・竹島、尖閣、北方等の領土問題や南京事件、慰安婦問題など歴史認識に関わる争点を扱った著作は数多いのに「国内消費用」にとどまり、海外向けに英訳されたものはほとんど見当たらない。

・外務省には局長級の外務報道官(女性)と副報道官、広報文化外交戦略課等が、内閣官房にも広報官の下に国際広報室があるが、その姿や仕事ぶりが報じられた例は皆無に近い。
・英訳広報事業を重視せよ!
竹島尖閣、北方等の領土問題や南京事件慰安婦問題など歴史認識に関わる争点を扱った著作は数多いのに「国内消費用」にとどまり、海外向けに英訳されたものはほとんど見当たらない。
・臆病すぎる官僚的な対外広報なら、何もしないほうがまだましと言われないようにされたし!








〜〜〜関連情報<参考>〜〜〜
2014.11.13 05:02更新   【正論】
戦略的な広報外交の強化必要だ 現代史家・秦郁彦

 産経新聞前ソウル支局長が、朴槿恵大統領の名誉を毀損(きそん)するコラムを書いたかどで、出国禁止のうえ、10月8日に在宅起訴されてから1カ月が過ぎた。 内外のマスコミから非難の声が起きたが、日本政府や与党は相変わらず弱気で、解決のめどはつきそうにない。
 菅義偉官房長官は「民主国家としてあるまじき行為」と批判したが、その後は沈黙を続けている。
 10月25日にソウルで開催された日韓議員連盟額賀福志郎会長)は共同声明で、河野洋平官房長官談話、村山富市首相談話を継承し、「その精神にふさわしい行動をとる」と宣言したが、朝日報道によれば、日本側原案にあった支局長問題は「韓国側の反対で盛り込まれなかった」とされ、額賀氏は記者団に「時間がなかった」と言い訳したようだ。
≪ソフトで毅然…米報道官≫
 この数カ月、舛添要一東京都知事森喜朗元首相、額賀氏が立て続けに朴大統領と面談している。 いずれも安倍晋三首相とのトップ会談を実現するための露払い役だったようだが、色よい返事はもらえなかった。
 額賀氏に至ってはトップ会談を呼びかける首相のメッセージを伝えたところ、「(過去の会談では)かえって関係は後退した」といなされ、「(元慰安婦の)名誉を回復し、納得できる措置を」と意味不明の要求をつきつけられてしまう。
 大統領にしてみれば、何度も「求愛」をはねつけているのに、「日本の政治家はなぜすり寄ってくるのか」と気味悪がっているかもしれない。
 すり寄るのは日米韓同盟を壊したくないアメリカの意向に沿ってのことと推測する向きもあるが、そのアメリカはテレビで顔なじみのサキ国務省報道官が、直後の記者会見で「韓国における表現の自由を懸念する」と表明、翌日にも国別人権報告書を引用しつつ、「米国政府がソウルの外交ルートを通し韓国側に照会している」と述べた。
 内政干渉にならぬよう一線を画しつつも、米国の国家意思をとりあえず若い女性報道官のソフトだが毅然(きぜん)とした口調で伝える心憎い対応と感じいった。

≪アピール対象は国内だけ?≫
 彼女だけではない。 各国でもテレビ映りが良くユーモアやウイットを交えて語りかける広報官や報道官を活用しているのに、わが国のテレビで見かけるのは菅官房長官に限られる。  手堅く失言はしないとはいえ、愛想や愛嬌(あいきょう)に乏しく、アピールの対象は日本人だけと見受ける。
 対外広報に従事しているスタッフがいないわけではない。調べてみると外務省には局長級の外務報道官(女性)と副報道官、広報文化外交戦略課等が、内閣官房にも広報官の下に国際広報室があるが、その姿や仕事ぶりが報じられた例は皆無に近い。
 新聞報道によると、さすがに慰安婦問題などで対外発信力の弱さを痛感した政府は、内閣の対外広報予算を大幅に増額する予定だという。過去の実績では在米ロビイストの雇傭(こよう)、ジャパン・デーのイベントや展示、ジャーナリストや学生の訪日等に使われてきたようだが、筆者は日本語文献の英訳事業を重視すべきだと思う。
 従来は無難な茶道、華道、歌舞伎のような伝統文化の紹介が中心で、竹島尖閣、北方等の領土問題や南京事件慰安婦問題など歴史認識に関わる争点を扱った著作は数多いのに「国内消費用」にとどまり、海外向けに英訳されたものはほとんど見当たらない。
 たとえば南京事件について知りたい外国人は、悪名高いアイリス・チャンの『ザ・レイプ・オブ・ナンキン』を読むしかない。
 また慰安婦問題の文献は、吉見義明・中央大教授が1995年に刊行した『従軍慰安婦』(岩波新書)の英訳版と、昭和天皇に有罪判決を出した女性国際戦犯法廷の判決記録ぐらいしかない。
 吉見著の英訳版(コロンビア大学出版局刊)には、「日本軍の性奴隷制(sexual slavery)」という副題を追加したように、自虐調の度が強すぎる。

≪臆病すぎては逆効果に≫
 望ましいのは事実経過を軸に左右を問わぬ諸情報を盛り込んだ百科全書風の学術的著作(脚注・索引付き)を選定して、商業ベースで米英の一流出版社から刊行することだろう。 評価は読者に委ねたいが、心配症のお役人が介在すると逆効果になりかねない。
 1年半ばかり前になるが、内閣国際広報室から拙著の『慰安婦と戦場の性』(新潮社、1999年刊)を英訳したいとの要望があり筆者も応諾し訳者も内定したところへ、新任の長谷川広報官から、首相の意向をちらつかせながら「刺激的」な部分を大幅に削除するよう要求された。
 この人なら漱石や鴎外の翻訳でも同じ注文をつけそうな見識の持ち主と推察されたので、私の方からご破算にしてもらった。
 臆病すぎる官僚的な対外広報なら、何もしないほうがまだましと言われないようにしたいものである。(はた いくひこ)