多くの投資家が想定し始めているのは、たとえ米経済が自律的で持続可能な拡大局面に入ったとしても、欧州はずっと停滞したままか、景気後退に陥るという事態だ。

サウジアラビアが米国のシェールオイルの採算性を損なおうと決めているのは明らかで、これに反応する形で原油は6月終盤以降で約30%値下がりした。
欧州連合(EU)の政策担当者が妥当な対策の実行で合意しようとする意思、ないしは能力を欠いている。
・米国では経済成長が加速しつつある半面、利上げの予想時期は来春から来年9月もしくはそれ以降に後ずれしている。
・多くの投資家が想定し始めているのは、多くの投資家が想定し始めているのは、たとえ米経済が自律的で持続可能な拡大局面に入ったとしても、欧州はずっと停滞したままか、景気後退に陥るという事態だ。








〜〜〜関連情報<参考>〜〜〜
市場はなぜ米国の好材料を無視するのか    
古澤襄  2014.10.19
■ロイター・コラムでアナトール・カレツキー氏が論評
[16日 ロイター]われわれが断言できることの1つは、15日午前のニューヨーク株急落を引き起こしたのは予想よりやや低調だった9月の米小売売上高ではなかったという点だ。  米国の大半の指標はニューヨーク株が最高値をつけた9月19日以降、実際のところはかなりしっかりしている。
 だから2011年以来の大幅な株安をもたらした経済的な理由を見つけ出すために、われわれは他の2つの要素について考える必要がある。
  1つ目は原油価格の急落。 サウジアラビアが米国のシェールオイルの採算性を損なおうと決めているのは明らかで、これに反応する形で原油は6月終盤以降で約30%値下がりした。
  原油安は一般的には世界経済にとって、そして石油会社以外のほとんどの企業にとって有益だ。 しかし現在資源株から逃避している投資家が資金を航空や小売、自動車製造といった他の産業に戻すには時間がかかる。 このローテーションが起きるまで、主要株価指数原油急落に足を引っ張られ、そうした動きは過去2週間でほぼ毎日、特に引け間際の1時間に目にすることができている。
 原油安が株価急落の主な理由ならば、大した問題ではない。 だがより大きな不安の種がある。 そう、欧州だ。 欧州経済が明らかに弱いというだけにとどまらず、欧州連合(EU)の政策担当者が妥当な対策の実行で合意しようとする意思、ないしは能力を欠いている。
  欧州経済の低迷は、ウクライナ危機の最中から既に分かっており、欧米による対ロシア制裁が、欧州の見通しを語る上で数少ない明るい部分だったドイツ製造業の成長腰折れにつながった。
 ただ投資家や企業経営者は、制裁に絡むドイツ経済の減速をそれほど懸念してはいなかった。
 というのも欧州の政治家や中央銀行当局者は、米国を過去5年間で見舞われたいくつかの「軟調局面」から脱出させたとの同じような景気刺激策を打ち出すと想定していたからだ。
 こうした政策期待を背景に、世界全体と米国の株価はこの夏、欧州から悪いニュースが出てきても最高値更新を続けた。
  2008年以降のほとんどの期間では、米国経済が問題なく推移している限りにおいては、欧州のみじめな経済状況が投資家を悩ませたと思い当たる節は見受けられなかった。
 ユーロ危機が最も深刻化していた時点でさえ、世界の株式市場の値動きに対する影響力としては米経済指標の変動や米連邦準備理事会(FRB)の政策の方が、ギリシャやイタリアにで起きつつあった事態や欧州中央銀行(ECB)の姿勢よりも大きかった。
 ところがここ数週間は、欧州発の悪いニュースが突然、米国からの総じて良いニュースよりもずっと強い影響力を持ちつつあるようだ。
 米国では経済成長が加速しつつある半面、利上げの予想時期は来春から来年9月もしくはそれ以降に後ずれしている。

■どうしてこうなってしまったのか。
  以前の当コラムで、わたしは米経済と世界の株価の連動した動きは、米金融・財政政策のデモンストレーション効果だと説明してきた。
 08年の経済危機に米国が量的緩和、事実上のゼロ金利、未曾有の財政赤字という形で先駆的に対応してきたので、投資家は米国におけるこれらの政策の成否が最終的に他の世界に波及するとみなした。
  米経済が持続的な拡大基調をたどっているように見える場合は、他の世界も1年か2年遅れて同じ道のりを進むと考えるのが合理的に思われた。  一方で昨年冬、あるいは2011年や12年の夏のように米経済成長が予想外に不振となれば、投資家や企業は世界の先行きについて悲観に転じた。
  結局のところ、もし米国が3兆5000億ドル規模の量的緩和や5年に及ぶゼロ金利国内総生産(GDP)の10%にもなる財政赤字を駆使しても景気後退から抜け出せなかったとしたら、同じたぐいの刺激策とはいえ米国に比べると中途半端なものしか実施していない他国にとって、何の希望も持てなかっただろう。
  実際には米国の成長をめぐる懸念が一時的な要因によると判明するたびに、強気心理が復活。  それはウォール街だけでなく、欧州や新興国にも及び、根底には金融・財政面の刺激策が米経済に有効であると証明されたなら、他の政府や中銀もいずれ同様の政策を行って米国のような好結果を生み出すとの考えがある。
  もっとも今や、こうした関係性は壊れてしまったようだ。 投資家はECBが2日のドラギ総裁の会見で、FRBの事例を踏襲した大胆な金融緩和を発表し、同時に欧州の銀行システムに対する信頼性に足る資本増強策も打ち出されると期待していたのに、ECBはこうした期待をひどく裏切ってしまった。
  世界的な株安はその翌日に始まった。 それでもドイツ政府は自らの外交政策と欧州で財政緊縮を進めることが経済的にはマイナスであるにもかかわらず、そして国内製造業は対ロシア制裁に足を引っ張られているにもかかわらず、なおもフランスやイタリアに目先の歳出削減を要求している。
  欧州は米国の景気回復に向けた行程表を受け入れるのを頑なに拒絶しているのではないかとまで見えるようになった。  そうなれば、米経済の持ち直しはもはや欧州の景気回復の先行指標と考えられなくなってしまう。
 これにより、世界経済の見通しはずっと弱々しくなり、ユーロ圏における金融危機再燃の可能性は大幅に高まった。

  多くの投資家が想定し始めているのは、たとえ米経済が自律的で持続可能な拡大局面に入ったとしても、欧州はずっと停滞したままか、景気後退に陥るという事態だ。  そこで世界経済と世界的に事業展開する企業の先行きは、欧州が米国の政策にならうとみなされていた数カ月前の想定よりもはるかに暗くなっていく。  とはいえ、欧州は本当にそれほど愚かなのだろうか。
 その答えは間もなくはっきりする。 欧州委員会は29日、フランスとイタリアの予算案に対する評価を公表し、26日のウクライナ議会選(訂正)は自己破壊的な制裁をやめる機会を提供するだろうし、11月6日にはECBが次回理事会を開催する。
 それゆえにわれわれは今後1カ月以内に、欧州が自らを救い出すか、あるいは米国の政策がもたらした教訓を無視して世界経済に害を与えるのかを知るはずだ。  上記した欧州のベントにおけるそれぞれの決断が恐らくは現在の株安が買い場になるか、1987年のような大暴落になってしまうかを左右するだろう。

  筆者はロイターのコラムニストです。 本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

■アナトール・カレツキー氏は受賞歴のあるジャーナリスト兼金融エコノミスト。1976年から英エコノミスト誌、英フィナンシャル・タイムズ紙、英タイムズ紙などで執筆した後、ロイターに所属した。
2008年の世界金融危機を経たグローバルな資本主義の変革に関する近著「資本主義4.0」は、BBCの「サミュエル・ジョンソン賞」候補となり、中国語、韓国語、ドイツ語、ポルトガル語に翻訳された。世界の投資機関800社に投資分析を提供する香港のグループ、GaveKal Dragonomicsのチーフエコノミストも務める。(ロイター)