ロシア極東は早晩、中国にのみ込まれる!

・有事の場合、ロシアに対し直ちに軍事攻勢を加え得るのは、日本ではなく、中国だろう。
・ロシア人は次第に日本商品を優先するようになろう。
・ロシアが日本の省エネ技術を導入することができれば、ロシアは当分、資源大国としての地位を保ち得るかもしれない。
・ロシアが、NATO北大西洋条約機構)軍に次いで、中国軍を己に対する脅威の源と見なしていることは明らかである。
・アラブ−イスラエル和平の考え方の根底にあるのは「土地と平和」の交換である。  日本とロシアも先例に倣って「土地と発展」の交換を図るべきであろう。
・事態がこのままで推移するならば、ロシア極東は早晩、中国にのみ込まれ、事実上の勢力圏に入ること必定だろう。 




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ロシアこそ、日本が必要になる
北海道大学名誉教授・木村汎  2013.3.26 03:12 [正論]
 中国の指導者、習近平氏がモスクワを訪れた。  国家主席就任後初の外遊先としてロシアを選んだのである。  プーチン氏も大統領復帰後、旧ソ連諸国を除くと初訪問したのは北京だった。  両首脳が中露関係の親密性を内外に演出しようと欲していることが分かる。
 ≪中国は最善の連携国にならず≫
 首脳訪問にそのような機能を持たせる以上、文書を発表しない手はない。プーチン、習両氏が調印した共同声明は、中露両国が互いの「核心的利益」を支持しつつ、「戦略的パートナーシップ」関係を強化してゆくとうたった。
 オバマ米政権のアジア・太平洋地域への軸足移動に対抗するとともに、北方領土尖閣諸島を自国の固有の領土とする日本を、牽制(けんせい)しようとしているのである。
 中国やロシアの外交は、他国以上に言行が一致しないので、右のような公式声明にいちいち目くじらを立てる必要はあまりない。  そのことを承知しつつも、本稿では根本的な問いを検討したい。
 そもそも、中露は相互に提携し合うベスト・パートナーなのか。  もし夫々(それぞれ)の「核心的利益」を擁護したいと欲するのなら、他にはるかに適当なパートナーが存在するではないか。  にもかかわらず、その候補国に対する己の対応が不適切であるためパートナーを失う愚を犯しているのではないか。
 回りくどい言い方をやめて、単刀直入に結論を記そう。
 ロシアについていえば、少なくともアジア・太平洋地域でパートナーを組むべきは中国でなく日本である。  次の3つの理由でそうである。
 第1に、地政学的な観点からである。  中国と日本はともにロシアの隣国だが、中国はロシアに地続きで接しているのに対し、日本とは海によって隔てられている。  貿易、とりわけ物品の運送では中国との間の方が日本に勝るかもしれない。  が、ロシアは中国から環境汚染、その他の弊害をもろにこうむる。  有事の場合、ロシアに対し直ちに軍事攻勢を加え得るのは、日本ではなく、中国だろう。
 ≪日本の技術で資源大国維持≫
 第2に経済・通商の観点から、中国も日本もロシアとの間で相互補完関係を持っている。  中国も日本もロシアから資源や原材料を輸入し、ロシアに工業製品や消費物資を輸出しているからである。  ただし、ロシア向けの完成品の品質に関しては、中国産に比べ、「メード・イン・ジャパン」の方がはるかに高級であることはいうまでもない。
 ロシア人は次第に日本商品を優先するようになろう。
 科学技術分野では、日本のレベルは中国の水準を数段上回る。  例えば、日本の省エネ技術である。  単位GDP(国内総生産)当たりのエネルギー消費量において中国は日本の7・5倍、ロシアは16・7倍だ。
 ロシアが日本の省エネ技術を導入することができれば、ロシアは当分、資源大国としての地位を保ち得るかもしれない。
 第3に外交・安全保障の分野である。  日本は米国の忠実な同盟国で、米核戦力によって守られていることを善しとして自ら核武装しようとする野心を起こさない。  ロシアも、日本がペンタゴン(米国防総省)の核の傘の下、日米安保体制によって縛られていることに内心、満足している。 その状況が日本軍国主義化の危険より「小さな悪」に他ならないからだ。
 他方で、ロシアは中国を自国にとっての潜在的脅威と見なしている。 「ロシア連邦の軍事ドクトリン」は、ロシアにとっての「主要な軍事的脅威」が「ロシア連邦もしくはその同盟国と境界を接する領土における軍事力の誇示」だと記す。  直接名指ししてはいないものの、ロシアが、NATO北大西洋条約機構)軍に次いで、中国軍を己に対する脅威の源と見なしていることは明らかである。
 ≪「四島」と「発展」の交換を≫
 ロシアにとり、中国以上に好ましいパートナーは日本である。  クレムリン指導者たちがこのことを理解する場合、しかし、彼らがぜひなさなければならないことがある。  日露関係改善のネックである領土問題を解決し、平和条約を締結することだ。  それによって初めて、名実ともに戦争状態に終止符を打ち、両国関係の基本的な枠組みを設定することになる。
 領土紛争解決の要諦は、「ゼロサム・ゲーム」を、「ノン・ゼロサム・ゲーム」に転換することにある。  アラブ−イスラエル和平の考え方の根底にあるのは「土地と平和」の交換である。日本とロシアも先例に倣って「土地と発展」の交換を図るべきであろう。
 つまり、日本は、北方四島を得るのと引き換えに、ロシア極東の発展に協力する。 事態がこのままで推移するならば、ロシア極東は早晩、中国にのみ込まれ、事実上の勢力圏に入ること必定だろう。  もしそれを阻止し得るとすれば、ロシア極東の1250分の1でしかない北方四島の日本への返還などお釣りが来る取引になる。
 以上は、ロシア側が決断すべきことかもしれない。  ただ、日本人が認識すべきは、ロシアの方こそが今後、日本を必要とし、その逆ではないということである。(きむら ひろし)