日本の海域を守るために、海上保安庁法第25条を

・警戒すべきは大量の漁民の上陸だ! 尖閣を脅かしている中国は、南シナ海では漁民を尖兵(せんぺい)として送り込み、支配海域を拡大する戦略をとってきた。
・フィリピンが管轄権を唱えているミスチーフ礁スカボロー礁に対し、中国の漁民を保護するとの名目で進出し、支配海域に組み入れてきた。
・自国民の保護を口実に進出し、武力を背景に実効支配態勢を確立する。そして、あたかも歴史的に中国が支配してきたかのように喧伝(けんでん)して、既成事実を作り上げる。中国の常套(じょうとう)手段だ!
・1992年に制定した領海法によって、東シナ海南シナ海のほぼ全域の島々を自国の領土と勝手に決定した中国は、この勝手な国内法を盾に警察権を打ち立てて支配海域の拡大を目論(もくろ)んでいる。
・警察権の執行機関を軍並みに充実させてきたのだ! 海警は軍以上だ!
国連海洋法条約では、軍艦や非商業目的で運航する他の政府船舶である「公船」は、沿岸国の法執行権が及ばないとされている。
・「グレーゾーン事態」に効果的に対処するには、海保が行動しやすい法整備が必須だ!
海上保安庁法第25条が現行のままでは、日本の海域を守るためには欠くべからざる、海保と海上自衛隊の本質的な連携ができないのだ。
・海保が海賊対処行動や国連平和維持活動(PKO)を行うに当たり、業務を遂行し海上保安官が自らの安全を守るためにも、25条の改正は避けて通れない。









〜〜〜関連情報<参考>〜〜〜
海保法改正で「偽装漁民」撃退を 
東海大学教授・山田吉彦   2014.6.24 03:10 [正論]
 中国海警局の警備船による尖閣諸島周辺のわが国領海内への侵入が半ば常態化している。 海上保安庁は巡視船の数を増やし対処しているが、領土が脅かされる状況は一段と深刻化している。
 政府は集団的自衛権の行使容認と併せ、武力攻撃に至らない「グレーゾーン事態」への対応についても議論を進めている。
尖閣への大量上陸警戒せよ≫
 政府が公表した安保法制の閣議決定案では、離島防衛で警察力が直ちに対応できない場合、手続きを経ているうちに被害が拡大しないように、早期に命令を下し手続きを迅速化する方策を具体的に検討することとしている。
 これは、漁民に偽装した中国の特殊部隊や「海上民兵」が、離島に不法上陸した場合を想定したものである。  それらが重武装していて、海上保安庁の装備と能力を超えている場合に備え、自衛隊の迅速な出動を可能にする態勢を整備しておこうというのだ。
 だが、離島に他国の重武装集団が上陸するという想定は現実的ではない。 重装備だと、乗り込む船舶は速度も遅くなり、事前にレーダーなどで捕捉でき、海上警備行動を発令してから自衛隊が対応することも可能だからだ。
 むしろ警戒すべきは大量の漁民の上陸である。尖閣を脅かしている中国は、南シナ海では漁民を尖兵(せんぺい)として送り込み、支配海域を拡大する戦略をとってきた。
 フィリピンが管轄権を唱えているミスチーフ礁スカボロー礁に対し、中国の漁民を保護するとの名目で進出し、支配海域に組み入れてきたのが、その好例である。
 この5月には、ベトナムが自国の排他的経済水域EEZ)と主張しているパラセル(中国名・西沙)諸島の海域に、巨大な施設を持ち込んで、一方的に海底油田の掘削を始めた。
 中国による実効支配がこれ以上進むことを案じたベトナムは艦船を派遣し、中国側に掘削作業の停止と退去を求めた。
 中国はしかし、掘削施設と作業員の保護を名分に、中国海警局の警備船と軍艦を派遣し、ベトナムに圧力をかけ、以来、中越双方の衝突と対峙(たいじ)が続いている。

≪中国は海警で警察権を拡充≫
 自国民の保護を口実に進出し、武力を背景に実効支配態勢を確立する。そして、あたかも歴史的に中国が支配してきたかのように喧伝(けんでん)して、既成事実を作り上げる。中国の常套(じょうとう)手段である。
 数百隻の漁船が日本の領海内に押し寄せて、離島への上陸を試みた場合、洋上でそれを完全に阻止することは不可能だ。漁民たちは中国当局の指示の下に上陸した後は、得意の「人海戦術」で島を占拠するだろう。小火器や刀剣を用いてのゲリラ戦で抵抗することも想定される。こうした場合に、現行の海上保安庁法で対処できるかどうか甚だ疑問である。
 海洋進出に際して、海洋警備機関である中国海警局を前面に押し出しているのも巧妙だ。
 1992年に制定した領海法によって、東シナ海南シナ海のほぼ全域の島々を自国の領土と勝手に決定した中国は、この国内法を盾に警察権を打ち立てて支配海域の拡大を目論(もくろ)んでいる。
 軍事的に行動しているという国際的な非難をかわすため、法制度の整備を行い、警察権の執行機関を軍並みに充実させてきた。中国海軍が出てこない以上、自衛隊が対処することは難しい。
 国連海洋法条約では、軍艦や非商業目的で運航する他の政府船舶である「公船」は、沿岸国の法執行権が及ばないとされている。前述の中越紛争では、中国の警備船がベトナムの警備船に体当たりするという、実力行使による法の執行に出た。これは、海上警察機関同士が直接ぶつかり合う「戦争」の新たな形態といえる。

≪25条変え行動できる態勢に≫
 海上保安庁法には、「海上保安庁又はその職員が軍隊として組織され、訓練され、又は軍隊の機能を営むことを認めるものとこれを解釈してはならない」(第25条)との規定がある。
 だが、中国の海洋進出攻勢をはじめとする今の東アジアの安全保障環境は、海保の能力も相応の水準に引き上げざるを得ないようなありさまだ。「グレーゾーン事態」に効果的に対処するには、海保が行動しやすい法整備が必須なのである。
 防衛出動などが発令された場合、海上保安庁防衛大臣の指揮下に入ることになる。 ただし、海保は後方支援をすることしかできない。 海上保安庁法第25条が現行のままでは、日本の海域を守るためには欠くべからざる、海保と海上自衛隊の本質的な連携ができないのだ。

 今後、海保が海賊対処行動や国連平和維持活動(PKO)を行うに当たり、業務を遂行し海上保安官が自らの安全を守るためにも、25条の改正は避けて通れないと考える。
 日本が自国防衛、国際貢献の両面で責務を果たしていくためには、海保も必要な能力を持たなければならない。米沿岸警備隊などがその参考になろう。
 海上の安全を守る態勢は大きな変革の時を迎えている。(やまだ よしひこ)