・日本が従来にも増して、安全保障や経済から文化に至る多様な分野で、欧州との先進国間協調外交を積極的に展開すべきだ!

・中国の影響力の拡大を前にして、アジア太平洋地域で日本が価値観外交を展開するとき、欧州の重要性はより強まる。
・日欧は普遍的な価値を共有する先進国である。国家の機能が近い国同士が協力するという意味での機能的な地域主義によって、日本は欧州諸国とともに、多極化あるいは無極化によって不安定になる世界を下支えすべきだ!
・多様性の中での統一の世界化。  アジア太平洋地域においても同様である。  この地域で日本が果たすべき役割は大きい。
・日本が従来にも増して、安全保障や経済から文化に至る多様な分野で、欧州との先進国間協調外交を積極的に展開すべきだ!



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価値観外交で欧州と協調強めよ
学習院大学教授・井上寿一  2013.2.7 03:28 [正論]
 欧州が揺れている。 それは直接、間接に日本に影響を及ぼす。
 ≪困難に直面して揺れる欧州≫
 フランスがマリに軍事介入した。 アルジェリア人質事件が起きた。 ユーロ圏を牽引(けんいん)してきたドイツが低成長期に入った可能性がある、と1月16日付英紙フィナンシャル・タイムズは報じた。  24日には、世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)でドイツのメルケル首相が日本の円安誘導政策を暗に批判した。   前日、キャメロン英首相は欧州連合(EU)脱退の賛否を問う国民投票を2017年末までに実施すると表明している。
 欧州統合の行方は、アジア太平洋地域の統合の行方をも占うことになるかもしれない。 欧州は分裂の危機を抱えながら、困難な問題に直面している。
 このような欧州情勢を前にして、日本外交はどう展開すべきなのか。  ここでは、日欧関係の歴史を振り返りながら、長期的な視点から考えることにしたい。
 日欧外交関係の本格的な展開は、不平等条約が最終的に解決する1911年まで待たなくてはならなかった。  3年後には第一次世界大戦が始まる。  この戦争の戦勝国となった日本は、戦後に創設された国際連盟の原加盟国・常任理事国の地位を得る。
 国際連盟は欧州の国際機構だった。  それでも日本は重要な役割を果たすようになる。
 例えば、少数民族問題である。  東欧を中心に生まれた多数の独立国の国境線と民族分布の矛盾が深刻化した。   日本は中立的な立場から問題の解決に努めた。  日本の対応は国際的に評価された。
 ≪欧州主導の国際秩序を下支え≫
 あるいは常設国際司法裁判所である 。日本からは3人の判事が起用された。  そのうちの1人、安達峰一郎は同裁判所の所長にまでなっている。  日本は非西欧世界の国でありながら、欧州の国際協調の制度的な枠組みを支えた。
 日本の国際連盟脱退によって、日欧の外交関係は遠ざかる。  第二次大戦後もこの傾向は続く。  欧州は欧州、日本は日本で別々の道を歩む。  欧州では石炭鉄鋼共同体から始まって地域統合が進む。  対するアジア太平洋では米国との二国間関係が中心で、地域統合は進まなかった。
 戦後日本が欧州と再会したのは経済協力開発機構OECD)やサミットなどの国際経済の多国間の組織や会議でだった。  そこでは初期の頃からサミットのシェルパだった宮崎弘道(後に駐西独大使)のような「会議屋」外交官の活躍があった。  戦後の日本外交は対米協調一点張りではなく、対欧州先進国協調の側面を持つ立体的な展開を示すようになっていた。
 こうして日本外交は欧州に再接近する。そこで発見したことの一つが地域統合の模範としてのEUやその前身の欧州共同体(EC)だったはずである。
 ところが今、英誌エコノミスト12年12月8日号は予測する。  英国世論は脱退に傾いている。  国民投票となれば脱退賛成ということになる。
 ユーロ危機のさなかに英国が脱退すれば、EUは「無気力」に陥ることになるだろう。
 昨年の個人的な体験からもEUの分裂化傾向を実感した。  パリで講演した際のことである。  ある著名なフランス人大学教授が概略、次のように論評した。  彼が若い頃、フランスが2度も大戦争を戦いながら、戦後、ドイツと協力して欧州統合を進めることは欧州の希望であり、自明のことだった。 しかし、今のフランスの若い世代は違う。  若い世代はフランスの自国中心主義だ、と。
 ≪対中国でも重要性強まる≫
 欧州から学ぶことはなくなったのか。 日欧関係は3度、遠ざかっていくのか。 そうではないだろう。 日欧関係史は以下の3点を示唆する。
 第1は価値観外交のパートナーとしての欧州諸国である。  日本は非西欧世界の中でいち早く西欧化としての近代化に離陸しただけでなく、1920年代を通して「法の支配」などの価値観を共有し協調的な外交関係を築いた歴史を持つ。  中国の影響力の拡大を前にして、アジア太平洋地域で日本が価値観外交を展開するとき、欧州の重要性はより強まるだろう。
 第2は機能的地域主義である。 日欧は地理的には遠い。 しかし、国家の機能の点では近い。 日欧は普遍的な価値を共有する先進国である。国家の機能が近い国同士が協力するという意味での機能的な地域主義によって、日本は欧州諸国とともに、多極化あるいは無極化によって不安定になる世界を下支えすべきだろう。
 第3は「多様性の中での統一」の世界化である。  欧州統合の基本理念、「多様性の中での統一」は、世界のどの地域でも共有されるべき普遍性を持っている。 アジア太平洋地域においても同様である。  だとすれば、この地域で日本が果たすべき役割は大きい。
 日欧関係史は、日本が従来にも増して、安全保障や経済から文化に至る多様な分野で、欧州との先進国間協調外交を積極的に展開すべきであると語りかけている。(いのうえ としかず)