構造物や建造物の基礎施工用の短期荷重型のケミカルアンカーボルトを長期荷重支持に使用する誤った危険な設計を推進したのは誰か?

・笹子トンネル換気ダクト崩落事故原因は、トンネル上部の換気ダクト吊り下げ金具の固定アンカーボルトがトンネル上部のコンクリート壁から抜け落ちたのが濃厚です。
・接着剤系アンカーボルトの引き抜き強度に依存した設計が行われていたという恐ろしい事実が表に出た。
・事件は日本全国の高速道路や国道のトンネルに潜む重大な危険を露呈させた。
・構造物や建造物の基礎施工用の短期荷重型のケミカルアンカーボルトを長期荷重支持に使用する誤った危険な設計を推進したのは誰か?
・パネルは相互に独立しているのに、なぜ、100m長の連鎖崩落に至ったのか、また、なぜ、全長崩落に至らず、途中で崩落が止まったのか、これは重大な謎だ!


〜〜〜関連情報<参考>〜〜〜

中央自動車道・笹子トンネルの換気ダクト崩落事故:
接着剤系アンカーボルトの誤用という重大な設計ミス
2012/12/4(火) 午前 11:33 新ベンチャー革命2012年12月4日 No.686

1.2012年12月2日、中央自動車道の笹子トンネルで大事故発生
 2012年12月2日の朝、中央自動車道の笹子トンネルで天井パネル崩落事故が発生し、9人もの犠牲者がでました。
 その後のマスコミ報道にて、この事故原因が見えてきました。 トンネル上部の換気ダクト吊り下げ金具の固定アンカーボルトがトンネル上部のコンクリート壁から抜け落ちたようです。
 このアンカーボルトはマスコミ報道の説明から、接着剤系アンカー(ケミカルアンカー)(注1)と思われます。
 筆者はIHIの設計エンジニア時代、プラント構造物の基礎アンカーにこの接着剤系アンカーボルトを使用した経験があります。
2.この事故原因は接着剤系アンカーボルトの引き抜き強度に依存した設計だったという人災 
 上記、接着剤系アンカーボルトの抜け落ちが事故原因と報道され、筆者は仰天しました。
 接着剤系アンカーボルトを使用した経験のある筆者はこの報道を観て、背筋が寒くなりました。 この換気ダクト構造が全国の高速道路や国道のトンネルに使用されているなら、これは重大な設計ミスです。  その意味でこの事件は日本全国の高速道路や国道のトンネルに潜む重大な危険を露呈させました。
 このアンカーボルトは構造物や建造物の基礎施工用ですから、下向き(重力方向)に使用するのが常識です。
 その場合、アンカーボルトに引き抜き力がかかるのは、上部構造物が地震を受けたり、風圧を受けたときのみで、これは、短期荷重設計対象です。
 このアンカーボルトを上向きに使ったり、長期荷重支持に使うのは非常に危険です。
 今回のトンネル事故現場での接着剤系アンカーボルトの使われ方は“誤用”といってよいでしょう。
 従来のアンカーボルトは基礎コンクリートの打設前、鉄筋組と同時に、アンカーボルトをセットし、鉄筋に溶接します。 形状もJ型となっており、構造的に非常に安心できるものでしたが、施工面では面倒でした。
 一方、接着剤系アンカーボルトは、基礎コンクリートを打設した後、施工しますから、非常に施工しやすいアンカーボルトです。
 この接着剤系アンカーボルトは確かに施工が容易ですが、通常のアンカーボルトに比べて、引き抜き強度に不安があります、なぜなら、接着剤とコンクリートの接着力に強度依存しているからです。接着剤による接着力は、施工条件に大きく左右され、信頼性が今一です。
3.笹子トンネルの換気ダクト設計は大変お粗末
 今回、笹子トンネルで崩落した換気ダクトにはコンクリート・パネル(5m x 1.2m x 8cm厚、1.2t)(注2)が使用されていますが、換気ダクトは天井に吊り下げるので通常は軽量構造とします。  そこに、わざわざ重いコンクリートを使用したことはダクト材料選定の誤用とみなせます。
 トンネルの設計者は土木工学出身者でしょうから、材料はコンクリートしか浮かばなかったのでしょうが、大変、お粗末です。
 以上より、笹子トンネルの換気ダクト設計には大きく二つの設計ミスがあります。
(1) 施工信頼性の低い接着剤系アンカーボルトを上向きに使用(誤用)し、ダクト重量支持(長期荷重設計)に使用したこと。
(2) 本来、軽量化すべき天井換気ダクトの材料に、重いコンクリート・パネルを使用したこと。

4.笹子トンネルのあるべき換気ダクト設計とは
 筆者なら、笹子トンネルの換気ダクト用パネルにはアルミパネルを使用、そのスパンも10m長の一本ものにします(このパネルは5mスパンで中央分割してはならない)。このパネルをトンネル側部の両端に設置される受け金具で固定します。 そして、パネルの中央部のたわみ防止のため、トンネル上部の中央部に吊り下げ金具を取り付け、パネルを支持します。
 この構造なら、仮に中央部吊り下げ金具の固定部が抜けても、パネルはたわむだけで落下しません。 さらにトンネル上部の吊り金具固定に接着剤アンカーボルトを使用しても、それは誤用ながら、かかる荷重が小さく安全設計となります。
5.テロの可能性も否定できない
 今回の事故の特徴は、崩落パネル100枚、110m長に渡っている点です(注2)。これは大きな謎です。
 高圧送電線鉄塔のような鉄骨構造は、軽量となる代わりにトラス構造のバランスで強度維持されています。  そのため、強度部材の一部が破損するとバランスが崩れて全崩壊する危険があります。  しかしながら、笹子トンネルのパネルは相互に独立しており、支持金具もパネル毎に設置されていますから、そのどこかで支持金具が脱落しても、それを起点に大規模崩壊が起こる可能性は少ないと思われます。   なぜ、100m長の連鎖崩落に至ったのか、また、なぜ、全長崩落に至らず、途中で崩落が止まったのか、これは重大な謎です。

 筆者は、笹子トンネルのパネル崩落の画像を観て、コントロールド・デモリッション(注3)を連想しました。これは9.11事件におけるWTCビル崩壊に使用されたといわれています。

 本ブログ前号No.685にて、公共事業費の急減を取り上げました(注4)。12.16総選挙にて自民政権を復活させて、ハコモノ公共事業を復活させたい勢力が日本に存在するのは間違いありません。この事故の発生にて、近未来、膨大な土木工事が必要となるのは確かです。

6.高速道路で高額の通行料をとっておきながら、安全対策が不備なのはなぜか

 最後に、われら国民は高速道路で高額の通行料を取られていますが、米国などは税金で高速道路を建設しており、ほとんどがタダです。その意味で、日本の高速道路はほんとうに“ぶったくり”の極致です。ところが、その通行料の7〜8割は、建設費借入金の償還と借金の利払いに充てられています(注5)。だから、笹子トンネルを含む全国の高速道路の安全対策にカネが充分に回らない収支構造となっています。

 筆者の長年の疑問、それは、米国の高速道路はほとんどただ(フリーウェイ)なのに、なぜ、日本の高速道路は通行料が高いのか、というものです。

 日本の高速道路には、巧妙な国民だましが隠されているような気がします。そのため、国民から高額な通行料をとっていながら、安全対策にはカネが回らないのです。ほんとうに、国民はなめられています。この事故をきっかけに、覚醒しましょう。