・領土の保全や同胞の紛争地からの退避は、あなた任せにしてはならない。

・南西諸島は160の島々から成り、最大の沖縄本島でも1208平方キロと、北海道の約70分の1に過ぎない。
・南西諸島で事が起きれば、九州または本州から増援部隊を送ることになり、それは海を渡る約700キロの行程となる。
沖縄本島に主力を配置し、石垣島与那国島に小部隊を配置することになる。
与那国島は、面積約29平方キロと東京の区の1つほどの広さに約1600人が住む。 沖縄本島から509キロ、最寄りの石垣島からも124キロ離れていて、むしろ111キロの距離にある台湾の方に近い。
・危機管理面でいえば、外国船舶による領海侵犯、「抜け荷」「積み替え」といった密輸行為を阻止し取り締まる必要がある。
・安全保障面に広げれば、台湾海峡有事の際、台湾在留邦人約2万人の一部は花蓮港から与那国島を目指すかもしれない。
・領土の保全や同胞の紛争地からの退避は、あなた任せにしてはならない。






〜〜〜関連情報<参考>〜〜〜
警官2人、銃2丁で国境守れるか
帝京大学教授・志方俊之   2013.4.16 03:20 [正論]
 冷戦時代、「北からの脅威」に備えて「基盤的防衛力」を整備・運用してきたわが国は今、その防衛態勢を大きく転換するという新しい段階に入りつつある。
 ≪「西からの脅威」に態勢転換≫
 「西からの脅威」に備え「動的防衛力」を整備・運用すること、対N(核兵器)B(生物兵器)C(化学兵器)R(放射能兵器)能力を持ってテロとの戦いができる態勢や弾道ミサイル防衛能力と対サイバー戦能力を持つ態勢を整えること、国連平和維持活動(PKO)や国際緊急援助隊を派遣し国際的活動に加わることだ。
 本稿では、一連の態勢転換のうち最大となる「西からの脅威」への備えについて考察する。
 冷戦期の「北からの脅威」への備えは、限定的かつ小規模な侵攻から北海道を守り抜いて、短期占領の既成事実を作らせずに、わが国周辺の不安定要素を封じ、西側陣営の一員としての責任を果たすという防衛戦略であった。
 筆者は冷戦末期に陸上自衛隊北部方面総監として北海道防衛に専念していたが、防衛戦略の構図は比較的「単純」であった。
 北海道は総面積約8万3500平方キロと広く、陸自4個師団(1個は戦車師団)総兵力約3万が配備されていた。  戦端が開かれれば本州からかなりの増援部隊が津軽海峡を越えて馳せ参じ得る態勢だった。  道内には千歳基地青森県には三沢基地があり、空自による北海道上空の制空権確保はさほど難しいことではなかった。
 これだけの兵力が防衛する北海道を奪取するには、その約3倍の兵力(約10万)を投入する必要があり、部隊の集結、渡洋、上陸に周到な準備を要するため、ある日突然奇襲するのは難しい。
 「西からの脅威」に対する備えはまるで異なる。 南西諸島は160の島々から成り、最大の沖縄本島でも1208平方キロと、北海道の約70分の1に過ぎない。
 沖縄防衛に当たる陸自西部方面隊は、主力が九州に分散駐屯し、沖縄本島には第15旅団の兵力約2100が展開するのみだ。
 ≪与那国沖合に中国ミサイル≫
 南西諸島で事が起きれば、九州または本州から増援部隊を送ることになり、それは海を渡る約700キロの行程となる。 航空機や艦艇を使っても大規模な増援部隊を送り込むのは容易ではない。
 小兵力でも急襲できるから、自衛隊が精緻な警戒監視網を張っても増援が間に合わない可能性がある。 沖縄の米軍普天間飛行場に新型輸送機オスプレイを配備し、陸自が水陸両用戦能力を持つ必要性は、まさにこの点にある。
 多数の小島に小兵力を分散配置することは合理的ではない。  したがって、結局は沖縄本島に主力を配置し、石垣島与那国島に小部隊を配置することになる。
 与那国島は、面積約29平方キロと東京の区の1つほどの広さに約1600人が住む。 黒潮が造り上げた特色ある美しい海岸で知られ、離島医療をテーマにしたヒューマンテレビドラマ「Dr.コトー診療所」の舞台ともなった。
 沖縄本島から509キロ、最寄りの石垣島からも124キロ離れていて、むしろ111キロの距離にある台湾の方に近い。日本最西端の国境に位置する孤島である。
 にもかかわらず、2カ所の駐在所に勤務する警察官2人の、使われたことのない拳銃2丁が島を守る唯一の武器である。  危機管理、防衛、安全保障の各面からみて実に心許ない状況だ。  中国が、1996年総統選時の台湾に軍事圧力をかけるため、撃ち込んだ弾道ミサイルが与那国沖合に飛んできたことを忘れてはならない。
 ≪南西諸島の防衛空白埋めよ≫
 危機管理面でいえば、外国船舶による領海侵犯、「抜け荷」「積み替え」といった密輸行為を阻止し取り締まる必要がある。
 防衛面では、外国艦艇による接続水域通過、排他的経済水域EEZ)内での海洋調査活動、島の近くに設定された防空識別圏(ADIZ)への外国機の接近、外国艦艇の通信情報を監視し、ミサイル防衛(MD)に必要な情報収集と迎撃部隊の展開がある。
  安全保障面に広げれば、台湾海峡有事の際、台湾在留邦人約2万人の一部は花蓮港から与那国島を目指すかもしれない。  さらに、中国や台湾の住民多数が与那国島に避難してくる可能性も考えておく必要がある。   人口1600、警官2人、拳銃2丁の島に、難民数千人が押し寄せたらどんな状況になるか想像してみればよい。
 与那国島への陸自配備をめぐってはなお、現地との調整段階にあるようだ。 小駐屯地でも建設・配備・訓練を考えると、使い物になるまで3〜4年もかかる。
 与那国をはじめ南西諸島の防衛態勢を早急に構築して、領域わけても、尖閣諸島を中国の手から守る日本の国家意志を明確にし備えを固めなければならない。
 わが国が核抑止力を米国に頼ることは国際的に理解されよう。  だが、領土の保全や同胞の紛争地からの退避は、あなた任せにしてはならない。  南西諸島の防衛空白を埋めることは急務である。(しかた としゆき)