・解決には成長戦略の王道を貫く必要があり、特に法人税大幅減税のような大改革が求められる。

・過去の実証分析でも、貿易赤字で成長率が低下するとか金利が上昇するといった傾向は認められていない。
・過去3年間の貿易収支悪化の約3分の1はエネルギー価格上昇と円安が理由だ。エネルギーの輸入増ではなく、価格要因(円安と国際価格の上昇)である。
・製造業が過去数年で生産拠点をアジアに移した結果だ。日本は景気回復で消費が拡大したが、国内製造能力の海外移転で輸出は増えず、逆に輸入が拡大する…。   構造的変化が起きている。
・企業を海外に追いやった要因(デフレ、円高、強い規制、高い法人税など)が解消され、それが後戻りしないとの確信が持てる状況にしなければならない。
・「非連続型」で「ショック療法的」な改革を進め、成長戦略への姿勢は揺るぎないと内外に示す必要がある。
・日本の実効税率36%は英国24%、シンガポール17%などに比して相当高い。
・リーマン後の歳出拡大分の3分の1を元に戻すだけで、法人税率をほぼ半減させる財源を捻出できる。
・法人減税で法人税収は減っても、税収全体が拡大するメカニズムは十分に機能する。
・税徴収の徹底。徴収徹底で数兆円規模の税収増が可能との試算もある。
・解決には成長戦略の王道を貫く必要があり、特に法人税大幅減税のような大改革が求められる。









〜〜〜関連情報<参考>〜〜〜
貿易赤字論議めぐる2つの誤り 
慶応大学教授・竹中平蔵  2014.4.22 03:17 [正論]
 日本経済に新しい変化が生じている。 円安にもかかわらず輸出が伸びず貿易赤字が拡大している。 原発停止に伴う化石燃料の輸入増大が主要因(だから原発の再稼働を)との論調も強まっている。 尤(もっと)もらしい議論には2つの誤りと1つの重要な示唆が含まれる。
 2つの誤りから見る。 長年、貿易黒字国だった日本は2013年度の貿易赤字が13・7兆円と過去最大になった。  暦年ベースでは名目GDP(国内総生産)比2・4%の赤字である。  東日本大震災(11年)前はGDP比約2%の黒字だから急激で大幅な変化だ。
≪主因は製造業のアジア移転≫
 だが、貿易赤字自体を罪悪視する、「貿易赤字で大変だ」といった議論は根本的に誤っている。 赤字が悪くて黒字が好ましい…まさに重商主義の発想に他ならない。 
 アダム・スミスの名著『国富論』は相当部分を重商主義の誤りを正すために割いている。 過去の実証分析でも、貿易赤字で成長率が低下するとか金利が上昇するといった傾向は認められていない。
 第2の誤りは、貿易赤字原発停止−燃料輸入増によるとの見解だ。JPモルガン・チェース銀行の佐々木融氏が提示する分析によると、過去3年間の貿易収支悪化の約3分の1はエネルギー価格上昇と円安が理由だ。エネルギーの輸入増ではなく、価格要因(円安と国際価格の上昇)である。
 残りの大半は対アジア貿易収支の悪化、アジアからの輸入増(機械など)で説明可能という。
 明らかに製造業が過去数年で生産拠点をアジアに移した結果だ。日本は景気回復で消費が拡大したが、国内製造能力の海外移転で輸出は増えず、逆に輸入が拡大する…。構造的変化が起きているのだ。
≪企業立地環境を改善せよ≫
 そこには重要な示唆がある。貿易収支悪化の背景に、日本での企業立地環境の悪化という問題がある点だ。  求められるのは、海外に移転した企業を国内に引き戻す政策、新しい産業を創る政策、海外企業誘致を促進する政策だ。
 経済には「ヒステレシス」(履歴)効果が働く。 一度海外に出た国内企業を呼び戻すのは容易ではない。   企業を海外に追いやった要因(デフレ、円高、強い規制、高い法人税など)が解消され、それが後戻りしないとの確信が持てる状況にしなければならない。
 新産業を生む起業の促進には、コーポレートガバナンス企業統治)改革など新陳代謝を高める政策、海外からの投資喚起には規制全般の緩和、労働市場改革が不可欠だ。  全て成長戦略としてアベノミクスの俎上(そじょう)に載っている。
 では、成長戦略は進んでいるのか。 一部メディアは進んでいないと批判するが、事実を直視していない。 規制改革会議が十分機能していないのは残念だが、産業競争力会議の分科会や特区諮問会議のワーキング・グループは従来になく厳しい政策論議を進め、随所で政治指導力も示されている。
 課題があるとすれば、「国家戦略特区」を除き、どれも既存政策の改良型、地味な政策の集合である点だ。
 それを超え「非連続型」で「ショック療法的」な改革を進め、成長戦略への姿勢は揺るぎないと内外に示す必要がある。
 実は、アベノミクスは日銀への物価目標の導入という非連続型改革で始まった。 これが奏功し、昨年は世界で注目される57%の株価上昇が実現された。 非連続改革といえば、小泉純一郎内閣の不良債権処理、郵政民営化道路公団民営化が想起される。 が、小泉内閣でも大玉の改革は1〜2年に1つだった。  その意味で発足1年半を迎える安倍内閣は大玉の改革の第2弾に取り組むべきときだ。
≪成長戦略の王道を貫こう≫
 方向性は安倍首相のダボス演説に示されている。 成長強化策の象徴として重視される大改革に法人税率の大幅引き下げがある。  日本の実効税率36%は英国24%、シンガポール17%などに比して相当高い。
 法人税減税を言うと財政再建との兼ね合いが問題になるが、3財源を組み合わせればいい。
 1つは歳出削減だ。民主党政権で「大きな政府」になり、14年度はリーマン・ショック前より13兆円も歳出が増えた。 この間の名目GDPは縮小したのに政府の規模は15%拡大したことになる。 リーマン後の歳出拡大分の3分の1を元に戻すだけで、法人税率をほぼ半減させる財源を捻出できる。
 次に将来の税収だ。嘉悦大学の真鍋雅史准教授の計量分析では、1円の法人減税を行えば設備投資は6円増え、税収は1・8兆円増えるという。 この試算は景気拡大下の拡大均衡のシナリオとして参考になる。
 法人減税で法人税収は減っても、税収全体が拡大するメカニズムは十分に機能する。
 3つ目は税徴収の徹底。もともと税の公平の観点からやるべきものだ。 徴収徹底で数兆円規模の税収増が可能との試算もある。
 問題は貿易赤字ではなく企業立地条件の悪化という構造にある。解決には成長戦略の王道を貫く必要があり、特に法人税大幅減税のような「非連続型」「ショック療法的」大改革が求められる。(たけなか へいぞう)