・日露間では「領土−(極東)開発」取引を成立させようではないか!

・モスクワは、米国発の「シェールガス革命」の影響が近く、アジアに到来し、ロシア産資源の販売先が少なくなることを憂慮する。
・中露間でガス価格交渉は今回も暗礁に乗り上げて、合意に至らなかった。
シェールガス革命によって、在来型の天然ガスの需要は低下し、今後、事態は中国に有利に展開する−。 中国側はこう踏んで、ロシアを揺さぶった。
・西シベリアの資源はそろそろ底をつく。  東シベリアの資源を掘り出しても、果たして商業的にペイするのか?
・日本は友好国の米国やカナダから安価なシェールガス提供を受けることにすでに合意済みだ!
・日本は科学技術大国である。
・日露間では「領土−(極東)開発」取引を成立させようではないか!




〜〜〜関連情報<参考>〜〜〜
露首相訪中が語る日本の有利性
北海道大学名誉教授・木村汎  2013.11.4 03:21 [正論]
 ロシアのメドベージェフ首相が10月22日から23日にかけて中国を訪問して、21件にも上る文書に調印した。このため、すわ、日米に対抗する中露の結束強化か、と騒がれた。そうした狙いが存在したことは間違いなかっただろう。  しかし、その実体は、そんな意図の実現にはほど遠いものだった。
≪3年前の訪問とは様変わり≫
 3年前の2010年秋に行われたメドベージェフ氏の訪中に比べて、今回は多くの点で様変わりしていた。 まず、氏の地位は大統領から格下の首相になっていた。
 さらに重要な変化はロシア側における対日姿勢だった。3年前にメドベージェフ氏が大統領として調印した中露共同声明は、「第二次世界大戦の結果を見直すことは許さない」と明言していた。 これは、ロシアと中国が領土紛争で日本に対して共闘するという姿勢の表明以外の何物でもなかった。
 ところが、プーチン氏が大統領に復帰した12年以降のロシアは、尖閣諸島をめぐる紛争では日中いずれの立場にも与(くみ)しないとの立場を採る。
 実際、今回北京でメドベージェフ氏は反日的と受け取られる言辞を一切口にしなかった。
 首相職に甘んじたメドベージェフ氏は、専ら「経済」を担当し、「政治・外交」にはかかわらないという説明も可能かもしれない。
 だが、よく見ると、「経済」分野ですら、同氏の影響力はプーチン氏に侵食されて減少している。   そのことは、今回の首相訪中に同行したロスネフチ、ノバテック、ガスプロム3社の中国との契約状況からも窺(うかが)い知ることができる。
 ロスネフチは、プーチン氏の懐刀のセーチン氏が社長を務める国営石油企業で、今回、中国との間で大きな契約を成立させた。
 ノバテックは、プーチン氏の柔道仲間のティムチェンコ氏率いるロシア第2の民間ガス会社で、今回、同様に成約を得た。
 他方、メドベージェフ氏が長年にわたり会長職を兼務してきた、ロシア最大手の国営ガス企業、ガスプロムのみは、手ぶらで北京を後にしている。
≪中国はロシア資源買い叩く≫
 中露両国とも、今年3月の習近平・中国国家主席の訪露以来、エネルギー資源分野での協力深化ぶりを喧伝(けんでん)してやまない。
 しかし、その実相は以下の通りである。
 モスクワは、米国発の「シェールガス革命」の影響が近く、アジアに到来し、ロシア産資源の販売先が少なくなることを憂慮する。
 そうなる前に、自国産の資源を中国、韓国、日本に売却する長期契約を結ぶ必要があると、焦る。
 北京は、このようなモスクワの危惧を十分見透かしていて、ロシアの資源を買い叩きにかかる。
 例えば、ロシア産の天然ガスを国際価格よりもはるかに安値で購入しようと試みる。
 そのため、中露間でガス価格交渉は今回も暗礁に乗り上げて、合意に至らなかった。シェールガス革命によって、在来型の天然ガスの需要は低下し、今後、事態はわが方に有利に展開する−。中国側はこう踏んで、ロシアを揺さぶっているのである。
 ここ数年来、中露間の資源売買は「資源−融資」取引の形を取って行われている。 つまり中国側はロシア側に多額の融資(ローン)を提供し、その見返りにロシア側から資源を受け取るというやり方である。
 両国間の資源貿易は、この方式で一見、順調に進行中であるかのように見える。  だが、現実には価格面での対立の他にも、次のような難題に直面している。
≪「領土−極東開発」取引を≫
 まず、そもそもロシア国内に中国向けの資源が存在するのか、という点である。
 西シベリアの資源はそろそろ底をつき、東シベリアの資源開発が喫緊の課題になっている。
 仮に、東シベリアに十分な資源が埋蔵されている場合であっても、それは西シベリア産に比べて、気候その他の条件から採掘が極めて困難である。
 それらの資源を掘り出しても、果たして商業的にペイするのか。
 加えて、輸送手段の問題もある。原油の場合はパイプラインの敷設、天然ガスの場合はLNG(液化天然ガス)に転換して運ばなければならない。
 以上、検討してきた中露間のエネルギー資源取引の実態が、わが国に与える教訓は少なくない。

 第一に自覚すべきは、日本が中国に比べて、ロシアに対し有利な立場に立っていることだ。 日本は友好国の米国やカナダから安価なシェールガス提供を受けることにすでに合意済みだからである。
 第二に、日本はロシアが望み得る最良の顧客であるという点だ。
 例えば、中国よりも高い国際価格でロシア資源を購入するからである。 第三に、日本が科学技術大国であることだ。ロシアが自力だけではまかないきれない大口径のパイプラインを提供し、LNG施設の建設に協力し、省エネ技術を伝授し得る能力の持ち主である。
 このような日本の数々の有利性を考慮に入れるならば、日本はロシアに向かって、次のように主張してもおかしくはないだろう。
 中露間で「資源−融資」取引を成立させるのであれば、日露間では「領土−(極東)開発」取引を成立させようではないか、と。(きむら ひろし)