・米国が膨大な自国市場を中国製品に開放したおかげで、中国の経済が華々しく躍進している時期に、ニクソンが指摘した古い憎しみが、かつてないほどに燃えさかっている。

・中国に対する米国の野心は、法の支配と個人の権利を少なくとも尊重し、国際的な規範と基準を順守する国にすることだ。中国が開放的になればなるほど、中国は協力的なパートナーになるはずだった。
・1967年、リチャード・ニクソンは「フォーリン・アフェアーズ」にて「中国が変わらない限り、世界は安全になれない」と述べた
民主化運動を弾圧した1989年の天安門事件から、25年が経過したが、事件を受けて米中関係は底が見えないような悪化を見た。
・米国が膨大な自国市場を中国製品に開放したおかげで、中国の経済が華々しく躍進している時期に、ニクソンが指摘した古い憎しみが、かつてないほどに燃えさかっている。
・中国の指導者たちの目には、米国が中国が台頭し続けるのを阻止しようと躍起になっていると映るのだ。
・戦略・経済対話に参加したケリー国務長官は、北京の聴衆を前に、武力紛争が「不可避なものではない」と述べ、「選択の問題だ」と付け加えた。
・しかし、エンゲージメントへの熱意が冷めるなかで、建設的な関係のための選択肢は次第に狭くなっているのだ。






〜〜〜関連情報<参考>〜〜〜
壁にぶつかった米国の対中政策    
古澤襄   2014.07.17
■米ウォール・ストリート・ジャーナル 

  米国の対中外交をこれまで40年以上にわたって導いてきた信念は、対決ではなくエンゲージメント(関与)が中国の共産主義体制を最終的には変化させるだろうというものだった。
 米国らしい宣教師的な熱意を反映している考え方だ、と多くの人々は言う。
  中国に対する米国の野心は、1人ひとりが平等に投票できる完全な民主体制とまではいわなくても、法の支配と個人の権利を少なくとも尊重し、国際的な規範と基準を順守する国にすることだ。
  この考え方によれば、中国が開放的になればなるほど、中国は協力的なパートナーになるはずだった。
  今から半世紀近く前の1967年、リチャード・ニクソン氏(翌年、大統領に当選)は米外交専門誌「フォーリン・アフェアーズ」に論文を寄せ、「中国が変わらない限り、世界は安全になれない」と述べた。67年と言えば、中国が国内で「階級闘争」を激化させ、海外での革命を扇動していた時期だ。
  ニクソン氏は「長期的な見地から、われわれは中国を万国ファミリーからずっと排除したまま放置し、幻想や憎しみを抱かせ、近隣諸国に脅威をもたらすままにしておく余裕はない」と書いた。 そしてその5年後、ニクソン氏は歴史的な北京訪問を実現して米国大統領として毛沢東と会見し、中華人民共和国との関係を樹立した。
  中国を国際社会に開かせるという米国のプロジェクトはそれ以降、ローラーコースターのように曲折をたどった。 民主化運動を弾圧した1989年の天安門事件から、先月で25年が経過したばかりだが、事件を受けて米中関係は底が見えないような悪化を見た。
  今日、われわれが新たな停滞の中にいるのはほとんど疑いない。ただし、この停滞は極めて異質だ。これまでの停滞局面は、悲劇的な出来事が引き金になっていた。 天安門民主化弾圧事件がそうだったし、1999年に米爆撃機ベオグラードの中国大使館を誤爆したこともそうだった。
 誤爆事件を受けて、中国当局が抗議デモを容認し、北京の米国大使館は投石された。 これに対し、いまの米中間の停滞は、もっと深い問題を反映している。
  現在、米中双方で幻滅感が広がりつつあるようだ。 米国の観点からすれば、中国とのエンゲージメントは、ニクソンや、その後の歴代米政権が希望し、予想していたような変化をもたらさなかった。
  米国の政策立案者たちは、いらだたしいパラドックス(逆説)を目の当たりにしている。 米国が膨大な自国市場を中国製品に開放したおかげで、中国の経済が華々しく躍進している時期に、ニクソンが指摘した古い憎しみが、かつてないほどに燃えさかっていることだ。 この間、中国の近隣諸国は、中国に威嚇されているとあらためて感じている。

  米調査機関ピュー・リサーチ・センターが今週発表した世論調査結果によると、領有権を主張する中国の侵略的な動きが戦争につながると懸念する人々が多くのアジア諸国で大多数に上っていることが判明した。
  中国の習近平国家主席は、昨年初め就任して以来、怨恨を伴うナショナリズムを強調している。 それは帝国主義的な列強の手で中国が「屈辱の世紀」を経験した無念を晴そうとするナショナリズムだ。
  そのナショナリズムが、中国は列強の前に屈していた時代に盗まれたと中国が信じる領土を奪還しようとする非妥協的な行動に駆り立てている。
  それは、戦時中に中国の宿敵だった日本との緊張を激化させており、米国主導の同盟関係を基盤とするアジア地域の現状に挑戦するほど中国を大胆にしている。
  それと同時に、法の支配と個人の権利に向けた進歩は、逆方向に押しやられたと多くの西側法律専門家は言う。
   一方で中国は、米国が共産党政権の正統性を受け入れることは決してないと、かつてないほどに強く確信するようになっている。
  中国の指導者たちの目には、米国が中国が台頭し続けるのを阻止しようと躍起になっていると映るのだ。
  それ故、先週北京で開催された米中戦略・経済対話が重苦しいムードに包まれていたことはほとんど驚きではない。この会議では兵器拡散から気象変動まで、あらゆることが討議される。
   最近、米中双方は戦略的なライバル関係が武力紛争につながる危険を率直に話すようになっている。 戦略・経済対話に参加したケリー国務長官は、北京の聴衆を前に、武力紛争が「不可避なものではない」と述べ、「選択の問題だ」と付け加えた。
  しかし、エンゲージメントへの熱意が冷めるなかで、建設的な関係のための選択肢は次第に狭くなっているのだ。(米ウォール・ストリート・ジャーナル BY Getty Images)