目だ。  だからこそ、高い給料をもらっている。
実は古典的な凋落のパターン:
顧客が欲しいものをつくれなかった:
 わが国家電メーカーの凋落の原因について、今までかなり多くの人にヒアリングしてきた。 自分でも考えてみた。  その結果、行き着いたのは、わが国家電メーカーは、古典的な衰退の構図を辿っているということだ。
 もちろん、シャープ、パナソニックソニーといった家電系メーカーの中でも、それぞれ状況は異なっている。  しかし、ここで共通項を考えると、恐らく2つのことに帰着する。
 1つは、顧客が欲しがる製品をつくることができなかったことだ。わが国の製造業のベースには、多かれ少なかれ“モノづくりのプライド”が流れている。日本人のカルチャーとして、精緻で綺麗なものをつくることを一種の美徳と感じる文化があるからだ。
 しかし、精緻なものをつくれることと、顧客が欲しいと思うものをつくるのは同一ではない。ある時期、わが国の製造業は、自身が持っている精密な技術に酔いしれたのだろう。
 しかし、「これもつくれる。あれもつくれる」と誇ってみたところで、買い手がその製品に魅力を感じなければ、販売実績は上がらない。  顧客の声に耳を傾けて、彼らが欲しいものをつくるという姿勢が不足したのだろう。
追い付かれることを想定せず:
突き詰めれば「経営の問題」に:
 もう1つは、経営の判断が上手くないことだ。 シャープの場合、液晶と太陽電池経営資源を傾注し、堺に1兆円規模の投資を行なって液晶工場をつくった。 そのときの意思決定では、同社の液晶の技術が同業他社に追い付かれることを想定していなかった。 
 ところが、韓国企業の追い上げは想定以上に早く、液晶や太陽電池などの価格は急激に下落した。  そうした事態の発生が想定された時点で、同社は投資計画の見直しや新しいビジネスモデルの構築を考えなければいけなかった。 結果的にその決断ができず、収益力の激減を招くことになってしまった。
 顧客の声を上手く反映できず、しかも重要なターニングポイントで経営判断が遅れてしまえば、いかなる企業といえども衰退するのは避けられない。
 シャープもここまで業績が悪化してしまうと、経営戦略などと言っていられる状況ではない。とにかく、不採算部門を削り、人員をリストラして重荷を減らし、売却できるものは売って、手もとの流動性を確保しなければならない。
 そうしたリストラ策は、もっと早く、もう少し余裕のある段階で行なうべきなのだが、そのタイミングが遅れたのも経営責任と言わざるを得ない。
リストラは一時的な弥縫策:
家電メーカーの生き残り戦略とは?:
 また、海外の投資家連中とメールのやり取りをしていると、シャープのリストラ策は一時的な弥縫策との認識が多く、この局面を乗り越えるのは容易ではないとの見方が有力だ。
 シャープが生き残るためには、まず有力提携先である鴻海グループとの提携条件をしっかりまとめることが先決だ。  それによって、同社の資金繰りにも相応の余裕が出てくるはずだ。
 また、業務面においても、鴻海グループとの提携が密になれば、アップルの世界的なサプライチェーンの中に組み込まれる可能性が高い。  その場合には、同社の独立性は厳しくなるものの、同社が抱える製造部門の操業度は上昇することになるはずだ。
 もう1つの戦略として、同社が考えているように、洗濯機や冷蔵庫、クーラーなどのいわゆる白物家電に注力することだ。  アジアの新興国は高成長を続けており、今後、国民所得が増加するにしたがって、価格帯の高い日本メーカーの洗濯機などに手が届くようになる。
 インドやインドネシア、タイなどにおける白物家電の普及率を考えると、わが国メーカーの製品に対する需要は十分にあるはずだ。  それを上手く捉えることができれば、それなりの収益力を維持することは可能だ。
 いずれにしても、家電メーカーに限らずわが国企業全般に言えることは、経営の機能がお粗末なことだ。それを反省して、顧客の声にしっかり耳を傾け、有効な経営判断を迅速に行なえるようになれば、生き残りのパスを見つけることはできるはずだ。
 逆にそれができないと、淘汰されることは避けられないだろう。