・テロと戦う世界の常識は、「正義」を守るためには「平和」を守れないこともあるというものだ!

・85年にレーガン米大統領は「米国はテロに決して譲歩しない。譲歩すればさらにテロを招くだけである」と主張した。
・ワインバーガー米国防長官は「テロを実行した国家、あるいは個人に恐怖の破壊と恐るべき代償の支払いを強要することがテロに対する究極の抑止法である」と述べている。
・今回のアルジェリア人質事件での同国政府の決定も、テロと戦う世界の常識に従った行動である。  故に、人質を取られた英国やフランスその他の国はアルジェリア政府の行動を支持した。
・テロと戦う世界の常識は、「正義」を守るためには「平和」を守れないこともあるというものだ!  戦う国々は覚悟を決めて「正義」を守ろうとしている。
・各国の治安部隊が対テロ作戦を決行する際、人質の犠牲を20%以下に抑えることが目標だともいわれる。


〜〜〜関連情報<参考>〜〜〜
世界は平和で優しいという幻想
防衛大学校教授・村井友秀  2013.2.6 03:17 [正論]
 日本の常識は世界の非常識といわれることがある。  テロ事件でも日本人にとり想定外の事態がしばしば発生する。  そもそもテロとは何か。  日本ではゲリラとテロが混同されている。  ゲリラはスペイン語で、「小さな戦争」という意味である。  ゲリラは組織的、継続的な戦争を意味し、ゲリラ戦闘員は正規軍の兵士と同様、捕虜になった場合は国際法により人道的に扱われることが保障されている。
 ≪ゲリラとテロを混同するな≫
 他方、テロリズムの語源はフランス革命の「恐怖政治」である。  テロリズムの定義は、非合法な暴力を行使することによって一般大衆に恐怖を与え、政治的な目的を達成しようとする行為である。
 政治的な目的を達成するためには、一般大衆に対する宣伝が重要なポイントになる。  テロはマス・メディアに注目されるために象徴的、劇的な標的を攻撃し、過激化していく傾向がある。   ペルーの反体制武装集団「輝く道」のモットーは「残酷な暗殺」であった。
 テロの本質は、物理的被害よりも心理的効果(恐怖)である。  従来、テロは戦争ではなく犯罪であり、テロリストは戦闘員ではなく犯罪者であると見なされてきた。   故に、拘束されたテロリストは、捕虜資格を有せず、当事国の刑法によって裁かれることになる。
 また、国際法により、文民は戦争中に敵から攻撃されないことになっており、同時に文民が敵を攻撃することも禁じられている。   故に、敵対行動に参加する文民国際法に違反する「不法戦闘員」として攻撃対象になり、捕虜資格もない。  また、文民は戦闘から保護されているものの、文民と軍人が混在していて、軍人を攻撃した結果、文民に死傷者が出たとしてもやむを得ない「付随的損害」として違法とされない場合がある。
 ≪対テロ強硬作戦は世界の常識≫
 テロは従来、その政治性が重視され、賛否両論に割れる行為であった。   植民地独立運動の英雄の中には多くのテロリストがいた。   しかし、1980年代になると、テロの標的になることが多かった先進国を中心に、テロに反対する国際世論の形成が進行していった。   先進国首脳会議や国連総会・安全保障理事会では、テロに反対する決議や宣言が採択されている。
 また、テロの過激化に伴い、国際社会の対応も変化していった。
 83年、ベイルートで米海兵隊司令部がテロリスト1人により爆破され、海兵隊員ら241人が死亡する事件が起きた。  この事件以降、米国は「直接的・間接的に国家が関与するテロは戦争と見なし、テロに関与する国には軍事力を含めた対応をする」(国家安全保障決定令138号)ことになった。
 85年にレーガン米大統領は「米国はテロに決して譲歩しない。譲歩すればさらにテロを招くだけである」と主張し、その結果、大統領の支持率は48%から68%に上昇した。
 また、ワインバーガー米国防長官は「テロを実行した国家、あるいは個人に恐怖の破壊と恐るべき代償の支払いを強要することがテロに対する究極の抑止法である」と述べている。
 米国は約3000人が殺害された2001年9月11日の米中枢同時テロを受け、アフガニスタンイラクで6000人以上の米国兵士の犠牲を出しながら軍事作戦を行っている。
 他の多くの国もテロには譲歩せず戦っている。 1977年9月、西ドイツでドイツ赤軍がシュライヤー経営者連盟会長を誘拐する事件が発生した。
 誘拐犯は獄中のテロリストの釈放を要求したが、西ドイツ政府は要求を拒否した。
 ≪問われる「正義」守る覚悟≫
 これに対して、シュライヤー会長の家族が「父の生命を救うために、誘拐犯の要求を受け入れるように西ドイツ政府に指示してもらいたい」と、憲法裁判所に提訴した。  憲法裁は、「西ドイツ政府にはドイツ市民個人の生命を守る義務があるとともに社会の秩序を維持し、国民全体の安全を守る義務がある」として訴えを却下した。  その後、シュライヤー会長は殺害されたが、西ドイツ政府に対する国民の支持は揺るがなかった。
 だが、当時の日本政府の対応は異なっていた。  77年9月、日本赤軍日航機をハイジャックし、600万ドルと獄中のテロリストの釈放を要求した。  これに対し、日本政府は「1人の生命は地球よりも重い」とし、超法規的措置を取って獄中メンバー6人を釈放し、身代金を支払った。 乗客乗員は全員解放されたものの、日本政府の対応は国際社会から批判された。
 今回のアルジェリア人質事件での同国政府の決定も、テロと戦う世界の常識に従った行動である。  故に、人質を取られた英国やフランスその他の国はアルジェリア政府の行動を支持したのである。
 テロと戦う世界の常識は、「正義」を守るためには「平和」を守れないこともあるというものである。  戦う国々は覚悟を決めて「正義」を守ろうとしている。  各国の治安部隊が対テロ作戦を決行する際、人質の犠牲を20%以下に抑えることが目標だともいわれる。  世界は日本人が信じているほど平和でもなければ、優しくもない。(むらい ともひで)