・学会ボスと製薬会社の癒着の構造から脱するため、「日本版FDA」の早期創設が急務だ!

・認可されないと、それまで注ぎ込んだ莫大(ばくだい)な研究開発費がふいになるから、どの製薬会社も認可取得に躍起になる。
ノバルティスファーマ社は、研究に関与した5大学の主任研究者の研究室に提供した奨学寄付金が総額11億3290万円とされた。
・多額のお金が動くとされているのが、薬の認可にかかわる臨床試験(いわゆる治験)だ!
・特定の人間が治験責任医師に選ばれることが多く、また、実施医療機関も特定の病院に偏りやすいことが以前から問題視されていた。
・ 学会ボスに嫌われて、治験が回ってこないと、研究機関としての医局が維持できないという構図ができあがっている。
・治験を行う学会ボスたちが、製薬会社をスポンサーとする座談会の出席者や記事の執筆者という形で医師向けの雑誌に頻繁に登場し、その薬を賛美するコメントを出すことが多い。 学会ボスと製薬会社の癒着の構造だ!
・学会ボスと製薬会社の癒着の構造から脱するため、「日本版FDA」の早期創設が急務だ!




〜〜〜関連情報<参考>〜〜〜
■「日本版FDA」の創設は急務だ
精神科医国際医療福祉大学教授・和田秀樹 2013.8.26 03:05 [正論]
 日本で最も人気があり、年商1000億円を超す降圧剤にまつわる研究論文に、改竄(かいざん)の疑いが強く持たれている。
≪もっとカネが動く臨床試験
 この薬(ディオバンの商品名で知られる)を用いると血圧が下がるだけでなく、脳卒中心筋梗塞のリスクも低下するという京都府立医科大学の教授(当時)による大規模な調査研究について、データに操作が加えられていると指摘され、現実に論文も撤回されている。 東京慈恵会医科大学でも同様の疑いが生じていて、製造販売元のノバルティスファーマの社員(同)が両論文に関与していることも明らかになった。
 ノバルティスファーマ社は、研究に関与した5大学の主任研究者の研究室に提供した奨学寄付金が総額11億3290万円に上ることも明らかにした。
 一流大学の研究室が、お金をもらえばデータ改竄も平気で行う印象を与えた点で、医師の出す薬への信用を大きく損ねた事件と言えるが、私にはこの事件が特異なものとは思えない。
 今回のケースは、認可された薬に他の効能があるかどうかという研究をめぐる不透明な金銭の授受の問題だが、それ以上に多額のお金が動くとされているのが、薬の認可にかかわる臨床試験(いわゆる治験)である。
 認可されないと、それまで注ぎ込んだ莫大(ばくだい)な研究開発費がふいになるから、どの製薬会社も認可取得に躍起になる。
 日本の場合、治験の依頼をしようとする者(一般には製薬会社)が「実施医療機関及び治験責任医師の選定」をするとされている。厚生労働省の「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」にも、そう明記されている。
 抗生物質であれ今回のような降圧剤であれ、特定の人間が治験責任医師に選ばれることが多く、また、実施医療機関も特定の病院に偏りやすいことが以前から問題視されていた。 この特定の人物というのがいわゆる学会ボス(各学会複数のことが多い)である。 治験の実施医療機関も、彼らの意向で選定されることが少なくない。
≪学会ボスの力の強さに唖然≫
 日本では、文部科学省も、厚労省も、大学の医学部に十分な研究費を渡しているわけでないから、各大学の医局は、研究を継続するため、治験などの形で製薬会社からもたらされる委任研究費や奨学寄付金などを当てにする体質に陥りやすいのである。
 学会ボスに嫌われて、治験が回ってこないと、研究機関としての医局が維持できないという構図ができあがっている。 結果的に、多くの大学医局は学会ボスの意向に逆らえなくなる。
 私も、尊敬する医学ジャーナリストが企画する学会大会のシンポジストに選ばれながら、学会ボスに嫌われていたため、討論者としての内定を取り消された個人的経験がある。
 大会の主催者は主催大学の学長だった。 学長決定を覆せるほどの学会ボスの力に唖然(あぜん)とした記憶がある。
 もっと問題なのは、治験を行う学会ボスたちが、製薬会社をスポンサーとする座談会の出席者や記事の執筆者という形で医師向けの雑誌に頻繁に登場し、その薬を賛美するコメントを出すことが多いという点だ。
 今回の疑惑の研究の教授たちも、同様の座談会に何度も出席していた。
 謝礼も発生する。こういう学会ボスに治験の責任医師を頼み、認可が下りるような都合のいいデータを出してもらっているのでは、という疑惑を持たれても仕方がない癒着の構造だ。
 今回の疑惑に関する日本高血圧学会のコメントをみても、学会が中立的な研究団体でなく製薬会社の味方といった印象を与えたとしても無理はない。8月6日付産経新聞で家庭医の名医、名郷直樹氏が指摘する通りだ。
≪製薬会社でなくFDA主導≫
 製薬会社からの研究費の私的流用があるのか、この手の座談会や講演会の謝礼が元来、高額なのかは分からないが、学会ボスに、大学医学部教授の給料では考えられないような生活をしている人がいるのは否めない。
 米国では、FDA(食品医薬品局)という独立機関が、医薬品の認可を一手に取り仕切っている。
 そして、製薬会社側が治験の責任医師や治験の実施機関を選定するのでなく、FDA側が選定することになっている。
 治験にはお金が絡みやすく、疑惑も持たれがちだ。製薬会社が責任医師や治験先を決める慣習を改め、治験をはじめ認可業務に当たるFDAのような独立機関を作るべきではないか。
 治験の費用が製薬会社でなく、公的な独立機関の負担になることを心配する向きもあるかもしれない。 FDAの場合、承認審査をする先の製薬会社が「ユーザーズフィー」を払う。  これなら日本でもすぐ可能である。
 製薬会社から一定以上の講演料や座談会出席料をもらう学会ボスを排した「日本版FDA」の早期創設を求めたい。(わだ ひでき)