・エネルギー戦略は国家戦略そのものである。

・米国では、シェールガス採掘技術の進展に伴い安価な天然ガスの生産が拡大して、ガス消費の急増と石炭・石油の消費減が続き、非在来型石油(タイトオイル)の生産も拡大している。
・米国は2030年頃までに天然ガスや石油の輸出国となり、「エネルギー自給」を達成する。
・エネルギー戦略は国家戦略そのものである。
・世界市場に翻弄されず、わが国の経済力や主体性を維持するためには、外交的手段を尽くすとともに、供給力のリスク分散を図るべきだ!
・日本は人的能力や技術力で、資源がないハンディを克服するしかない。技術力向上や研究開発の実効性を高める施策が、エネルギー政策の一部として極めて重要だ!



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全選択肢持つエネルギー計画を
京都大学原子炉実験所教授・山名元  2013.4.24 03:19 [正論]
 総合資源エネルギー調査会で、新しい「エネルギー基本計画」の審議が始まった。  安倍晋三首相による「エネルギー政策の見直しの指示(日本経済再生本部)」を受けて始まったものであり、将来の電源構成目標を決める議論は重視せず、エネルギー政策上の重要課題について包括的に審議する計画である。  原子力利用を含むエネルギー安全保障などに関わる冷静な議論が求められてきた中で、この審議に大いに期待したい。
 ≪新しい基本計画の審議に期待≫
 主な論点として、
(1)最近の環境変化(原発停止、燃料輸入費増、電気代値上げなど)
(2)生産・調達段階の論点(原発安全、再生可能エネルギー拡大、シェールガスなど)
(3)流通段階の論点(電力システム改革など)
(4)消費段階の論点(デマンドレスポンス=需要応答、省エネなど)
(5)横断的な課題(人材、国際関係など)
−の5つが挙げられている。
その意味するところは、世界エネルギー市場の変化の兆候、国内エネルギー流通の脆弱(ぜいじゃく)性、エネルギー消費動向の変化、国民意識の変化などの新たな局面を見据えた対策が、生産・流通・消費の3分野にわたり求められるということである。
 論点の多くは国内問題だが、エネルギー安全保障が全ての前提であることから、エネルギー資源の安定確保が重要なテーマになる。  そのためには、わが国のエネルギー資源獲得を取り巻く状況を中長期的に展望する必要がある。 国際エネルギー機関(IEA)発行の「世界エネルギー展望2012」は、「世界のエネルギー情勢が新たな局面を迎えつつあること」と「米国のエネルギーフローの潮目が変わること」の2点を指摘している。
 特に、米国での天然ガスや石油の生産状況が急激に変わりつつあること(シェールガス革命)の影響が強調されている。
 ≪シェールガス革命の影響大≫
 米国では、シェールガス採掘技術の進展に伴い安価な天然ガスの生産が拡大して、ガス消費の急増と石炭・石油の消費減が続き、非在来型石油(タイトオイル)の生産も拡大している。  この傾向が続くと、米国は2030年頃までに天然ガスや石油の輸出国となり、「エネルギー自給」を達成するとみられている。  大規模なエネルギー輸入国であった米国が「エネルギー自給」へと突き進んでいる状況は、遠くない将来、世界のエネルギー市場の構図が少なからず変わる可能性を示唆している。
 これが日本への安価な燃料供給に繋がる可能性を期待したいところだが、長期的な影響はもっと複雑である。   元米エネルギー副長官のビル・マーチン氏は、世界の資源流通の構図の変化が、各国の経済的な依存関係、産業競争力のバランス、価格決定メカニズム、各国の資源戦略や環境戦略、軍事的なバランスなどにまで影響を与える可能性を指摘している。
 氏は、米国がエネルギー自給を達成すれば、中東から兵力を撤退させて世界のパワーバランスが変わる可能性すらあると言う。   将来も中東からの石油やガスの供給に依存せざるを得ないわが国は、構図の変化によっては、国家安全保障や外交や同盟関係を見直す必要性すら出てくるのである。  エネルギー戦略は国家戦略そのものであることを改めて認識する。
 シェールガスの拡大予測については懐疑的な見方もあり、わが国が、この不確定な世界エネルギー市場の中で、国際的なプレゼンスを、いかに維持してゆけるかが問われる。  世界市場に翻弄されず、わが国の経済力や主体性を維持するためには、外交的手段を尽くすとともに、供給力のリスク分散を図るべきである。
 ≪原子力発電の特長を生かせ≫
 それには、「可能なエネルギーオプションの全てを保有する」ことが基本である。 要するに、わが国は、石油・天然ガス・石炭・原子力・水力・再生可能エネルギーの全てを必要とするということである。  原子力発電の「海外依存度が極めて低く燃料費が安い」という特長を生かし、石炭火力・ガス火力・石油火力・水力と組み合わせた上で、再生可能エネルギーメタンハイドレートなど自国産エネルギー資源の開発を進めることが、当面の現実的な道筋ではないだろうか。
 身の丈を超えるようなCO2削減目標の設定を避けるとともに、再生可能エネルギー導入目標は段階的に設定するなどの着実なステップが望まれる。
 こうした生産・調達段階での取り組み(安定的な供給構成の実現)とともに、流通段階や消費段階での強化(送配電の強化や省エネ)が、整合性をもって進むことが重要である。
 生産・流通・消費の3分野での取り組みが時間軸にそって足並みをそろえないと、大きな国民負担や供給上の問題を生む。  今後の取り組みで、現場レベルの技術力や事業の確実性が重要であることを改めて指摘したい。
 わが国は人的能力や技術力で、資源がないハンディを克服するしかない。技術力向上や研究開発の実効性を高める施策が、エネルギー政策の一部として極めて重要になることも力説したい。(やまな はじむ)