・日米韓の隊列を乱し地域全体の利益を損ねかねないことに、韓国が無自覚であってよいはずはない。

・ゼーリック国務副長官は、中国に「責任あるステークホルダー(利益共有者)」たれと呼びかけた。
・スタインバーグ国務副長官の「戦略的再保証」に引き継がれた。
オバマ政権発足当初、ワシントンの一角で中国との「共同統治」を指す「G2」という標語が掲げられたが?
・中国の近年の軍事拡張はあるも、アジア太平洋地域全体で米軍に比肩するには程遠い。
・剥き出しの力で現状を変えようとする「現状打破勢力」だとの対中認識が一般化したから、「G2」は安全保障に関する限り、もはや死語だ!
・いまだに「G2」論が現実味をもって語られる国が韓国だ!
・日米韓の隊列を乱し地域全体の利益を損ねかねないことに、韓国が無自覚であってよいはずはない。





〜〜〜関連情報<参考>〜〜〜
朴氏の韓国が乱す「対中」の隊列
防衛大学校教授・倉田秀也   2013.9.24 03:05 [正論]
 振り返ってみれば、ブッシュ前政権の後期から、米国は「台頭」する中国に対し、さまざまな標語を通じ関与を試みていた。
 当時のゼーリック国務副長官は、中国に「責任あるステークホルダー(利益共有者)」たれと呼びかけ、それはオバマ政権1期目のスタインバーグ国務副長官の「戦略的再保証」に引き継がれた。
 米国はこれらの標語の下、「大国」として認め合う一方、自ら主導する国際秩序に中国を組み込もうとした。
 同政権発足当初、ワシントンの一角で中国との「共同統治」を指す「G2」という標語が掲げられ、北京の自尊心を擽(くすぐ)った。
≪説得力失った「G2」論≫
 その「G2」は安全保障に関する限り、もはや死語に近い。
 中国の近年の軍事拡張は瞠目(どうもく)すべきだとしても、アジア太平洋地域全体で米軍に比肩するには程遠い。
 「G2」が説得力を失ったのは何より、中国の「台頭」が「平和的」とは考えにくく、剥(む)き出しの力で現状を変えようとする「現状打破勢力」だとの対中認識が一般化したからだ。
 われわれはそれを尖閣で目の当たりにしているが、南シナ海でも同様だ。米国は東南アジア諸国連合ASEAN)諸国とともに、中国の行動を掣肘(せいちゅう)する必要に直面し、中国とASEAN諸国の間で南シナ海での「行動規範」を採択するよう求めた。
 こうした中、クリントン国務長官は2011年1月、「米中G2というのは存在しない」と発言し、米国は「リバランス(均衡回復)」などの言辞で、「アジア回帰」の姿勢を示すに至った。
 これは、対中関与を否定するものではないにせよ、中国の台頭が「平和的」でなかったときのためにヘッジに傾斜することを示したものであった。  ゼーリック氏の言葉を借りれば、中国は、米国との関係で「ステークホルダー」になろうにも、それが「責任ある」行動を伴うとは考えにくかった。
 にもかかわらず、いまだに「G2」論が現実味をもって語られる国がある。韓国である。 北朝鮮との同盟関係を維持し、北を背後から支える中国は、韓国にとっては軍事境界線の現状を維持し、最低限の「平和」を享受するうえで不可欠な勢力とみなされている。
≪中国を現状維持勢力と見なす≫
 中国は北朝鮮の対南武力行使を抑止する点でも、軍事境界線の現状維持を望む米国と利害を共有する。 さらにいえば、北の核開発をめぐる6カ国協議も、今は「開店休業」状態にあるとはいえ、朝鮮半島「非核化」の利害を共有した米中「協調」の産物だった。
 冷戦終結後の一時期には、韓国主導の秩序形成が言われたりしたものの、6カ国協議にみられる通り、韓国が発言力を得るには米中「協調」に便乗するほかない。米中が半島での現状と最低限の「平和」の必要性を共有する、「局地的G2」なるものがバーチャル(実質的)に形成されている。
 これは誤った認識ではない。6月の米中首脳会談をみても、米中が共同で対処し得る問題群の筆頭に北朝鮮問題が言及された。
 韓国にとって、米中両国が結託して韓国の発言力を封殺することなどあってはならない。
 現実的な懸念は、しかし、他の地域での米中対立が朝鮮半島にも波及してバーチャルな「局地的G2」の構図を揺るがすことであろう。
 クリントン氏が「米中G2」を否定したにもかかわらず、その半年後、韓国の朴槿恵氏は「米国と中国との調和のとれた協調関係を維持する」と述べた。
 韓国にとって望ましい米中の距離感を示すとともに、バーチャルな「局地的G2」を維持すべく対中関係改善を図るとの意志表明だった。

≪日米韓の共同歩調に応ぜず≫
 いうまでもなく、関与はそれ自体を目的とするものではない。目的は関与を通じて相手側の行動に変化をもたらすことにある。  時に相手側の望まない行動を要求することもあろう。  だからこそ、関与には力の裏づけが必要であり、その限りで関与とは、優位に立つ側の論理である。
 弱者の立場で関与することは逆に、相手側に関与され、行動の変化を強要されることにもなりかねない。
 だとすれば、米国が現在、軍事的な優位を誇っているからこそ、対中関与は有効だと考えなければならない。 そして、ASEANの例を引くまでもなく、北東アジアでも対中関与は、米国の力の優位を背景に、日米韓3カ国が集団的に行わなければならない。  ヘッジについても同じことがいえる。
 韓国がそれに応じようとはしないのは、中国を「現状維持勢力」だとする認識に、韓国が立っていることに加え、朝鮮半島では、バーチャルな「局地的G2」が形成されているからにほかならない。
 しかも、その構図の中で、韓国が中国に求めているのは、北朝鮮の行動の変化であって中国自身の行動の変化ではない。
 韓国にとって追求すべき「局地的」利害があり、対中関係の維持は必要であろう。
 しかし、それが日米韓の隊列を乱し地域全体の利益を損ねかねないことに、韓国が無自覚であってよいはずはない。(くらた ひでや)