・中国の成長率が7%、そしてそれ以下となったときに、なおも軍事費1桁増を許す社会環境となっているであろうか?

尖閣諸島は中国領であると中国政府が主張するようになったのは、1968年に国連の機関が尖閣水域に豊富な海底資源があると明らかにしてからだ!
中国海洋石油南シナ海でも石油、天然ガスを採掘しようと、ベトナム、フィリピン政府とその水域の領有権を争っている。
江沢民胡錦濤指揮下の過去20年の間、軍はこれまでにない厚遇を受け、…正規予算を毎年2桁ずつ増やし、武器の購入や兵器システムの開発に何十億ドルも投じてきた。中国はどこの国にも負けない軍産複合体をつくり上げてしまった。
・中国の外洋艦隊がサイパンなどの北マリアナ諸島まで進出する力を持つようになったとしても、中国の資源の安定確保には役立たない。
・軍事費の2桁増は諦めるが、1桁増はどうしても認めてもらいたいと軍部首脳が党指導部に説くには、尖閣が不可欠なのだ!
・中国の成長率が7%、そしてそれ以下となったときに、なおも軍事費1桁増を許す社会環境となっているであろうか?



〜〜〜関連情報<参考>〜〜〜
中国軍産複合体の願いかなうか 
中国現代史研究家・鳥居民    2012.10.2 03:46 [正論]
 この8月から9月、尖閣諸島の問題に絡み、日中政府間で争論が起き、中国指導部は国内の多くの都市で反日デモを行わせた。
≪海洋石油、軍喜ばす「尖閣」≫ :
 こうした出来事が起きて、中国国内で一番喜んでいるのは誰であろう。
 まずは中国海洋石油の幹部たちであることは間違いない。  そして、中国軍部首脳たちも笑みを浮かべているのではないか。
 中国海洋石油から見よう。
 そもそも、尖閣諸島は中国領であると中国政府が主張するようになったのは、9月28日付の本欄で中嶋嶺雄氏が書いているように、1968年に国連の機関が尖閣水域に豊富な海底資源があると明らかにしてからのことである。
 それから10年後、トウ小平氏が政権を握った。 彼は社会主義国中国の労働者の勤勉さを懸念し、経営者の能力に何の自信も持っていなかった。
 北欧の北海油田の採油が華々しく報じられていたときだった。  尖閣水域から南シナ海の海底資源に頼り、大資源国になるというのがトウ氏のその時の夢だった。  海底油田の探査・採掘の技術は中国にはない。  米国の企業に頼らなければならない。   まずは米政府、何よりも軍部の信用を得ようとしてトウ氏がやった荒業が、79年2月の10日間の中越戦争だった。
 こうした中で、82年につくられたのが中国海洋石油である。  この国有会社が、尖閣と同じ東シナ海でガス田を開発していることは、誰もが知っている。  日本政府は中国側に譲歩して、共同開発にしようと持ちかけているのだが、中国政府は交渉再開を引き延ばす口実に反日デモを利用している。
 だが、尖閣周辺の海底資源は、68年の予測と違って、取るに足りない量ではないかともいわれている。  ただし、中国海洋石油南シナ海でも石油、天然ガスを採掘しようと、ベトナム、フィリピン政府とその水域の領有権を争っている。  中国海洋石油、いや、中国政府が尖閣でも強面(こわもて)で臨まなければならない理由がそこにある。
≪2桁増続けてきた軍事費≫ :
 次に、尖閣をめぐるごたごたが中国軍部首脳たちをうれしがらせているに違いないというのは、どういうことなのであろうか。
 英、豪の新聞で東アジアの特派員を務めたリチャード・マクレガー氏はその著書「中国共産党−支配者たちの秘密の世界」(邦題)の中で、「江沢民胡錦濤指揮下の過去20年の間、軍はこれまでにない厚遇を受け、…正規予算を毎年2桁ずつ増やし、武器の購入や兵器システムの開発に何十億ドルも投じてきた」と記している。
 中国の軍部が説いたのは、経済が2桁の成長をしているではないか、軍事費の2桁増は当たり前だとの論理だった。  たちまち、中国はどこの国にも負けない軍産複合体をつくり上げてしまった。
 だが、中国の軍備の果てしない増強は、国防という目標のためには役立っていない。 かつて、ヒトラーは征服する欧州内で自給自足できると考えたからこそ、戦争を始めた。  昭和16年の日本の為政者はボルネオとスマトラの油田を手に入れれば自立できると考えたがために、戦争に踏み切った。
 現在、中国は石油と鉄鉱石の6割を輸入に頼っている。 先に挙げた中国海洋石油、やはり国有企業である他の2社の石油会社はいずれも、アフリカや中南米、カナダの原油に依存している。 鉄鉱石はオーストラリア頼みである。
 中国がかつては輸出していたトウモロコシや大豆の輸入も、増え続けている。 そして、あらゆる製造品を全世界に輸出しなければならない。
 中国の外洋艦隊がサイパンなどの北マリアナ諸島まで進出する力を持つようになったとしても、中国の資源の安定確保には役立たない。
 ロケットやミサイル艦がドイツの港に向かうコンテナ船の安全を保障できはしない。
≪経済減速でもせめて1桁増に≫ :
 ところで、今年の中国の経済成長率は8%割れになると予測されている。
 軍の首脳たちは、軍事費2桁増とはいかなくても、1桁増は認めてほしいと願うようになろう。  そのためには、米国が中国に侵攻してくるのだといった毛沢東時代からの話に頼るしかない。  米国はチベットを独立させようとして、チベット奪取10カ年計画をつくり、密かに実行に移しているのだといった話が必要なのだ。
 そして、尖閣が利用できる。日本に「盗まれた」尖閣について、クリントン国務長官が日本の前原誠司外相(当時)らに、尖閣日米安全保障条約の適用範囲だと説き、パネッタ米国防長官も北京で次期最高指導者に内定している習近平・国家副主席に対し同じ主張をしている。
 やがて、われわれは日本、米国と戦わなければならなくなる、というシナリオが作れる。 軍事費の2桁増は諦めるが、1桁増はどうしても認めてもらいたいと軍部首脳が党指導部に説くには、尖閣が不可欠なのだ。
 さて、中国の成長率が7%、そしてそれ以下となったときに、なおも軍事費1桁増を許す社会環境となっているであろうか。中国の次期指導部が取り組まなければ、重大な問題となるであろう。(とりい たみ)