・経済成長路線と一党独裁体制の両立は、陶小平が考えついた「社会主義市場経済」という言葉で辻褄を合わせるほかない。

・全能神は1980年代 に黒竜江省で生まれた新興宗教で、イエス・キリストを信仰するほか、共産党を「大紅竜」という隠語で呼び、「大紅竜を殺して全能神が統治する国家をつくろう」と主張している。
・米中2国間も、経済では相互依存度を深めつつ、軍事的には互いに警戒的になっている。
・中国では富んだ沿海地域と貧しい奥地の差がますます拡大し、そこにチベット人ウイグル人の反感が募った揚げ句、極端な場合、崩壊するかもしれない。
・中国の腐敗がのっぴきならない限度に達しているという事実。
ジニ係数の危険ライン(0・4)を上回る、0・61という 中国の数字が公にされた。
・経済成長路線と一党独裁体制の両立は、陶小平が考えついた「社会主義市場経済」という言葉で辻褄を合わせるほかない。







〜〜〜関連情報<参考>〜〜〜
中国のデマに踊る日本のメディア  
田久保忠衛   2013.01.17
<【正論】年頭にあたり 杏林大学名誉教授・田久保忠衛
 ■憲法改正の時告げる「中国不穏」
 いくら宗教を厳しい管理下に置いているとはいえ、説くところが非常識であれば、「淫祠(いんし)邪教だ」と笑い飛ばせないのだろうか。  中国政府は昨年暮れ、キリスト教会・宗教集団の「全能神」に大弾圧を加え、気功集団の法輪功以来の大量摘発を行ったという。
 産経新聞北京電によれば、全能神は1980年代 に黒竜江省で生まれた新興宗教で、イエス・キリストを信仰するほか、共産党を「大紅竜」という隠語で呼び、「大紅竜を殺して全能神が統治する国家をつくろう」と主張しているそうだ。
体制崩壊恐れ攻撃的姿勢も≫
 言論、集会、結社の自由が認められている社会で黙示録的終末論を大真面目(まじめ)に説いても、弾圧の対象にはなるまい。  さては、中国には体制を揺るがす事態でも切迫しているのかと邪推したくなる。
 米中央情報局(CIA)など政府情報機関を統括する米国家情報会議(NIC)が12月10日に公表した、世界情勢の10〜20年先を予想する「世界の潮流2030」の全文を読んでみた。  中国に絡む分析で印象に残ったのは3点だ。
 第1は 国際的なねじれ現象とも表現すべき現実だ。  中国と経済的に相互依存関係を強める国々に例外はないが、同時に、軍事力を背景にした外交を展開するこの国に心配を抱く国々は、米国と安全保障関係を結ばざるを得ない。 米中2国間も、経済では相互依存度を深めつつ、軍事的には互いに警戒的になっている。
≪格差と腐敗の拡大打つ手なし≫
 第2は、(1)現状が続く(2)米国がアジアから手を引く(3)米国がプレゼンスを続け、中国が政治的な民主化に向かう(4)中国がアジアで支配的な国家になる−という4つのシナリオを提示したことだ。 いずれも筋道は論理的だが、このシナリオ以外の指摘が重大である。
 つまり、第3に中国では富んだ沿海地域と貧しい奥地の差がますます拡大し、そこにチベット人ウイグル人の反感が募った揚げ句、極端な場合、崩壊するかもしれないと明言している箇所だ。
 その際に中国指導部は内憂を外患に転化しようとして予測し難い、あるいは対外的に極めて攻撃的な態度に出てくるというのだ。  中国がこれで成功すれば、(4)のシナリオが実現する可能性が増すとの記述は、日本人にとって首肯(うなず)けるところが少なくないのではないか。
 中国に関する正確な情報は何かを見定めるのは難しいが、米マスメディアの中でもニューヨーク・タイムズ紙の調査報道は一際(ひときわ)、光彩を放っている。
 10月と11月、異例なほどの紙面を使って、最も清廉潔白と伝えられてきた温家宝首相一族の蓄財を2度にわたり微に入り細を穿(うが)って報道したうえ、同じ11月には胡錦濤前総書記の懐刀と称されていた令計画・前党中央弁公庁主任の子息による事故死とその背景を詳細に報じた。
 報道が示しているのは、中国の腐敗がのっぴきならない限度に達しているという事実であろう。激しい権力闘争の中で一方の勢力が米紙に情報を流して、他方をたたくといった、情報操作の次元だけでとらえられるべきではない。
 中国人多数が抱く不満の最たるものは、所得の格差だ。  その度合いを0から1までの数値で表したジニ係数の危険ライン(0・4)を上回る、0・61という 中国の数字が公にされたことを知ったが、なぜこのような数字が公にされたのか不思議なくらいだ。
 習近平総書記は就任して以来、繰り返し、腐敗対策を訴えている。 だが、所得格差の拡大と腐敗を切り離せるのか。 腐敗を本気で暴いていったら自らに火の粉は降ってくる。
≪望遠するのに顕微鏡使う愚≫
 冷戦下で中国を封じ込めるよりも、国際社会に広く関わらせた方が国益にかなう、との決断を下したのはニクソン米大統領だった。  米中国交正常化にはベトナム戦争終結と対ソ戦略という2つの狙いがあったが、独裁国家、中国の民主化を促し、軟着陸させようとの配慮も根底に秘められていた。
 それに乗った中国はすぐ矛盾に逢着(ほうちゃく)する。  経済成長路線と一党独裁体制の両立は、トウ小平が考えついた「社会主義市場経済」という言葉で辻 褄(つじつま)を合わせるほかない。
 世界第2の経済大国、軍事大国は巨大な課題を抱えたまま現在に至った。国際社会にとって最良の選択は、NIC報告が紹介する4つのシナリオのうち第3に違いないが、習近平路線はそれとは逆の方向を歩み始めたのではないか。
オバマ米大統領が軸足(ピボット)をアジアに置いた戦略を展開している中で、日本の安倍晋三政権、韓国の朴槿恵政権が相次いで誕生した意味はすこぶる大きい。
 安倍首相が民主的ルールに則(のっと)って憲法96条の改正手続きを改め、他の民主主義国が有している国防軍を持とうとしていることを、「右傾化」 とか「軍事大国化」とか騒ぎ立てる政治家やマスメディアは、望遠鏡を使用すべき観測に、顕微鏡を持ち出す愚に気付かないのであろうか。 年頭にあたって心配なのはこのことである。(たくぼ ただえ)